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依存少女  作者: かなん
10/22

十 久しぶりの朝ごはん

十話、キリがイイという事で最初のヒロインに焦点を当ててみました。

読んでいただけたら、嬉しいです。


 簡素なアラームが俺の意識を持ち上げる。

 ゆっくり目を開けると、薄い暗闇の中で俺を見つめる二つの瞳と目があった。

 数日前から、半同棲状態になっている少女、真夜である。


「あ、起きましたか?」

「・・・近い」


 上半身も起こさず、スマホのアラームを止める。

 寝返りをうって真夜の方を向くと、彼女はまだ俺の顔を眺めていた。

 

「あんた、何時に起きた?」

「大体、六時くらいです」


 スマホの時刻を確認する。現在は七時半だ。


「何してた?」

「一ノ瀬さんの顔を眺めてました」

「・・・」


 最近、感覚が麻痺してきていたが、改めて彼女の異常さに目眩を覚える。


「顔洗うわ」


 身体を起こすと、低血圧故に視界がぐらつくが、何とか耐えて洗面台に向かう。


「そういえば、朝ごはんは食べないんですか?」

「あー、まあな・・・面倒いし」

「もしよかったら、パンを焼くので食べませんか?私も食べますから」

「別にいらん・・・てか、そろそろ家出るし」


 タオルで水を拭き取り、部屋に戻ると、真夜がカーテンを開けた。目の眩むような朝日が部屋に差し込み、フロアに反射した朝日に目を細める。

 

「朝ごはんは食べないと健康に悪いですよ」


 言いながら彼女が鞄から昨日買っていたパンを出すが、そろそろ家を出ないと学校に間に合わないのも事実だ。

 適当に聞き流しながら、着替えようとして女性が同じ部屋にいる事に思い至る。


「着替えるから、廊下に出ろ」

「え?構いませんよ?」

「俺が構うんだよ、おら、さっさと行け」


 部屋から彼女を追い出し、干しっぱなしにしてある服を適当に着る。

 すると、廊下から真夜に呼ばれた。


「あの、トースターって何処にありますか?」

「炊飯器のある棚、上から二番目」

「あ、見つけました。ありがとうございます」

「・・・おい、俺の分はいらんからな?」

「駄目です、ちゃんと食べましょう」


 彼女の事だ、勝手に作りかねないと思い、廊下に顔を出すと、案の定、彼女は一人で食べるには多過ぎるパンを皿に乗せていた。



 一限を諦める事を決めれば、時間の余裕はそれなりにある。パソコンでニュースサイトのスライドショーを流しながらパンに齧り付く。


「この家ってテレビ置かないんですか?」


 不思議そうに真夜が聞いてくる。

 

「必要ねえからな」

「・・・その、テレビ、嫌いなんですか?」


 元々、テレビ画面の向こう側で活躍していた彼女が不安そうに尋ねてくる。ここで嘘を吐いても仕方がない為、正直に答える。

 

「まあ、好きでは無いな」

「そうですか・・・」


 目に見えて落ち込むのはやめてほしい。

 俺が悪いわけでも無いのに、気まずくなる。


「あー、まあ、あれだ。別にエンタメそのものが嫌いな訳じゃねえから、今度、あんたらの曲とかも聞いてみるよ」

「っ・・・じゃあ、今度・・・いいえ、今日、一ノ瀬さんが帰ってくるまでに、家にあるCD持ってきますね。サンプル用のがありますから」

「ああ、期待しとくよ」

「楽しみにしていてくださいね?」


 目に見えて機嫌の良くなった真夜は、続けて何かを見つけたのか、ニュースサイトのサムネイルを指さす。


「あ、これです。このドラマですよ、椿さんが来るの」


 それは、学園サスペンスもののドラマだ。

 主演女優『ユリ』、彼女も確か、『Six』のメンバーであった筈だ。


「じゃあ、椿ってのが、『Six』のユリなのか?」

「はい・・・もしかして、会ってみたかったりします?」


 話している最中に突然、闇のオーラを出すのはやめてほしい。

 不穏な空気をヒシヒシと感じ、ため息混じりに答える。


「別に・・・そもそも、秋音にも、俺は会いたくは無かったよ」

「そう、ですよね」


 どうやら、俺の返答は正解だったらしい。


 その後、食べ終わった食器を流しに置いて、薄っぺらい鞄を持ち上げる。いい加減、学校に行かないとまずい。流石に二時間目までサボるとなると、余計にめんどくさい事になる。


「あ、待ってください」


 さっさと学校に行こうとすると、真夜に後ろから抱きつかれる。


「何してんだ?」

「最近、自覚が足りないからです」

「何の?」

「私を助けた事の、です」


 真夜は同性の同年代と比べても力がある方では無い。

 だが、それを振り解くのは容易では無かった。


「分かってると思いますけど、私、凄いめんどくさいんです」

「・・・だろうな」

「ちょっと気分が落ちれば死にたくなりますし、それで迷惑を掛けて、一ノ瀬さんに構ってもらうのが嬉しい、そんな歪んだ人間です」

「・・・」

「そんな私を助けたんです・・・責任、取ってくれなきゃ、あることないこと言いふらして、死んじゃいますから」


 そう言うと、彼女はゆっくりと俺から離れて微笑む。


「じゃあ、行ってらっしゃい」


 その姿はまるで、仕事に行く夫を見送る妻のようであった。

 


 


 


 





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