まるでゲームの中のような物語です。
【第1話】
「すみません。家宅捜査令状が出ていますので上がらせてもらいます。容疑は死体遺棄です。」
いつもは誰も訪ねてこない我が家に、10人あまりの刑事さんがやってきた朝は、いつもと変わらない祝日であった。
「おい、清隆!どういうことだ!何したんや!」
父と母が猛ダッシュで清隆の部屋にとんできたが、清隆は何がなんだか全く分からない。青天の霹靂とはまさにこのことを言うのであろう。
しかし、父に首根っこを掴まれたまま、玄関まで引きづられると、何となく状況が分かってきた。
捜査官の令状には、クラスメイトであった山野歌丸くんの死体遺棄罪ということが記載されていたのだ。
山野くんは、3ヶ月前に急にクラスからいなくなり、行方不明になっている少年であった。
失踪前、清隆は山野とは親しくしていたが、今どこにいるのかも何をしているのかもしらない。
「…死体遺棄?」
「どういうことですか?山野は亡くなったんですか?」
「どこで見つかったんですか?」
清隆は続け様に捜査官に話しかけた。
「はい。ということで、上がらせてもらいます。」
捜査官は、清隆の問いかけには一切の無視を決め込み、次々に段ボールをもって上がり込む。
捜査官は、家に入ると、清隆の携帯電話と、家のパソコンを次々に押収していく。
清隆は訳もわからず、捜査官に言われるがまま、携帯電話やパソコンに指をさして、写真に収められていった。
これは、確かに清隆の物を回収した、という証拠写真なのであろう。
この間、僅か15分程であった。
清隆は、本当に訳が分からなかった。夢でも見ているのであろうか。
しかし、何度ほっぺたをつねってみても、それは紛れもない現実であるということが突きつけられるだけであった。
「清隆くん、ちょっと私たちと一緒にきてくれるかな?早く用意してね。」
捜査官の一人が清隆に話しかける。
つい15分前まで、深い眠りについていた清隆は、あれよあれよと言う間に、捜査官に連れられて、車に乗せられていった。それは、いかにも怪しい黒のカーテンで窓がすべて覆われたワゴン車であった。
中に乗り込んだ瞬間、真っ暗で異様な雰囲気の車内に清隆は焦り始めた。
んっ?なんかおかしい。ちょい待って待って!俺、人殺しと間違われてるのか?
まぁ、話せば分かるよな?うん。俺、なんも知らないし。
どういうこと?
ちょっと待て待て待て、俺どうなるんだろう…
清隆は重い空気の中、意を決して捜査官に話しかけた。
「すみません。なんか勘違いしてると思うんですが、僕何にもしらないですけど…」
すると、間髪を入れず、捜査官の一人が大声をあげて怒鳴り始めた。
「うっさいわ!お前、もう分かっとんじゃ。クラスメイトの証言も全部とっとんねん。調子乗ったこと言っとったらぶっ飛ばすぞオラ‼」
それは、清隆の希望をドン底まで蹴落とすには十分すぎた。
俺、疑われてるんだ…
なんで俺?はっ?
クラスメイトも全員俺を疑ってるのか…。
そうか。厳しいなぁ…。
しかし、清隆は、ここにきて、逆に冷静になってきた。
とりあえずやってないことはやってないと言うしかない。争うしかない。
取り調べで戦おう。清隆は決意を固めた。
山野が失踪直後、クラスメイト全員が、任意の取り調べというのを受けさせられたから、取り調べがどんな感じかは分かっているつもりであった。
取調官と1対1で喋るのだろう。そこで否定すればよい。いや、するしかない。清隆は、無言でそう決心を固めていた。
清隆は、いわゆるネトウヨと言われる存在で、韓国や中国、北朝鮮のことが大嫌いで、そんなことばかりインターネットで検索していた。反日国家なんか潰れてしまえ!清隆はそんなことを真剣に考えていた。一方で日本のことは大好きであった。そんな大好きな日本で、北朝鮮のように違法なことはされないだろう。
清隆は、不安の中にも、まだ希望を見出していた。
しかし、一方で強い不安もあった。
日本は起訴有罪率が99.9%で、逮捕、起訴されると、決定的な証拠やアリバイが出ない限り、ほぼ全員が有罪になってしまうことを知っていからだ。
なぜだか分からないが、さっきの捜査官の話によると、クラスメイト全員が清隆のことを疑っているらしい。きっとそんなことも併せて、状況証拠を大分揃えられているのだろう。なかなか分が悪い。
清隆は、3ヶ月前のことなど覚えておらず、否定する決定的な材料を用意できる自信もなかったのだ。
ましてや、犯行を否定し続けることで、「反省の態度が見えない」と、判決が重くなることがあることも知っていた。
やっていないことは認められないが、どうなってしまうんだろうか…。なんでこんなことになってしまったんだろう。清隆は今後の自分の状況を憂いていた。
2話に続く