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朝舞探偵事務所~妖魔のおもてなし~  作者: 空と青とリボン
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夜鶫の鏡の正体

「それはどういうことですか。」

茜さんたちも意味が分からないという顔をしている。

「そなた達はバック・テュー・ザ・フュチャーのような未来の知り方を想像しているのだろう。だが夜鶫の鏡はそうではない。」

「ますます意味が分かりません。それにバック・テュー・ザ・フュチャーとかよく御存じですね。」

「太郎、そなたは今までわしの何を見てきたのだ。わしが知らないとでも思ったか。」

「いいえ思いません。ツ〇ヤのレンタル会員にもなっている勢いですもんね。」

「さすがに身分証名書は持っていないからレンタル会員にはなれないがなれるものならなってみたいぞ。おぉそうだ、わしに身分証明書を作ってくれんか?そなた達なら出来るだろう?」

鶫守は期待に胸を膨らませながら頼んできた。

「分かりました、最前を尽くしてみます。しかし報酬は安くはないですぞ。」

「あぁ、頼んだぞ。証明書が出来たら速達で送ってくれ。」

俺はここでぐっと来た。つっこみの血が騒ぐ。

「速達ってそんなに慌てなくてもツ〇ヤは逃げませんよ。というかどれだけ見足りないんですか。そんなに見たいならいっそドラマ評論家にでもなって見まくったらどうでしょう。卒倒して泡吹くほど見られますよ。」

一気につっこんだ。すると鶫守は驚いた顔をして俺をまじまじと見てくる。そして

「おぉ。そなたドラマ業界にコネでもあるのか?太郎、見直したぞ。さっそくわしを紹介してくれ。」

俺、脱力5乗、敗北感10乗。そうだった、鶫守はこういう人だった。

「就職の話は後にしてくれないかしら?私たちが聞きたいのは夜鶫の鏡のことよ。」

茜さんがすかさずに軌道修正に入った、もちろん呆れ顔つきで。

「そうだったな、すまんすまん。普通は未来を見るとなるとどうあがいても変えることの出来ない結末を見ることになると想像しがちだが夜鶫の鏡は違う。鏡を見なかったらどういう未来になっているのかを見せるのだ。つまり鏡を見た後でその未来を変えたいと思うのも自由なら変えようと動くのも自由。しかも実際変えることが出来る。端的に言えば夜鶫の鏡を見ても歴史の修正力は働かないということだ。」

俺はとんでもないことを聞いてしまった。あまりの事実に開いた口が塞がらない。しかしその前に一応つっこんでおこう。

「歴史の修正力。さすが呆れるくらいのテレビマニアですね、あの名作ドラマを思い出しますよ。」

「そんなに褒めなくてもいいぞ。」

「いや、呆れているんですけど。」

それにしてもだ。夜鶫の鏡って魔鏡だよな。それなのにこのゆるさ加減はなんなの?

ゆるい!ぬるい!ありえない!!仮にも魔鏡ならもっと魔鏡らしくどんなにあがいても未来は変えられないというやるせなさや恐ろしさ、はたまた禍々しさを醸し出して欲しかった。

「つまりあれですね、夜鶫の鏡というのは未来を知った後にどうするかはすべて本人まかせという非常にやる気のない鏡ということですね。」

「やる気がないのではないぞ。未来を変えることを良しとしないという厳格さがないだけだ。未来を変えても全然オッケーという器の広さを持った鏡なのだ。」

「ものは言いようですね・・・。まぁそれでもいいです。」

「そなたはなぜそんなに拍子抜けした顔をしているのだ?」

「拍子抜けもします!」

これが拍子抜けしないでいられるか!変えられる未来を見せるだけなら全然怖くないじゃないか。鏡を見ても死なない、見せる未来は変えるの自由。ゆるゆるすぎて魔鏡のイメージが崩れるわ!というかあんなに怯えていた俺が馬鹿みたいじゃないか。

俺が脱力しているのを見て鶫守はフッと笑った。

「がっかりしたか?でもな、知ってしまった未来を変えるということはそう容易いことでないぞ。まだ見ぬ未来を変える事と見てしまった未来を変える事では使うエネルギーが違う。」

「・・・そうなんですか?」

「そうだ。人間の思い込みというのはとても強い。右に行くまい右に行くまいとすればするほど右に行ってしまうものだ、その先に崖があると知っていてもな。しずくにしたってそうだ。不老不死の薬を手に入れることが出来たかは五分五分。変態妖怪のあいつならわしの弱点を聞き出した後でしずくの体の一部を持っていってもおかしくない。そういう意味ではしずくは運が良かったのだ。というよりおそらく運命を変えてみせるというしずくの気概に圧されてあいつがたまたま気まぐれを起こしたのだろう。」

「そういうもんなんですかね。」

俺はそれでもいまいち納得が出来ない。それを見て鶫守はやれやれという表情をした。そしていきなり俺の前に夜鶫の鏡を突き出した。

「では太郎、鏡を見てみるか。」

真摯な眼差しの鶫守に言われ、俺は慌てて鏡を押し戻した。

「そんな簡単に見せようとしないで下さい!言ったでしょう?未来は分からないからいいんだって。」

そう、これは俺の紛れもない本音だ。あえて未来を知ってそれを変えてみせようと死にもの狂いになって抗う生き方もいい、逆に未来を知らず手探りで必死に生きるのもいい。どちらが正しくてどちらが間違っているというのはないはずだ。

ただ俺は手探りで生きる道を選んだ、ただそれだけだ。

「所長はどうします?夜鶫の鏡で見た未来は変えられるそうですけど。」

茜さんが唐突に尋ねた。

伯父は一瞬迷った顔をしたがすぐに首を横に振った。

「私は太郎や茜ちゃんや淳君ほど若くないからな。運命に抗っているうちにあの世からお迎えが来てしまうからやめとくさ。」

伯父はそう答えて自嘲気味に笑んだ。うん、そういう生き方もありだよな。

「それにしても・・・。」

淳さんが呟いた。

「淳さん、そんなに深刻な顔をしてどうしたんですか?」

「いや、見せた未来は変えられる。見ても死なないという制約のなさを知ったら確かに人間たちは夜鶫の鏡に殺到しますね。」

「だろう?だからわしは鏡を見たら一年後に死ぬという噂を流したのだ。わしの貴重なテレビタイムを邪魔されたくないからな。」

テレビタイムねぇ・・・。まぁいいさ。鶫守は人生をエンジョイしているんだ。誰にもそれを邪魔する権利はない。

「でもそうなるとやっぱりしずくは鶫守が死ぬかもしれないと分かっていて秘密をばらしたことになるな。」

伯父は何気なく呟いた。言ったあとで余計なことを言ったと自覚したのかハッと口を噤んだが。頼むよ伯父さん、余計なこと言うなよ。

伯父の言葉が連れてきたのは重々しい沈黙。俺たちは固唾を飲んで鶫守りを見守った。

だが鶫守はその沈黙を豪快な笑いで吹き飛ばす。

「わははは。言ったろ?わしはそんなにやわではないと。しずくはわしにとっては良き思い出。しずくに出会えたことも弱点を話したことも後悔はしていない!」

「いや弱点を話したことは後悔してください。」

俺のつっこみに鶫守はまた豪快な笑いを見せた。


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