料理屋の看板娘 揺れる女心2
「CMの懸賞応募については、本日こそ番組エンディングでお伝えします。
先生、違うタイプの人を好きになってしまう揺れる女心……父の若い頃のアイドル歌手が歌っておりました」
「結構若い子観てるんだから、レトロなネタぶっこまないでよ。ワタシは好みですけど……さあ!お嬢さん。1人ずつ片付けるわよ!」
まずは、騎士様ね。
どんな人か、なれ初めは、いろいろ喋んなさいよ。
なるほどー。都市の騎士じゃなくて、ほんと戦闘要員だったわけね。んで?負傷してその療養を兼ねて、王都に転任した、と。じゃ、騎士といっても、貴族ではない一傭兵なわけね。
ゆくゆくは?手柄を立てれば、王宮に居られるが、多分そうそう出世は見込めない。身体がきかなくなって管理職になれなかったら、どこかの領主に雇われ地方に住むことも良いかと考えている、と。
うーん。前線で命落とすことはないでしょうね。野心はあんまりない安定志向ね。堅実ね。
見た目は?
背が高い?騎士だもーん。
筋肉質で逞しい?騎士だもーん。
金髪のくしゃっとした短髪で
瞳は夕方の空の色で
声が落ち着いた深い響きで
必ず小さな花束を持ってきて
はにかみやさんで
饒舌じゃないけど、オーダーの時に労りの言葉をくれて
微笑みが柔らかくて
……き、騎士だも、…なにその優良物件。
先生イケメンでイケボイスが小花持ってたら、しがみついちゃうわ!
モテるでしょお〜〜
馴染みの娘さん達、給仕の娘達が騒いでるって、そりゃそうよ。しょっちゅう来てくれるんなら、その娘達もでしょ?繁盛繁盛。
で?どうやってアプローチしてきたの?
はーん。花束作戦。店に飾ってって。花言葉なんか踏まえてる?
……タラシじゃないの?
違う?
誠意も節度もある?
貴女以外、わき目もふらず、って?
何い、なんで迷ってんのおー?
何で飛び込んじゃわないのおー?
あら、飛び込んだの。
何処まで?
……そうよねえ。行っちゃうわよね。ジレンマあったんじゃない?身体は女、心は両方、でしょ?
楽しめた?あらあら。さばけてるわあー今どきだわあー。
じゃ、何がいけないのよ!
あっ、ちゃー。
それ!
<俺のもの>。
おっとこねっ!男の悪いとこ見えちゃったのね?
寝た途端馴れ馴れしいのかしら?
そうではない。はい。
ぎこちなさが、可愛い。はいはい。
……職業への理解がない。
女は、妻は、男の人生を支えて当然。男は女を養うために励んで当然。な、っるほどっねー!
男の甲斐性ね。
騎士として働くなら、定時に帰るような生活は無理。遠征もあるし夜警もある。仕事人間にならざるを得ない。家は女が守ってほしい。心の拠り所として、心地よくしてほしい。
家に専念して欲しい。
妻と言う名のお仕事ね。
まあー、転生者なら仕方ないけど、この国じゃ、真っ当な考え方よ?
ここはねえ、封建社会なの。
女の地位なんて、かっるいもんよ。
お貴族程そうね。街の民の方が生活かかってるから捌けてるわよね。
男の職場にどっぷりいるんだから、染まってるわよねえ。
貴女の料理人としてのプライドとか、野心とか、そんなの自分の人生と噛み合わないって思ってそうね。自分の恋人なんだから、自分の人生のレールに乗って当たり前なのよね。それが、貴女の人格を否定してるみたいで、嫌なのね?
優しくて、誠実で、でも、それは、あくまでも、その人のレールの上なのね。
……前世の記憶もあるし、男のエゴも分かるし。
素直に求婚に乗っかれない。
分かったわ、貴女、泣いちゃだめよ。愛する気持ちはあっても、その人の生き方に沿えない自分を責めちゃダメよ。
貴女のレールがその人のレールに見えないんだから。貴女のせいじゃない。売女?そんな事わたしが思う筈ないじゃない!馬鹿な事言わないの!
じゃ、もう1人、八百屋の息子だっけ、その人の事教えてよ、ね?
「CMの後、先生がぶりよりです」
「相撲取りじゃないわよ!」
河合奈保子さんは、まるでオトゲーのヒロインみたいですよお、外見が!