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朝舞探偵事務所~妖魔のおもてなし~  作者: 空と青とリボン
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秋川しずく

「それにしてもファンクラブに入ろうとするなんて・・・。所長は今おいくつになられました?秋川しずくって今20代ですよね?もしかして所長って機会があれば付き合いとか思う口ですか?」

茜さんが軽蔑するような目で伯父を見ながら言った。すると伯父は急に真顔になって

「馬鹿もの。人を好きになるのに年齢なんて関係ないぞ。それにな、向こうは大女優だ。付き合いたいなんて恐れ多い。まぁ付き合うきっかけがあれば付き合ってもいいが・・・。」

伯父はしずくと付き合っている場面を妄想しているのか鼻の下がのびて実にだらしない顔をしている。下心丸出しだ。同じ男としてはその気持ちは分からないでもないけどこの人が親戚だと思うとちょっと情けなくなる。伯父さん、今年で59歳だぞ。

茜さんは呆れたような表情をしている。淳さんは何も言わず自分の机に戻った。何か言ったらまた茜さんの逆鱗に触れるかもしれないしね。

「そりゃあ人を好きになるのに年齢は関係ないけど、伯父さんとしずくさんが付き合う機会なんて1000%ないですから。絶対に絶対にありえません。ある日、月からうさぎがついた杵うすが発見されてそれを持ち帰ったNASAが餅をついて食べるぐらいにありえません。ちなみに餅はめでたいということで紅白餅です。」

「むむむ。そこまでないか・・・。」

伯父は本気でがっかりしている。分をわきまえていると言ったけど、あれ、前語撤回。

そこで茜さんが駄目押しをする。

「そうですよ。所長が二枚目俳優並みにかっこよかったらまだ見込みはあったかもしれないけど。第一しずくはまだ20代でしょ?20代の女性と付き合いたいなんておこがましいにも程がありますよ。」

「お、茜ちゃんそれは違うぞ。秋川しずくは37歳だ。」

「え?37歳?どうみても20代にしか見えませんね。」

茜さんも俺も秋川しずくがもう40歳手前ということに驚いた。

「まぁな。女優やアイドルはいつまでも美しく若々しいからな。金はたくさん持っているんだ、美貌と若さを保つためならなんだってやるだろうな。」

「伯父さんは好きな女優さんに対して割とシビアな感想持っているんですね。」

「私がしずくを好きになったのはその美しい外見ももちろんだがそれだけではないぞ。」

伯父の意外な言葉だった。

「しずくのあの気高さ、色気、芯の強さ、何よりも他を寄せ付けない孤高のオーラが私を惹きつけるのだ。」

伯父に言われてしずくの姿を思い浮かべた。確かに秋川しずくが漂わせる圧倒的な女優オーラはテレビ画面越しでも伝わってくる。37歳にしてあのオーラを漂わせる女優は他にはなかなかいない。それに演技力も確かなものがあって。長い黒髪を振り乱して怒りを露わにするシーンをテレビで見た時はその美しさと相まってこちらの鳥肌がたったぐらいだ。美しさと実力を兼ね添えた大女優、それが秋川しずくという人。

「それにな、あぁ見えてなかなか苦労しているのだ。下積みが長くてな、長いことオーディションを受け続けては落ちてを繰り返していたらしい。今となっては審査員の見る目がなかったという一言に尽きるが。それで30歳の時にようやく手にいれたドラマ出演で注目された。その時はわき役だったが主役を食うような演技を見せてな。それから次々とドラマに出演を果たし、ドラマ界の新旋風と言われた。そして今では大女優の名を欲しいままにしているのだからたいしたものだ。」

「それはすごいですね。でもそういうシンデレラストーリーの人って他にもたくさんいると思うけどなぜ伯父さんはしずくなんですか?」

確かに秋川しずくは凄い、それは認める。でも古今東西、売れなくて苦労し続け、手にしたたった一度のチャンスをものにしてやっとブレイクという俳優女優は珍しくないはずだ。伯父はなぜファンクラブに入りたいと思うまで好きになったのだろうかそこが素朴な疑問だった。

「あの他の追随を許さない美貌やオーラももちろん好きだが、しずくはかわいそうな生い立ちの女性なんだ。そこがまた泣けるじゃないか。」

「かわいそうな生い立ち?」

茜さんも興味を持ったようだ。

「あぁ、今の外見からは想像できないだろうがかわいそうな生い立ちなんだよ。しずくが幼い時に両親が離婚してそれから母親と二人きりで暮らしたそうだ。母子家庭で苦労したらしいぞ。慰謝料も養育費も貰えず女手一つでしずくを育て上げた母親も素晴らしいが文句も言わずひたすら良い子に育ったしずくもすごい。だがかわいそうなことにその母親もしずくが小学4年生の時に病気で亡くなったそうだ。それからしずくは親戚に引き取られて高校を卒業と同時に上京。それからオーディションを受け、落ちては受けを繰り返してやっと今の成功したしずくがあるわけだ。」

「へぇ~。それはなかなか大変な思いをしてきたんですね。」

茜さんも俺もしずくの身の上に同情をしはじめている。

「それにしても伯父さん、どうしてそんなにしずくの身の上に詳しいんですか。まるで見てきたようですね。」

「週刊誌で読んだ。」

「ゴシップ誌・・・。」

ちょっと情報源が不確かになったような気もするが伯父が納得しているなら別にいい。

「それで伯父さんはファンクラブに入るほどに気に入ったと。」

「そうだ。」

「ちなみに月会費はいくらですか?」

「なぜそんなことを聞くのだ?」

伯父は訝しげに俺を見た。そして何かに思い至ったようだ。

「あ!!お前もしずくのファンクラブに入るのか!?こうしてはおられん!太郎よりも早い会員番号を貰わねば!」

「違います!!」

俺は即、否定。

「秋川しずくはそれは素晴らしい女性だと思いますがファンクラブには入りません。僕が会費を気にするのは僕の給料からファンクラブ会費が天引きされたりしないかということです。」

「・・・私はそこまで公私混同しないぞ?」

それはどうだか、怪しいもんだ。

「まぁこの話はここまでにして。そろそろクライアントが来る時間ですよ。」

茜さんが時計を見ながら言った。そうだった。ファンクラブに入る入らないなんて言っている場合ではない。今日の11時にクライアントが来る予定になっているのだ。

「茜ちゃん、そのクライアントはどういう依頼で来るんだい?」

淳さんが自分の担当案件の報告書を作成しながら聞いてきた。

「ここに来てから話すと言っていたわ。」

ここに来てから話す・・・か。だいたいこういう場合、妖怪や妖魔、幽霊類の非人間相手の案件が多い。俺は密かにため息をついた。せめて敵が俺の姿を見た途端大きな口を開けて牙を剥いてくるような妖怪ではありませんように。


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