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朝舞探偵事務所~妖魔のおもてなし~  作者: 空と青とリボン
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深い事情

今、俺と茜さんと淳さんは駅にいる。昨日初めて夜鶫の鏡の話を聞いて今日はそれを手に入れる為ここで次の電車を待っている俺、なかなかのハードなスケジュール。いつものことだけどね。

人影もまばらなプラットホームの端の方で少しでも体を温かくしようとその場で足踏みをしている。北風がびゅうびゅう吹き抜けていく。

「ところで夜鶫の鏡ってどこにあるんですか?ここから電車でどれくらいかかるんですか?」

「太郎ちゃんそんなに寒いの?歯をカタカタ言わせてまるでからくり人形みたいよ。」

「放っておいてください。それよりここから遠いんですか?」

「ここから電車で3時間、そこからバスで30分。徒歩30分というところかしら。田舎だからバスが一日3本しか通っていなくてそれが一番ネックね。」

「電車で3時間はともかく徒歩30分は助かります。もっと歩かされるもんだとばかり思っていましたから。意外と簡単に辿り着けてしまうんですね。もしかしてRPGみたいなイベントがあるかもとか不安だったんですけど、勇者が出たり怪物が出たりお姫様が出たりして。」

「勇者も怪物もお姫様も出ないけど最後のイベントで妖魔が出るわよ。」

「そうだった・・・。」

俺は思い出したくないことを思い出してがっくり肩を落とした。そこへ淳さんが温かいコーヒーを抱えてやってきた。寒かろうと買ってきてくれたのだ。相変わらず淳さんは優しいなぁ。茜さんだったらスパルタ教育でこの寒さに耐えるのが霊能力者になる為の第一歩とか言いそうだ。

「はい、どうぞ。茜ちゃん、太郎君。」

「ありがとう。」

「ありがとうございます。」

淳さんから渡されたコーヒーを早速一口。

「温まるぅ。」

五臓六腑に染みわたっていく。一息ついたところで昨日聞けなかった依頼主のことを聞くことにした。

「依頼主のことを聞いて良いですか?一年後に死んでしまうことが分かっているのにそこまでして未来が知りたい人ってどんな人なんだろうと気になってしまって。」

すると茜さんと淳さんは苦渋に満ちた表情をした。

「なんかやばい依頼主なんですか?」

不安になって尋ねると淳さんが徐に説明を始めてくれた

「依頼主は松川良平さん。日本松来化学工業の社長を務めている人だよ。」

「社長さんですか。意外だなぁ、そんな地位も立場もある人が。」

「地位も立場もあるからだよ。」

「?」

「松来化学工業は岐路に立たされていると言っていた。経営難でね、今抱えている研究課題が成功しなかったら松来は更に膨大な負債を抱えることになって会社の倒産は逃れないらしい。」

「そうなんですか・・・。社長もいろいろ大変なんですね。でも社長個人のたった一年先の未来を見て会社がどうなっているのか分かるものなんですかね。」

「自分の未来を知れば自分の家族の未来もどうなっているか漠然と分かるじゃない?会社は家族経営らしいわ。他にも従業員を数名抱えているらしいけど。自分や家族のことだけではなく従業員とその家族の生活のことも考えなければならないから大変だと思うわ。」

茜さんがため息をつきながら言った。淳さんが続ける。

「それで今抱えている研究が成功するのか失敗してしまうのかどうしても知りたいらしい。このままの方向性で続けていって結果駄目でしたでは取り返しがつかないって。だから今の方向性で正解なのか間違いなのか知りたいとのことだよ。」

「なるほど。でもその為に自分の命を捧げるなんて僕には到底真似出来ないや。未来を知って今のやり方を変えて成功したとしても自分は死んでしまうんですよね?そこまでして会社を守りたいと思う気持ちは凄いとは思いますけど。」

