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IRREGULAR;HERO ~正義の怪物~  作者: 紅林ユウ
終章 陽だまり
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終章 陽だまり 第2話

    02


 後日、沙都弥から事の顛末を聞かされた。


 帝都を跋扈していた魑魅魍魎たちは、まるでなにかを悟ったように撤退を始めたらしい。おそらく黒き鬼姫の敗北がきっかけだったと考えられるが、その真実ばかりは沙都弥にもわからないようだ。


 そして、この一件を経てから帝都には変化があった。


 先の戦いは、表向きには御子室の不手際により『霊子術式』が奪われ、悪用されたことが原因とされたのだ。御子室に掛けられた呪いや、黒き鬼姫の復活などは頑なに伏せられ、その結果――御子室は『霊子術式』の秘匿を解禁することを決めた。


 今回のような有事に際して、いまの『霊子術式』を持たぬ人間はあまりに無力だ、という意見が御子室および極東統合政府、そして民衆からも上がったらしい。


 無論、秘匿が解禁されたからと言って、誰もが『霊子術式』を会得できるわけではない。


 いまは『霊子術式』に関する資格習得の試験条件や、また『霊子術式』悪用に対する法律などを、鴻上光彰を筆頭に御子室と極東統合政府が整理している段階だという。


 ともかく、これで人間は力を取り戻していくだろう。


 多くの人間が言うように身を護るためには力が必要だが、同時に過ぎたる力というのは争いの火種にもなるのも事実である。

 おまけにアメノミハシラ――地獄の門に封じられていた魑魅魍魎たちも復活してしまった。


 いつ戦争が起きてもおかしくない、と沙都弥は危惧しているようだ。


 とまあ、いろいろと考えるべきことはあるが、


「あ、それボクのチキンなんだけど!」

「関係ないよん。こういうのは早いもん勝ちっしょ」


 響と茉莉が事務所のテーブルに並べられた料理を取り合っている。


 若者たちの輪に入れずに居心地の悪そうな加賀美が、歳の近い沙都弥に晩酌を持ちかけ玉砕していた。


 沙都弥は「事務所が散らかる」「騒がしいのは嫌だ」と事務机に上体を預けて気だるげにしている。事務所でのパーティには最後まで乗り気じゃなかった沙都弥だが、ミコトに「準備も掃除しない人は黙っててください」と怒られてしまえば、普段の行いも相まって反論できなかったらしい。


 夜八時に騒いでも近所迷惑にならない、素敵な(周りになにもない)事務所がここだ。


『ミコトおかえり&ヒーロー復活記念パーティ』


 驚いたことにこんな粋なことを計画したのは、


「な、なに? なんでこっち見てんのよ」

「ありがとな」


 アラタが感謝の言葉を述べると企画者である桜香はぷいとそっぽを向いた。


 無愛想だ、なんて思うかもしれないが、アラタにはわかる。これは単に気恥ずかしくてどう返せばいいかわからないだけなのだ。なぜそれがわかるかと言えば、アラタが何度もそういう経験をしているからに他ならない。


 どこかアラタと桜香は似た者同士なのかもしれない、なんて思ったりもする。


 桜香はそそくさと取り皿にサラダを山盛りにすると、こちらにずいっと渡してきた。


「いや、オレ肉食いてえんだけど……」

「うっさい! 今回のメインはミコトなんだから、あんたは野菜で我慢しときなさい」


 渋々と受け取ってミニトマトを口に運ぶ。


 一応、アラタだってもう一人のメインのはずなのだが、というのは黙っておいたほうが吉だろう。下手なことを言ってケンカするよりも、いまはこの時間を楽しく過ごすほうが有意義だ。


 しばらくして、


「私、いつかまたアンタに挑戦する」


 どこか吹っ切れたような表情で桜香はそう言った。


 意外な宣言に面食らったアラタが返す言葉を失っていると、「なんか言いなさいよ!」と怒鳴られて、なんとも理不尽な扱いをされている気がした。


「アンタは強い。私のいまの実力じゃまだ全然届かないかもしれない。だけど絶対に私はアンタを超えるくらい強くなってやるわ」

「そうか。ああ、オレはいつだって準備できてるぜ」


 桜香の決意をアラタは真っ向から受けた。

 こうして自分に挑んできてくれる桜香のほうが、アラタとしては嬉しいのだった。


「二人とも! ほらほら、こんな端っこで密談してないで楽しもうよー!」


 ミコトに促されてパーティの輪へと入っていく。


 茉莉と料理の取り合いをして、炭酸飲料で酔った(フリをする)響に絡まれて、それを桜香とミコトが微笑ましく眺めている。


 沙都弥は鬱陶しそうに狸寝入りを決め込んでいて、誰にも相手にされない加賀美は一人寂しく酒をあおる。


 とても楽しい時間。

 あたたかくて穏やかな居場所。

 たとえ怪物だって人間らしく生きられる世界。


 ここはまるで陽だまりのようだと、改めてアラタは感じるのだった。


                                    (完)

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