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IRREGULAR;HERO ~正義の怪物~  作者: 紅林ユウ
第二章 刻まれた呪縛
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第二章 刻まれた呪縛 第1話

   01


 ――ガガガ、ズドドド、バチバチ。

 けたたましく研磨する音が鳴り響いたかと思えば、そのすぐあとには溶接による火花が散らされる。その作業工程が一段落つくのを待ってから、ようやくアラタは音の発生源に声を掛けた。


「よう。もうオレのやつは終わってるよな」

「んあ? お、なーんだ、サトっちゃんとこのアラタくんじゃん! なになに、あたしのオリジナル武装の実験台……こほん、じゃなくって、試験運用の協力してくれる気になったって顔してるねえ」

「いや、してねぇよ、あとくっつくな」


 こちらの姿を確認するとほぼ同時に、ぴょんぴょん跳ねるように詰め寄ってきた少女を、しっしと追い返すようにアラタは言う。

 しかし、作業着に身を包んだ、ミコトよりも小柄かつ平坦な少女は、まるでお構いなしだ。離れるどころかアラタの筋肉質な腕に抱きつく始末である。

 起伏に乏しいとはいえ女の子の柔らかさに違いはない。

 もうこの時点でアラタの頬は赤く染まってしまっている。


(ミコトといい、こいつといい……もちっと恥じらえよ、こっちがバカみてえだろ……)


 そんな純情男子の心境など知ったことではなく、帝都の片隅で鍛冶師を営んでいるその少女は、演技たっぷりの艶のある声で耳元に囁く。


「んもぅ、アラタくぅんってば冷たいなあ。私の特注武装を試しに使ってくれるんなら、おねぇさんはなーんでもしてあげるよー? あんなことやー、こんなことやー……そう、な・ん・で・も、ね♪」

「ぐっ……い、いいから、はやくオレの剣よこせ!」


 無理やり引っ剥がすと、少女は「ぎゃふん」なんてわざとらしく声にして、なんだかよくわからないガラクタの山に豪快に突っ込んだ。

 ドンガラガッシャーン! と耳をつんざくような音がして、


「ほい、あったよー」

「なに人の大切な武器をガラクタんなかに紛れさせてんだ!?」


 正直、アラタはこの少女・円茉莉(マドカマリ)のことが苦手だ。

 突飛な行動ばかりで予測できないし、無駄に明るくて騒がしいうえに、ミコトと同じくらい……あるいはそれ以上にベタベタくっついてくる。

 果てに、彼女特製のオリジナル武装の実験台にされた日には、命がいくつあっても足りない。

 時間制限付きで自爆する鎧だったり(もはや防具じゃない)、使い手だろうと関係なく襲い掛かる自立型飛行剣だったり(ただの呪われた魔剣だ)、振るった瞬間にへし折れるビックリ魔法剣だったり(もはや玩具である)。

 そんな豊かな発想のもとで作られた『使い手無視のロマン武器(製造者談)』の試験にアラタを使うのはやめてほしい。というか、もしも試験運用の役に宛がわれるのが普通の人間だったりしたら、いつか間違いなく死ぬことになる。

 そんな問題だらけの人物ではあるが、


(そのくせ技師としてはかなりの腕なんだよなァ、コイツ)


 茉莉の軍手に包まれた華奢な手から『絶爪・紅葉』を受け取って、これからもこうして付き合い続けるのだろうとガックリした。

 この改良されて機械式になった大剣を点検できるのは茉莉だけだ。

 そもそも、アラタ以外の人間が使えばまず間違いなく使用者の筋肉が引き裂かれるであろう『粉砕炸裂』を搭載するなんて、茉莉以外の技師ならば考えないはずだ。

 ゆえに改良され過ぎた『絶爪・紅葉』の構造はブラックボックス。

 そのせいでアラタはどう足掻いても茉莉に頼らざるを得ないのだ。


「それでどうだった? コイツになんか異常はあったか?」


 大剣を掲げながらアラタが問うと、ふるふると茉莉は小さな頭を横に振った。


「共鳴ってやつの影響は見られなかったよ。たぶん、やっぱそれに関してはアラタくんの血筋ってやつが問題だったんだと思う」

「そうか……」


 花織桜香との決闘から一日が過ぎた。

 闘技場で襲い掛かってきた軍服の男との戦いで倒れたアラタは、数時間後に目覚めてすぐさま茉莉のもとに駆け込んだのだ。

 男の携えていた『刹牙・清姫』との共鳴反応で、『絶爪・紅葉(改)』に異常が起きていないか診てもらうために。

 そして一夜を跨いで診断結果を聞きに来たというわけだ。

 結果はいま聞いたとおり異常ナシ。茉莉の診断結果に間違いはないのでひとまず安堵するが、しかしそうなると――やはり、あのときアラタの体を蝕んでいたのは、二振りの大太刀の激突に無意識に反応した鬼の因子だった、ということになる。

 もしも、


(あのとき、あのまま鬼の因子がオレの理性を喰い破っていたなら……)


 アラタはどうなっていたのだろう?

 いままで怪物として力を発揮してきたアラタではあるが、それでもミコトや沙都美たちと出逢ってからは人間らしい生き方をしてきた。

 他人からどう見えていたかはわからないが、少なくとも人間らしく振る舞ってきたつもりだ。

 けれど、それはアラタに理性があるからだ。

 もし、その枷が外されて、鬼という怪物に成り果ててしまったら?

 自分が自分でなくなる。そんな想像をして、柄にもなく思考に没頭していると、


「あ、そだ、こないだの大型魔獣戦でカートリッジ三発同時に使ったでしょ?」

「え? あー、えと……よく憶えてねえや。一撃で終わらすことしか考えてなかったし」

「もう、あれだけの霊力を凝縮したカートリッジ作るの大変なんだから! それにいま『絶爪・紅葉(改)』ちゃんに装填できる数は十五発――そりゃまあカートリッジ使用の爆発力で倒せない敵なんていないだろうけど……」

「わかってるよ。残弾には気を付けろって言うんだろ」


 それは承知している。

 アラタは膂力、耐久力、瞬発力――あらゆる面において生まれながら常人を凌駕しているが、霊力を自由自在に扱うことだけは上手くできないのだった。

『絶爪・紅葉(改)』に搭載されたカートリッジ・システムは、そんなアラタにも唯一無二の霊力攻撃『粉砕炸裂』を与えてくれた。

 茉莉の思いつきの補助機能が、初めて役立った一例であろう。

 魔獣のなかには、先日の巨大亀の甲羅のように物理攻撃を無効化する性質のものも存在する。そういう性質を有した敵と相対したときはアラタでもカートリッジに頼らなければならない。


「ま、減ってたぶんはちゃんと補充しといてあげたけどさ。きっちりと事務所のほうには請求書出させてもらうかんね」

「うっ……」


 これでまた沙都弥から小言を聞かされる案件が増えた。

 自分がいつか鬼になるのではないか? なんていう不安は吹き飛んで、いまは沙都弥と顔を合わせたときにどう言い訳するかをぐるぐると考えるアラタだった。

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