笑わない巫女少女と笑わせたい鬼8
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だぁぁぁん!!
大鬼の執務室で机を叩くような音が響いた。
白音は、“またか”と呆れてしまう。
「……はぁ。それで?そんな深刻な表情をして、どうなさったんです?」
「大変なことになった……よく聞け、白音」
おや?もしかして、真面目な話だったか?白音は主人を卑下してしまっていたことを内心反省しては書類を抱えて近寄った。何か重大なことが起きたに違いない。
「——なでしこが、可愛いすぎる」
「——うん。仕事しろ、仕事」
黒い笑顔を白音は浮かべた。胸焼けしそうだ。
「急ぎ、する必要はないであろう?それよりも、なにかないのか。撫子の笑顔が見られるような提案は」
「……だぁぁぁぁあもう!しごとおおおお!来年度の予算編成や役人の再編、昇格、あんたがやることはいっぱいあるですからね!?」
まったく……どうしてこうも人間の少女如きに。なんて心の中でぼやいてしまった白音は、ズキズキと痛む頭を揉み解す。
「はいはい、考えておきますよ」
「うむ!頼りにしている、白音」
主人からの信頼を寄せる笑顔を受けて、白音の口角がヒクリと痙攣した。
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「え?」
縁側でお菓子を口に深めていた撫子が、口から物が出ないように手で蓋をした。
急に白音から言われた言葉に、撫子は直ぐに反応を取れず、聞き返してしまい、なんのことだろうと、首を傾げる。
大鬼と執務室で会話をした白音はその後、撫子の部屋へと訪れていた。お菓子の差し入れを持って。
「ですから、撫子様は何故、笑顔をお見せにならないのですか?とお尋ねしました」
白音は、こうなれば本人に聞くしかあるまいと姿勢を正して真剣な顔でもう一度尋ねた。
きっと、この少女が笑みを一度浮かべれば、主人の興味も失せるはずなのである。
……もしや、大鬼様からの庇護が狙いか?
「……えっと……」
白音が探りを入れる中、撫子がお菓子を飲み込んで言い淀む。返答を考えているようだった。
「——え……。急に聞かれても。困る……」
少女自身に、無表情の自覚が全くないという大きな壁が発見された。