「・・・松川さんは癌なんだ。」

「えっ。」

「松川さんは癌を患っている。医師が言うにはあと半年から一年の命だそうだよ。だから鏡を見ようと見まいと一年後には・・・。」

「・・・・。」

淳さんも茜さんも瞳に悲しげな色を浮かべている。俺はその話を聞いて納得した。悲しい現実だけどそれなら自分の命を代償にしてしまうだろうな・・・。なんだか切なくなってきた。

そこへ俺たちが乗る電車がホームに滑り込んできた。ドアが開きそれに乗り込む。

ボックス席に茜さんと淳さんは隣同士で座り、俺は皆の荷物と隣同士で座った。

「で、場所はどこですか?ここよりもっと寒い所ですか?」

「行ってからのお楽しみよ。」

「はぁ~そうですか・・・。」

正直あまり楽しみでないんだけど。

車窓の風景はどんどん変わっていく。コンクリートの建物は徐々になりを潜めていく。稲刈りが終わって暫く経つ畑には鴉や白鷺が舞い下りて枯草の中にくちばしをつっこんでいる。冬の空は青く澄んでいて象牙色の畑とのコントラスが素晴らしい。

電車で揺られること3時間、そこからバスに乗り変えて30分。茜さんに言われた通りだった。視界いっぱいに広がるのは田舎の風景。見渡す限り田んぼ田んぼ田んぼ。

バスのステップを踏み、田んぼの香り漂うそのど真ん中に降り立つ。

「はぁ~清々しい。」

俺は解放感一杯になって背伸びをした。

「さぁ歩くわよ。」

感慨に浸る暇もなく茜さんが俺をせかす。少しは旅人気分を味わおうよ。

田んぼを脇目にあぜ道を行く。ここの空気はことさら冷たいが景色の美しさが冷たさを中和してくれる気がした。歩くこと20分。突然、前を歩いていた茜さんと淳さんが立ち止まった。

「どうしたんですか?」

「太郎ちゃん、ここから先は一人で行ってくれる?」

「え?」

え?え?今聞き捨てならないことを聞いたぞ!?

「ど、どういうことですか!?一人で行けって!」

激しく狼狽して聞き返すと茜さんは怖い顔で振り返り俺をじっと見つめた。

「なっ、なんですか!これもスパルタ教育の一環ですか!」

すると茜さんは軽くため息をつき

「そんなんじゃないわよ。ここから先は太郎ちゃんしか進めないの。私と淳君はこの先には行けないのよ。」

「どういうことですか!?まさかこの田舎の香水に我慢できないとか言うんじゃないでしょうね!」

田舎の香水とはすなわち馬や牛などのう〇ちの臭いだ。

「違うわよ!」

茜さんはさすがに呆れ顔で否定した。

「これは太郎君にしか出来ない任務だ。」

淳さんが真剣な表情で言った。

「僕にしか出来ない任務?」

「ここから先には結界が張ってあるんだ。妖魔の仕業だ。」

「結界?」

結界なんて全然俺には見えないけど。

「この結界の中には霊感が強い者は入れないようになっているのよ。まぁ、並みの霊感の持ち主なら入れるみたいだけど私や淳君のような霊感の強いものは入れないわ。だから太郎ちゃんなら余裕で大丈夫、行けるわ。」

「だ・・・だからといって僕一人で妖魔に立ち向かって行けというんですか!?そんなの無理ですよ!僕なんて象に立ち向かう蟻なようなものです!」

「蟻ですらないわよ。そうね、例えるなら蟻に食べられる、道端に落ちているお菓子のくずかしら。」

「そこまで非力ですか、僕・・・。」

なんかショックだ。

「なにも太郎君に妖魔と闘って鏡を取ってこいと言っているわけではないさ。この結界を解いて欲しいんだ。」

「結界を解く?」

「そう。太郎ちゃんが結界を解いてくれたら私たちもここから先へ進めるから。」

「いやいやいや。簡単に結界を解いて欲しいと言いますけどそんなこと出来ませんよ。」

俺は半笑いでお断りした。だって霊感も超能力もないんですよ?どうやって結界を解く?第一、結界が見えてさえいないのだ。


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