第三章 崩壊のとき 第2話
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「あの、この人が桜香ちゃんのお友達?」
「ええ、そうよ。まあ、こんなおかしな恰好したヤツだけど、悪いヤツじゃないから」
「むむ、おかしな恰好とは失礼な! ボクにはこれが一番似合っちゃうんだから、そんな嫉妬するもんじゃないよ?」
ぴょん、とゴスロリ少女はアラタの腕から離れると、それからスカートの裾を持ち上げ優雅に一礼する。
「はじめましてだね。ボクは対魔機動隊・帝都第三小隊所属、叶響……なーんて、ちょい堅苦しかったかな? ま、正直身分だの所属だのは気にしないでくれると嬉しいよ。だから二人も気さくにヒーちゃんって親しみを込めて呼んでね♪ あ、でもでも、ビッちゃん、はやめてほしいかなー? ほら、なんかビッチっぽいからやだ。あ、他のあだ名候補は――」
「はいはい。響は少し黙っててね。それで、こちらが……」
いつまでも終わりそうにないゴスロリ少女・響の自己紹介を強引に断ち切って、桜香は隣に立っているミコトをまず示した。
そして、桜香がミコトのことを紹介しようとすると、にっと響が笑みを浮かべた。
「やだなあ、知ってるよ。天城ミコトちゃん、でしょ? まったく、桜香ってばお友達が出来たからって、まるで子供みたいにはしゃいじゃってさー。昨日から『小柄でカワイイ子だ』とか『でもおっぱい大きくて羨ましい』とか一晩中メールばっかり送ってきてたよね。ま、数少ないお友達が増えて嬉しかったのはわか――」
「少し、静かに、しなさい」
まるで、言い聞かせるように、三節に区切った言葉だった。
余計なことを言うな、と静かな刃のような瞳がゴスロリ少女を射抜く。
怒り狂うほうがまだマシだろう。
あんな人を殺せそうな視線を向けられたらアラタだって押し黙る。
いや、おそらく、逃げ出している。
「あはは、調子に乗って話が過ぎちゃったかな? ああん、ごめんごめんって、あんまり厳しい顔しないでよー」
「フン。で、こっちが例の『最強』さんよ」
そっぽを向いた桜香がぞんざいにアラタを紹介した。
ゴスロリ少女・響はおとがいに人差し指を当てて、じっくり確かめるように頭の先から爪先まで視線を這わせた。
「ふむふむ、ふむふむ……へぇ、ふぅん……」
「…………む、ぐぐ」
異性とかは関係なく、これは純粋に気恥ずかしくて、アラタは思わず顔を背ける。
「うん、天城アラタくん、だね。キミのことはたまに遠目に見物させてもらってるけど、まあ『最強』ってだけあってほんとすごいよ」
「いや、オレはそんな大層なヤツじゃ……」
「好きだよ」
「はッ⁉」
唐突に紡がれた聞き慣れない言葉に、アラタは反射的にピクンと肩を跳ねさせた。
「ボクはキミみたいな強いくせに優しい男の子は好きだ」
「な、う……いや、べつにオレは、やさしかねぇよ……つか、オレが戦ってるとこ見てんだろ? あれ見といて、やさしいってのはおかしいだろ……」
照れくさくなって頬を掻いたアラタを見て、ふふっと響は口許を緩ませた。
「ほら、そうやって照れるとこもカワイイじゃないか。うんうん、ほんとにキミって男はボクの好みだよ」
「ぐ、むぅ……」
どうしてこう恥ずかしい言葉ばかり……、とアラタはたじたじになっていた。
一方の響は楽しげな笑みを浮かべて、
「まぁ、べつに取って食おうとしたりはしないからさ、そんなに怖がらなくたって大丈夫! なにはともあれ、これからボクとも仲良くしてよね?」
「お、おう」
響が差し出してきた手を、おそるおそる握って挨拶を交わす。
やはり不思議な感覚だ。
こうやって女の子の手に抵抗なく、しかも自分から触れるのはアラタにとって初めての経験だった。
「むぅ……まったく、すぐデレデレするんだから」
そんなアラタの姿を遠目に眺めていたミコトは、珍しく頬を膨らませムッとした表情を浮かべていた。