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朝舞探偵事務所~妖魔のおもてなし~  作者: 空と青とリボン
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テレビ好きな妖魔

しかしそれは突然のことだった。

リリリリリ・・・ン。

いきなり目覚まし時計が鳴ったのだ。

「!!?」

予想もしていなかったことなので心臓がバクバクしている。まったく驚かすなよ。

「おぉ、もうそんな時間か。」

鶫守は当たり前のように目覚まし時計のベルを止めるとおもむろにテレビの前に座った。

そしてテレビのスイッチを入れる。

「あのー、一体なにが始まるんでしょうか。」

俺は恐る恐る尋ねてみた。

「しばらくわしはテレビを見るからそなたは適当にゆっくりしていてくれ。」

一瞬何を言われたか分からなかった。しかし鶫守が言ったことを反芻した次の瞬間。

ええええええええええ!?

俺は心の中で抗議の声を上げた。めいいっぱい上げた、心の中でだけど。

なぜいきなり目覚まし時計?なぜいきなりテレビ?おまけに俺はほったらかしだし。わけも分からず頭がこんがらがる。客そっちのけで普通テレビ見るか?いやそれが出来るから妖怪なのか?人間の常識は通用しないのか?

しかし鶫守は真剣だった。食い入るようにテレビ画面を見つめている。なにをそんなに真剣に見つめているのだろうと気になって俺もテレビ画面を盗み見た。そこに映し出されていたのはあの大女優秋川しずくだった。

今は夕方の5時。この時間帯の多くはドラマの再放送だ。秋川しずくがテレビ画面の中で熱演している。

「あのー、もしかしてあなたは秋川しずくさんのファンなのですか?」

「・・・・。」

尋ねてみても鶫守は答えなかった。それほどまでにテレビにのめりこんでいるのだ。しかもしずくの姿だけをずっと目で追っている。まさにしずくしか見えていないようだった。

それを見てこの妖魔は伯父と同じ種類の生き物なんだなと理解した。それも相当濃いオタだ。仮にしずくがアイドルだったら鶫守はコンサート会場でオタ踊りを披露し奇声をあげているに違いない。SHIZUKU LOVE しずく~って。考えたくもないけどこの熱心さだったらきっとやる。オタ丸出しでテレビ画面に食いつく鶫守の姿を見て少しげんなりした。いや俺だって好きな女性タレントはいるけどさ、ここまで食いつかないぞ。

だが鶫守の表情を見ているうちに自分の考えが変わってきた。鶫守はしずくのことを慈愛溢れる深いまなざしで見つめているのだ。明らかに芸能人と一ファンという域を超えている親しみのこもった瞳。

「?」

俺は不思議な気分になった。こんなにも愛情深い眼差しで人間をみつめる妖怪を見るのは初めてだ。ふと頭をよぎる疑問。

鶫守としずくは知り合いなのかな。

いやいやそんなはずがない。

俺は自分自身に苦笑いした。どうやったら今をときめく大女優と妖怪が知り合いになれるというのだ。馬鹿げた考えは捨てよう。

それより鶫守はこのドラマが終わるまで微動だにしないだろう。この隙に夜鶫の鏡を探して持っていっちゃおうか。相変わらず鶫守は全身全霊をかけてしずくを見守っている。これはもしかしてチャンスじゃないか?辺りを見回して鏡らしきものを探す。

見当たらない。まぁそんな簡単に見つかるはずがないか。でも隣の客間も探してみようか。そう考え、立ちかけた時だ。

「はぁ~。」

いきなり鶫守の大きなため息が聞こえた。俺はびくっと肩をすぼめた。勘づかれたか!?

