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笑わない巫女少女と笑わせたい鬼7

 

 *


 *

 *



 大鬼は、オロオロと狼狽しているようだった。少女のことを上から下まで念入りに目で確認する。


「撫子。大事ないか?どこを怪我したのだ?嗚呼!手が擦りむいているではないか!」


「……いえ、だいじょ、」


「そんなわけなかろう!!」


「うぶ……で、ないかも、しれません……」


 少女の手のひらへ、自分の着物を切り離して巻いていく大鬼。撫子は、善意を断ろうと首を横に振ったが、彼に言葉を重ねられると、小さく縦に首を頷かせた。


「さあ、皆そなたを待っている。帰るぞ撫子」


「……!あ、あの……大鬼さま」


 ヒョイっと大鬼の脇に抱えられた撫子が、泳ぐように手足をばたつかせた。これではまるで、信用がない小さな子供のようではないかと思う。


「暴れるな撫子。危ないぞ」


「——わかり、ました……」


 不服そうな撫子を抱え、大鬼は白音(しお)と紫を待たせている場所へ向かうとした。


「まあ!大鬼様?そのように持ち運んでいては、まるでその子が犬や猫のようですよ?」


「まだ何かあるのか雪姫」


「あら、酷い物言いをなさるのですね」


 口元を着物で隠すと、雪姫がヨヨッと切なそうに泣き真似をする。

 撫子は雪姫の金眼を視認すると、彼女がどこかの妖の里を束ねる長なのだとわかった。妖の長は、その特徴として金眼が引き継がれているらしいということを、こちらに来てから白音に教えてもらったのだ。


「それで……こちらの方が」


「!」


 美麗な雪姫に目を向けられ、撫子の肩が跳ねる想いをしてしまう。一瞬、今は柔和な雪姫の顔立ちが、氷のように冷たく、氷柱のように尖っていた気がした。


「そうですか。はじめまして可愛い方。雪族の長、雪姫と申します。以後、お見知りおきを」


「あ、はい……。私は、撫子、です。よろしくお願いします?」


 未だ大鬼の脇に抱えられている撫子の片手を、雪姫の両手が取る。雪女だからだろうか、恐ろしいほどに冷たい手だった。


「うふふ、仲良くしてくださいね撫子さん」


「は、はい……」


 撫子は、雪姫をなんと呼べばいいのか分からず口ごもった。


「ふふ。雪姫でよいですよ?」


「そ、そんな……わけ、にも。雪姫様」


「雪姫」


 雪姫が、顔を撫子に近づける。否を認めない表情に、撫子はたじろいでしまう。


「雪姫さま……」


「雪姫」


「ゆ、雪姫さま」


「———中々に強情ですね。撫子さん」


 ぐぬぬっと通らない提案に、雪姫が顔をしかめた。


「ふん、当然であろう」


「なぜ、あなたが自慢げなのか聞いてもよろしくて?」


 片眉を上げた雪姫。大鬼の胸元に人差し指を突き付け、彼を見上げる。


「失礼いたします。雪姫様。お時間です。お父上がお待ちですよ」


「兵介。貴方、間が悪いですよ」


「申し訳ありません。さあ、行きましょう」


 共のものに声をかけられ、雪族の長はもう時間なのか残念だとため息をつく。


「どうやら、ここまでのようですね。撫子さん、またお会いしましょうね」


「は、はい……」

 

 撫子は、平たい雪姫の笑顔に戸惑いながら頷いた。その後、大鬼と撫子は側近たちと無事に合流することとなった。



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