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笑わない巫女少女と笑わせたい鬼

間違えて短編で出してしまったので、投稿し直しました。

連載だけれど、そんなに長くはないかもしれません

 


 *

 *


 *



——— 時は平安。人々は、妖たちを恐れ敬い、奉った。妖たちの異界と人間の世界に線を引いてしまうほどに。

 今宵、妖の異界へと送られる、たった独りの小柄な少女はその線を守るための巫女であった。


 水面に映るは夜空に孤高に輝く月の鏡像。

 ひらりひらりと水辺に植えられた桜の木から、淡い桃色の花びらが溢れて水面にたゆたう。


 今は夜。

 月明かりと灯籠だけが、橋の上を照らしていた。


 一人の少女が橋の上を渡る。

 少女は選ばれた。妖と人間の架け橋に。


 シャン。


 シャン。


 シャン。


 足首には金の足輪(アンクレット)。手首には金の腕輪(ブレスレット)


 少女が歩む度に、それぞれの輪に付けられた鈴が鳴る。


 シャン。


 ゆっくりと歩むその素足を、ひんやりとした橋の木板の冷気が包んでいく。


 シャン。



 シャン。



 少女は、高価で豪華な白い着物を見に纏い、中には桃色の内衣。花のように結ばれた帯は朱。シルクの羽衣。

 唇には真っ赤な紅。


 そして銀の角が装飾された白い覆面を被る祭司が、桜の木のような傘を少女にさし、共に歩む。その場の者は誰も喋らず。他の祭司も同じ白い覆面を付けて橋の背後に控えている。


 シャン


 少女は進む。


 向かうは湖にぷかりと浮かんでいる小さな島。

 そこには赤い鳥居が建っているだけ。


 シャン。


 橋の先端で、少女は止まった。


 橋と島は完全についておらず、着物が足まである状態で、少女は少しだけ大きく足を踏み出さなくていけない。


 シャン。


 ぴょんっと小鹿のように跳ねた少女は島に辿り着く。


 傘を持った祭司は付いてくる気配はない。


 此処から先は、少女だけが進むことを許されている。

 だが少女は振り返ることは許されていない。それは祭司だけに許されていること。


 何も考えてはいけない。

 何かを考えることを許されてはいない。


 それでも、少女の頭に最後に過ぎったものは。

 ふと、空を見上げたからだろうか。

 遠い昔の人が書いた、月の姫の物語だった。


 島の上に唯一存在した鳥居を抜けようとすると、風が吹き、桜の花びらが散って水面に浮かぶ。


 風を受け、僅かに目を閉じた少女はやがて、ゆっくりとその瞳を開けた。


 ——目の前に広がるのは妖想郷の鬼の里。

 煌びやかな寝殿造の屋敷が、少女を待っていた。


「よく来たな!おぬしが俺の花嫁か!」


「……」


 大剣を持った赤髪金眼の鬼の男が、他の鬼とともに、少女を出迎えた。

 少女は何も話さない。


「おい、何も話せぬのか?それとも……俺を馬鹿にしているのか?!」


「いけません!!大鬼様!」


「黙れ!」


 風を切り、男が振った大剣の剣先が少女の首元に当たる。


「……」


 少女は微動だにしない。

 大鬼が見た少女の目には、真っ暗な闇が映っているだけだった。

 何も考えてない。だから何も映るはずがない。

 その目を見た大鬼のほうがひるでしまいそうになる。


「……決めたぞ。おぬし、みておれ……。俺が!!直々に笑わせてやろうぞ!!!」


「……あの?」


 少女は、眠たそうな、ぼーっとした表情を僅かに不思議そうな表情に変えた。

 


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