「すまなかったな。ちょうど見たいテレビがあったものだから。」

「いいえ、お気になさらずに。なんならもっと見ていてもいいですよ。」

「いや、もういい。」

テレビの画面に目をやるとしずくのドラマ(再)はちょうど終わったところだった。鶫守は至極満足そうな表情をしている。なぜだか俺はほっこりした気持ちになった。親近感が湧きっぱなしだ。

「テレビお好きなんですね。」

「田舎はテレビしか娯楽がないからな。そんなことよりお茶を出さなければな。今持ってくるぞ。」

「お構いなく。」

もうすっかり知り合いの家に遊びに来ている気分だ。鶫守は立ち上がりどこかへ消えていった。おそらく台所だろう。俺はリラックスしまくり。相手が妖怪だということはすっかり忘れていた。だってすぐに人の言うことを信じるし、ツアーに参加するし、餃子好きだし、女優も好きだし、テレビっ子な妖怪なんて恐れるに足りぬだ。ごつい顔とごつい体をした気のいいおっさん。

しばらくして鶫守はお茶を淹れてやって来た。目の前に置かれるお茶。それを見て俺は驚愕する。

白い!!お茶が白いのだ。

「あのぉ、一つ聞いていいですか。」

「なんだ?」

「お茶が白いんですけど。普通お茶って緑色か茶色をしてしますよね?白いお茶って初めて見たんですけど。もしかしてマッコリとか牛乳かなにかですか。」

牛乳を湯呑に入れるというセンスの持ち主かもしれないしな。困惑しつつも尋ねれば鶫守は豪快な笑顔を見せた。

「いいから飲め。驚くおいしさだぞ。きっとやみつきになるぞ。」

なにそれ怖い。やみつきになるって完全にヤバいものが入っている証拠じゃないか!

俺が飲むのを躊躇っていると鶫守は自分の為に用意していた白い物体を飲んだ。

「安心しろ。飲めないものは出さんぞ。わしはこのお茶を毎日15杯は飲んでいる。」

飲み過ぎ!どれだけ中毒性があるんだ!?余計に不安になったじゃないか。

「ちなみにこのお茶の成分はなんでしょうか。」

湯呑の中の白い液体を見ながら恐る恐る聞いてみた。何気に匂いを嗅いでみたけど無臭。

「このお茶か?主な成分はスーパーなどで売られているものだ。だから安心して飲め。」

「主な方じゃない成分も聞いてもいいですか?」

すると鶫守はわははははと笑いだした。

「まったくそなたは面白い人間じゃのう。ますます気に入った!!」

なんの裏表もなく豪快に笑う鶫守を見ている内にお茶の正体が何ものでもいいような気がしてきた。えい!!ヤケクソだ!!

ゴクッ、一口。あれ上手い?ゴクゴク、二口三口。やっぱり上手い。

「どうだ、上手かろう?」

「はい!おいしいです!」

このお茶がなんだっていいじゃないか。お も て な し おもてなしは東京にオリンピックも呼んじゃうんだ!!すごいぞおもてなし!!

美味しそうにゴクゴク飲んでいる俺を鶫守は嬉しそうに見ている。

「ところでそなたの名前はなんというのだ?」

「僕ですか?僕は朝舞太郎と言います。」

「朝舞・・・。」

名前を聞いた途端、鶫守の表情がかすかに厳しくなった。眉間に皺を寄せている。しかし俺はお茶らしきものを飲むのに夢中でそれに気が付かなかった。

「確かそなたは栃木から来たと言ったな・・・。」

「はい、栃木から来ました。」

俺は呑気に答えた、鶫守が纏う雰囲気が変わったことに気づきもせずに。

「栃木の朝舞といえば聞いたことがあるんだが。」

鶫守の視線が鋭く俺を探っている。そんなことになっているとは露知らず。

「何を聞いたのですか。」

すると鶫守の声が今までとは別人のように低く地を這うように響いた。

「朝舞探偵事務所というのを。」

「!!!」

バレた!?

俺の心臓が爆鳴りしている。鶫守にその音が聞こえてないかたまらなく不安になる。ヤバいヤバイヤバイ、なんとか誤魔化さないと!


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