笑わない巫女少女と笑わせたい鬼7
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大鬼は、オロオロと狼狽しているようだった。少女のことを上から下まで念入りに目で確認する。
「撫子。大事ないか?どこを怪我したのだ?嗚呼!手が擦りむいているではないか!」
「……いえ、だいじょ、」
「そんなわけなかろう!!」
「うぶ……で、ないかも、しれません……」
少女の手のひらへ、自分の着物を切り離して巻いていく大鬼。撫子は、善意を断ろうと首を横に振ったが、彼に言葉を重ねられると、小さく縦に首を頷かせた。
「さあ、皆そなたを待っている。帰るぞ撫子」
「……!あ、あの……大鬼さま」
ヒョイっと大鬼の脇に抱えられた撫子が、泳ぐように手足をばたつかせた。これではまるで、信用がない小さな子供のようではないかと思う。
「暴れるな撫子。危ないぞ」
「——わかり、ました……」
不服そうな撫子を抱え、大鬼は白音と紫を待たせている場所へ向かうとした。
「まあ!大鬼様?そのように持ち運んでいては、まるでその子が犬や猫のようですよ?」
「まだ何かあるのか雪姫」
「あら、酷い物言いをなさるのですね」
口元を着物で隠すと、雪姫がヨヨッと切なそうに泣き真似をする。
撫子は雪姫の金眼を視認すると、彼女がどこかの妖の里を束ねる長なのだとわかった。妖の長は、その特徴として金眼が引き継がれているらしいということを、こちらに来てから白音に教えてもらったのだ。
「それで……こちらの方が」
「!」
美麗な雪姫に目を向けられ、撫子の肩が跳ねる想いをしてしまう。一瞬、今は柔和な雪姫の顔立ちが、氷のように冷たく、氷柱のように尖っていた気がした。
「そうですか。はじめまして可愛い方。雪族の長、雪姫と申します。以後、お見知りおきを」
「あ、はい……。私は、撫子、です。よろしくお願いします?」
未だ大鬼の脇に抱えられている撫子の片手を、雪姫の両手が取る。雪女だからだろうか、恐ろしいほどに冷たい手だった。
「うふふ、仲良くしてくださいね撫子さん」
「は、はい……」
撫子は、雪姫をなんと呼べばいいのか分からず口ごもった。
「ふふ。雪姫でよいですよ?」
「そ、そんな……わけ、にも。雪姫様」
「雪姫」
雪姫が、顔を撫子に近づける。否を認めない表情に、撫子はたじろいでしまう。
「雪姫さま……」
「雪姫」
「ゆ、雪姫さま」
「———中々に強情ですね。撫子さん」
ぐぬぬっと通らない提案に、雪姫が顔をしかめた。
「ふん、当然であろう」
「なぜ、あなたが自慢げなのか聞いてもよろしくて?」
片眉を上げた雪姫。大鬼の胸元に人差し指を突き付け、彼を見上げる。
「失礼いたします。雪姫様。お時間です。お父上がお待ちですよ」
「兵介。貴方、間が悪いですよ」
「申し訳ありません。さあ、行きましょう」
共のものに声をかけられ、雪族の長はもう時間なのか残念だとため息をつく。
「どうやら、ここまでのようですね。撫子さん、またお会いしましょうね」
「は、はい……」
撫子は、平たい雪姫の笑顔に戸惑いながら頷いた。その後、大鬼と撫子は側近たちと無事に合流することとなった。