〜健全な異世界放浪を目指します〜
温かい目で見ていただけたら幸いです!
俺の名前はむっへ村井。
25歳独身だ。
大学在学中に書いた異世界系小説50万部のヒットをし、大学卒業後も就職することはなくラノベを書いている。
お金も十分にあるし、時間もある。
強いて言えば彼女はここ3年もいないが、何不自由のない生活を送っている。
そんな最中、いつものようにコンビニで買い物をした帰り、ボールを追いかけてトラックに轢かれそうになっている子供、という自分でも書いていたテンプレの光景が目の前に現れる。
ここは現実世界だ。
トラックにまともに轢かれたら当然死んでしまうだろう。
だけど、もし、もしも、ここで子供を助けて異世界に転生するのであれば‥‥‥。
そう考えると体が勝手に動いていた。
え?馬鹿すぎるって?
けどこんなテンプレの状況だよ?
もし1%でも転生できるなら最高だし、それが無理でも子供が助かったならよしとしよう。
子供を安全な歩道に突き飛ばしトラックが目前に迫ってくる中、そうこう考えていると強い光が目の前を覆った。
次の瞬間目に入ったのは天界にいるかのような背景に、ハリウッド女優顔負けの女神らしき美少女だった。
「来たぁぁぁぁ!」
安定していた人生を捨てた、人生最大の賭けをした自分を褒めてやりたい。
テンプレ通りいけば、チートスキルなんかを貰ってこれから異世界に行けるだろうという状況に、尋常じゃなく歓喜している俺を少し引いた目で女神らしき美少女が見ている。
少し落ち着いた様子を見て、女神らしき美少女がやっとかという表情で喋り始めた。
「ようこそ天界へ。私の名前はミネルヴァ。お察しの通り貴方にはこれから異世界に行ってもらいます。理由としては、異世界に行きたいからってあそこでトラックの前に飛び出すとは私も思わなかったわけで‥‥‥」
あぁ本当に異世界に行けるんだぁ。
やっぱり異世界に行ったら、冒険者登録して、ハーレムも作って、チートスキルは何が貰えるのやら。
などとミネルヴァの説明も聞かないで妄想にふけっていると目の前に強い光を放つ転生の陣のようなものが目に入る。
ここから異世界に転生するのかなぁなどと考えていると今すぐにでも行きたくてたまらなくなる。
まだミネルヴァの説明は続いているけど、我慢できなくなり走って転生陣の上に立つ。
大丈夫だって?多分大丈夫。
だって異世界小説を書くのを仕事にしていただけあって、異世界に行くシミュレーションはバッチリだしチートスキルだってあるだろうし。
ミネルヴァが必死に叫ぶのもつゆ知らず、俺は陣の上から姿を消した。
「あぁ、そっちはゴブリン用の転生の陣なのに‥‥‥。」
驚きよりも呆れているミネルヴァはそう呟いて肩をがっくり落とした。
目の前には一面に広がる森と数匹の青いスライムらしき生き物を見て、異世界の森の中にいると認識して本日二度目の歓喜の雄叫びをあげた。
興奮も収まったところで今の自分のステータスが気になり、当てずっぽうでステータスオープンと言ってみる。
すると自分の目の前に超薄型の液晶板のようなものが浮かび上がる。
【 名 前 】 安長舟磨
【 年 齢 】 25歳
【 種 族 】 ゴブリン
【 レベル 】 1
【 体 力 】 91
【 魔 力 】 9
【 攻撃力 】 104
【 防御力 】 52
【 俊敏力 】 32
【 スキル 】 なし
【固有スキル】 鑑定
「えぇぇぇぇぇぇぇ!?」
種族がゴブリン!?
確かによく見てみると肌の色は緑だし身長も多分150cmもない。
鑑定スキルはあるもののチートスキルみたいなものは一切なし。
これからの自分の行く末を考えて絶望する中、
「ちょっと、なに説明聞く前に転生の陣に突っ込んでんのよ!こんなこと初めてなんだからね!」
と、さっきとまるで印象が違う怒ったミネルヴァの声が聞こえる。
詰め寄るようにこれはどういうことかと聞くと、どうやら俺は地球での思いもしなかった死者で元の世界には戻ることはできないが、別の世界で別の人生を送ってもらおうと特例で人間として生き返らせようとしたらしいが、俺は人の話を聞かず、人間用ではなくゴブリンに転生する用の転生の陣を使ってしまったらしい。
おまけに神は世界に直接は干渉できないため、これから種族を人間にすることはできないし、天界にて授けるはずだったチートスキルも授けられないらしい。
唯一異世界から来たものに与えられる固有スキルの鑑定はあるけどそれだけじゃなぁ。
夢にまで見た異世界転生がこんな形で崩れ去るとは‥‥‥。
これじゃ街に行っても魔物として倒されるだろうし、昔から好きなもののことになると周りが見えなくなる自分が恨めしい。
そう絶望しているとミネルヴァがある提案をしてきた。
どうやらこの近くに名実ともに優れた賢者と呼ばれるものが住んでいるらしく、その賢者にミネルヴァから信託を出して一年間ゴブリンである俺に剣術や魔術を教えてもらうよう頼むと言う。
これならば人間世界に交われるかは別として、ある程度の魔物に対抗できる実力はゴブリンである俺でもつけられるらしい。
願ってもない提案に即、よろしくお願いしますミネルヴァ様!と調子良く土下座をした俺に、
「特例で異世界に転生させたのだからすぐに死んでもらっては困る」
と、ぶつぶつ文句を言いつつ賢者の家までの道のりを教えてくれた。
「よし、準備オッケー!」
ゴブリン特有の低い声で一年間世話になった賢者のアークに別れを告げて、とうとう本格的に冒険へと向かう準備をする。
準備といっても、この一年間で必死に習得したアイテムボックスの中に必要な荷物はほとんど入れてるから時間はかからないけど。
それにしても魔法の習得は大変だった。
ゴブリンという種族は体力や攻撃力は強い代わりに魔力はほとんど無いらしく、前世でのアニメや漫画の想像力でどうにか発動にこぎつけたものばかりだ。
だから俺がメインで使うのは背中に背負っている大剣だ。
ゴブリンであることを隠すための大きめのローブに180センチほどに伸びた身長、そして背中に背負った大剣を見れば大分立派な冒険者に見える。
これに関してはアークに本当に感謝だ。
見ず知らずの気持ち悪いゴブリンに、剣術や魔術などのこの世界で生きるための術を教えてくれたんだからな。
あんなにきつい特訓をもうしなくてもよくなるのは少し嬉しいけど‥‥‥。
まぁ、そのおかげで俺はゴブリンからハイゴブリンになってステータスはこうなった。
【 名 前 】 むっへ村井
【 年 齢 】 26歳
【 種 族 】 ハイゴブリン
【 レベル 】 24
【 体 力 】 654
【 魔 力 】 54
【 攻撃力 】 678
【 防御力 】 260
【 俊敏力 】 198
【 スキル 】 なし
【固有スキル】 鑑定
アークによるとステータスの実力的にはBランク冒険者くらいらしい。
確か王都で王室に仕える隊長がAランクそこそこらしいのでチートってわけではないけど、ある程度の敵とは戦えるだろう。
一年修行したからって人間になれたとかそういうわけじゃないけどまぁ成り行きでどうにかなるでしょ!
人間に駆除されるべきゴブリンであることを忘れ、清潔感のあるハイゴブリンは町のある方面へ森を抜けていくのであった。