第十五話
ーーDAY4ーー
今日は日曜日で、みんなお休み。
唯と奈月は朝から嬉しそうに出かけて行った。
今までは友達と遊びに行くといってもお金がなかったから行けなかったのだろう。
そんな唯や奈月を見て、私も朝からほわほわした気持ちになった。
「美穂ちゃん、今日は何か予定ある?」
私は少し考えてから答えた。
「ううん、無いよ。何かあるの?」
夫が少し照れたように頭をかきながら、
「じゃあ、家事を2人でパパっと片付けてお散歩デートでもどうかな?せっかく2人きりだし。」
私はそれがすごく新鮮で嬉しくなった。
「いいわね、行きましょう!」
私が言うと、夫はホッとして、
「良かった〜。実は中学生みたいって断られるかと内心ヒヤヒヤしてたんだよ。」
それから2人で家事をし(2人でやるとこんなに早いんだと感動した)近所の少し大きな公園へお散歩へ。この前夫が選んでくれた白のワンピースを着て。
「良いお天気ね。お散歩するのも気持ちが良いわね。」
「そうだね。今日は絶好のお散歩日和だね。」
だけど、さっきから夫が何かソワソワしているのが気になった。
「陽一さん、どうしたの?」
夫があたふたして「へっ…?いや、あのその、、、何でも無いよ。」と言っているが、何もないわけないのは明らかだった。
じっと待っていると観念したのか、夫は意を決して手を出した。
どうやら手を繋ぎたかったようだ。
私はプッと吹き出して笑ってしまった。それから、赤くなって違う方向を見ている夫と手を繋いだ。
公園へ着き、池の周りを「あれは何かな?」など言いながら散歩する。
(今までこんなほわほわする気持ち無かったなぁ。私、今すごく幸せだよ。)
と思っていると、視線を感じた。
周りを見渡すが、こっちを見ている人は見当たらない。でも、確実に感じる。
私はつい4日前までは人の視線や言葉に敏感だった。だから、この視線に気づけたのだと思う。
夫は全く気づく様子がない。
私がキョロキョロしていると、
「美穂ちゃん、どうしたの?何かあった?」
「ううん、なんだか視線を感じて…でも、気のせいね。行きましょう?」
嘘だ。あれから家に帰り着くまでずっと視線を感じていた。
しかも、なんだか嫌な感じのする視線だ。まるで悪意があるかのような…。
家の前でちょうど帰ってきた唯とばったり会った。
「お母さんとお父さん仲良いね〜。ずっと手繋いでたの?」とにこにこ聞いてくる。
「そうよ。久しぶりに楽しいお散歩だったわ。」
唯はとても嬉しそうにニコニコ笑っていた。
その日の夕食の時、奈月が、
「お父さん、実は明後日、市大会の打ち上げがあって、、、」
前の夫なら許されるわけがない。「中学生で晩飯食いに行くだとッ!!そんなヒマあるなら家の掃除でもしとけやッ!!」と言われるのがオチだ。
でも、今の夫ならどうなのだろう?と気になっていると夫はおもむろに立ち上がり、奈月の後ろまで歩いていく。
さすがに今の夫でもダメなのかな。奈月を助けないと!と思い、口を出す。
「あの、、陽一さん。奈月は今まで参加したことが………」
夫はテーブルをバシッと叩いた。奈月も唯も私も硬直してしまう。
しかし、次の瞬間、
「もちろん良いよ。友達付き合いは大切だからね。なーちゃん、これ良かったら遣ってね。」と笑顔で答えていた。
よく見るとバシッとテーブルを叩いたように見えたのは食事代を置いたようだ。
私たち3人はホッとする。一瞬、やばいのかとビクビクした。
「えぇっ!?良いよ、自分のお金から出すから。」
「良いんだよ、僕もなーちゃんが市大会で頑張ったの知ってるからね。遅くなりそうなの?僕にLINEしてもらえたら迎えに行くからね。」
奈月は俯いてしまう。そして、絞り出すような声で、
「スマホ…携帯………持ってない。」
夫は聞いた瞬間に驚いて、思わず大声で
「えっ!?どうして?なーちゃん今まで大丈夫だった?仲間はずれにされたりしなかった!?」
「う…ん……。お父さんが…必要ないって……。」
夫はショックよほどショックだったのだろう。「なんでだろう……僕そんなこと言ったのか……。」と独り言を言っている。
そして、おもむろに少し離れて、なーちゃんにむかって頭を下げた。
「ごめん、僕そんなこと言ってたなんて…ほんとに記憶無くて…中学2年生の女の子ならスマホは必需品なのに。」
奈月は慌てて、
「お父さんが悪いわけじゃないよ!!大丈夫だから。」
そう、悪いのは全て前の夫。今の夫は全く悪くない。
「そうだ!明日スマホ契約しに行くってのはどうかな?あ、でも部活あ……」
夫が最後まで言い終わらないうちに、奈月は顔を輝かせて、
「行くッ!!!部活休む!!」とほとんど叫びに近い返事していた。
夫も奈月の勢いに押されて「そ…そう。」それから気を取り直して「じゃあ決まりだね。」と言って笑顔になった。
(これは、きっと明日も奈月走って帰ってくるな〜)
「あの、お父さん私も……持ってない。」
唯が夫に告げる。
「唯ちゃんも!?ほんとにごめん。唯ちゃんも明日一緒に行ける?」
唯がパアッと笑顔になり、
「うんッ!!行く!!」と返事していた。
夫はハッとしてこっちを向き、
「美穂ちゃんは、、、さすがに持ってるよね?」
おそるおそる聞いてくる。
私はガラケーをテーブルの上に置き、
「大丈夫、携帯あるよ。」と言う。
でも、夫はガラケーにショックを受け、「僕はなんてことを……」と落ち込んでいる。
「ほんとに陽一さんのせいじゃないのよ。だから、落ち込まないで。」
夫は顔を上げ、夫の「じゃあ、明日みんなで行こうか。」という一言で決定した。
唯と奈月はお祭り騒ぎだ。夕食の手が止まり、「どのスマホにする!?」と、その話題に夢中だ。
私は「唯、奈月。夕食食べてからにしなさい。」と注意する。2人は、
「はぁい!」と返事し、夕食を爆速で終わらせ、きゃっきゃと言いながら仲良く二階へ上がっていった。
2人の気持ちは痛いほどわかる。周りの子はみんな持っててその話題ばかりだろう。なのに、自分たちはその話題に入っていけない。これがどれだけツラいことか……。
良かった。ほんとに良かった。こうして4日目は終わった。
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