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「あ、待って、待ってください」
「どうして? エリーは嫌なのかい?」
「そういう問題ではございません」
「じゃあどういう問題かな?」
くすくすと笑う男性にエリーは真っ赤な顔になってうつむいた。
「あの、ここは、他に人も来ますし......」
そう言ってエリーは辺りを見た。
二人が腰掛けているソファの前にはテーブルがあり、飲みかけの紅茶とスイーツが置かれていた。柔らかなメロディが流れ、窓からは温かな日差しが差し込んでくる。お茶を楽しむには最適だ。少し離れた場所には大きな観葉植物が並んでいる。空間を遮るようにして置かれたその植物の向こう側に使用人のいる気配がしたーー甘いひと時を過ごす場所ではないとエリーは言いたかったのだ。ここはプライベートな部屋ではなく、応接間の一室だった。
「人払いはしたんだけど......。他の部屋へ行くことにしようか」
そういうと男性は自分の隣に座るエリーの手を取り立ち上がった。柔らかな髪がふわりと揺れた。窓から差し込む光が男性の美貌を更に際立たせる。きらきらと照らされた男性の姿にエリーは眩しくて顔を背けた。
「どうしてそっちを向くんだい?」
「その......眩しくて」
エリーは恥ずかしそうに答えながらちらりと男性の瞳を見た。
光に透ける紫銀の瞳――なんて美しいんだろう。
男性はさっと部屋を出ると奥にある私室へと急ぎ向かった。そしてソファにエリーを座らせてカーテンを閉めると横に腰かけた。
「もうこれで問題ないかな」
エリーは何か話そうとしたが、言葉を発する前に男性に口を塞がれてしまった。
暖かな日差しの差し込む昼下がり、とある館での出来事だった。