笑わない巫女少女と笑わせたい鬼4
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大鬼は、お菓子作戦で少女を笑わせる方法がもう尽きかけていることに気がついていた。
だが、着物などを送っても喜ばないだろうという側近の意見には賛同するしかない。
本を送ったこともあった。
少女はお礼を言うのみで、大切にはしてくれているそうだが……結局、少女の笑顔を引き出すことはできなかった。
あの少女は、何をしたら笑ってくれるのだろうか。
「なぁ、白音」
「はい、なんですか?大鬼様」
執務室の書類が山積みになった机に肘をついて真剣な顔をしている大鬼の姿があった。重々しく口を開く。
「……おい、俺は……嫌われておるのだろうか……」
「あんた、そんな神妙な面持ちで、執務室に篭ってなに言ってるですか?」
彼の側近である白音は、大きな巻物を抱えながら呆れ顔でため息混じりにそう言った。
大鬼は、頭を抱えながら項垂れる。
机の上に置かれた資料がばらばらと散らばった。
やはり最初出会いがまずかったのだろうか。
季節は既に春から夏、そして秋に向かおうとしているのだが……一向に少女は笑う気配がなかった。
「……はぁ。大鬼様はどうしてそこまで、少女を気にかけるので?人間の寿命は我々より短い。貴方様はもしかしたら、もう一人くらい花嫁を迎えるやも知れないのですよ」
「はぁ?何を言っているか。もう要らんぞ?」
側近は、苦虫を潰したような顔を向けながら、散らばった書類を拾い集めていく。
「……そーですか。で?なぜあの少女にそこまでご執心に?」
「……目を見たのだ……。何も映っていない、真っ黒な瞳を……俺はな、白音。あの時、おののきそうになったぞ。あんな女ははじめてだ。俺を見てもあの心意気、そして深い闇。ならば俺が笑わせてやろう!!そう思ったまでよ」
「……はぁ。同情は嫌われますよ?」
あーあ、こんなにバラバラにしてくれやがってと側近は文句を呟きながら書類整理を始めていく。
「はん!同情?俺は、あの目に惚れたのだ。同情なんぞで括られてたまるか。あれは強いぞ?」
「……はいはい、もうわかりました。ほら、さっさと仕事してください。あんたのハンコが必要な書類が溜まってるんだから」
その頃、撫子は、庭を眺めていた。昼間だというのに空には二つの月が浮かんでいた。
「なでしこ様。お茶はいかがですか?」
女房の紫が優しく、背後から声をかけた。
「……大丈夫……」
ぼんやりと撫子は空を見上げていた。
紫はもしや故郷が恋しく、悲しいのだろうかと、少女の心中を感じ取ろうとしては側まで寄った。
「……何を、お考えなのでしょうか?」
「今まで、こんな風に……お庭を見ることはなかったから……。ここは、美しいところ、だね」
紫は微笑む。
少しは此方の世界に慣れてもらえたような気がして。
「左様でございますか。よう、ございました」
今日は、朝からずっと大鬼が撫子の元へ訪ねてこない珍しい日だった。
少女は、ふと、月を見つめながら大鬼の姿を思い浮かべたのだった。