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本条都九子は魔導書をつくる  作者: 筧伊瀬
グリモアツクール編
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06.第一回☆おしえてジュエルさま~ここはどこ?なんて国?~

『ツッコ。ぐりもあというのは、あなたのいうとおりまほうの本のことです』


 見かねたジュエルさまが鼻をスン、と鳴らしながら教えてくれる。こうしてみると、ユニコーンといったって鋭い角がちょっと生えてるだけの綺麗なお馬さんだ。


『あのほんにはまりょくがこめられていて、じゅもんのえいしょうにより現象に介入することができます』

「あっ、やっぱりか。ここはヨーロッパ風ファンタジー系ゲーム世界で、剣も魔法もあるタイプなんだね! ゴールド貯めてグリモアゲット!」

『ツッコ。ツッコはぐりもあをみたことが?』

「もちろん! ゲームのなかで!」

『わたしには、あなたがなにをいっているか分からない』


 うんうん、ジュエルさま。

 別に私が何をいっているかわかってくれなくていいんだよ。

 ただ私が楽しいだけの時間だから。うきうき。


「ワザオボエマシンって、実際どういう風にワザ教えてるんでしょうねー? 1、2の、ポン! でしょ? むかしから不思議だったんですよね、そんな簡単に強いワザ覚えられるなら、私も英単語覚えマシーンほしいわ! みたいな! または私に即効暗記パンをくれ! みたいな!」


 私が一人テンションを上げていると、まだ混乱状態から抜けていないセンさんが意を決したように顔をあげて、


「ええと、つまり、ツッコ? あなたは、異世界から来た人間ということですか?」

「そういう設定らしいっす」

「名家の生まれでもない、んですね?」

「我が家は平々凡々な中流家庭っす」

「ということは……では、あなたはこの世界の魔導書(グリモア)は見たことがないけれど、あなたのもといた世界での魔導書(グリモア)は馴染み深く、優秀な使い手だったということですね?」

「いえいえ、私はただの帰宅部のオタクの腐女子ってだけで。ぐりもあくりえいたー? なにそれ今期のアニメ?」

「……」


 再びフリーズするセンさん。

 グリモアをぺらぺらめくりながら呪詛のような独り言を吐き始めたのを見て、『あ、このひと勉強は出来るけど頭でっかちで融通が効かない上に、根暗で面倒くさいタイプだ』と断定した。

 トリップ状態のセンさんは放っておいて、私はスススとジュエルさまに近づいていく。


「……あの、ジュエルマイウさま? ちょっと聞きたいことがあったりするんですけどぉ」

『ジュエル、でいいですよ。はなししかたも無理もかんじますので、ツッコのはなしやすいように』

「じゃあ、お言葉にあまえてジュエルで! あの、ジュエル。そもそも、ここってどこなの? なんて国? さっきのあいつら、誰かわかる?」


 ほんとはセンさんのほうが詳しそうだからセンさんに聞きたかったが──人間の世界のことは、ジュエルのような高尚なユニコーンには与り知らぬことのように思った──、ここがどこか、あいつらが誰かくらいの基本世界設定くらいは教えてくれるだろう。

 すみませんジュエルさま、命の恩人に、こんなNPCみたいなことさせて。


『ここはサノコノ皇国、【境界の川】のないりくぶ、【アルガメント大橋地区】。ウエモノ皇国とのこっきょうです』

「お、おう。ニホンゴでおけ?」


 いきなり専門用語多用されても、ここには攻略サイトもお役立ちWikiもないのにどうしろってんだ。


『さきほどおいかけてきたにんげんは、ウエモノ皇国の兵士でしょう。ちかぢか、戦争をするそうです。わたしをグリモアでふくじゅうさせて、戦争につかうつもりだったようです』

「えっ、戦争!? ジュエルってば、こんなに美しいのにラスボス系の強さなの!? さすがユニコーン!!」

『またはつかまえて、ころすつもりだったのかも。わたしのツノはひとのこたちには価値あるものらしいですから』

「ああうん、ユニコーンのツノってたいてい、奇跡の妙薬とか不老不死の材料とかになるやつだよね」

『ツッコ、ひとごとのようなことを言っていますが、あなたもつかまっていたら、口封じにころされていたはずですよ』

「ころ……!?」


 なんてこったい、あのまま捕まってたらMAJIでSHINじゃう五秒前だったのか。都九子危機一髪!


(つまり……)


 ジュエルの話を総合する。

 ここはA国とB国──サノおうこく? と、ウエサマおうこく? 一回では覚えられない──の境界に位置している川の近くで、私がいるのはA国のほう。

 二つの国は戦争間近で、緊張状態。ときどきB国のやつらがA国にスパイにやってきて、略奪とかもするんだよ、と。

 まあ、ファンタジー世界では超絶スタンダードな設定ですな。いまどきリュウクエでもこんなに分かりやすいのはないんじゃない? ってくらい使い古されている。最新作はよく知らないけど。


(つまり私は、なにかをさせられるために呼ばれたってこと?)


 古今東西、大体の異世界トリップモノは何か目的があってその世界の人に呼ばれるものだ。

 巫女になって聖獣を呼び出すためであったり、魔王になって国を治めるためであったり……これは救国の英雄系。

 魔法使いに召還されて使い魔になって駄犬って呼ばれたり、家の庭で昼寝してたら突然現れた白うさぎに拉致されて不思議の国に連れてこられたり……これはざっくりいうと個人使用目的系?

 あとは、たまたま穴が開いてその中に吸い込まれて、とかの偶発系……おおざっぱにいうとこんなところだろうか。


 私の場合は、このどれに分類されるんだろう。

 戦争世界に連れてこられたってことは、このあと王様とかあらわれて「伝説の勇者様!」とか言われちゃうんだろうか?


 いやいや、そのパターンだとスタートは多分魔法使いサマとか神官サマとかがびっしり詰まった真っ暗い部屋の中だろうから、これは選択肢から除外していいはず。間違っても川には落とされまい。個人使用目的系も同じ理由で除外。


(……これってもしかして、偶然世界に出来たゆがみに吸い込まれちゃった系?)


 あちゃあ、一番めんどくさいやつだわ。

 目的がないからぬるぬる日常系に発達するやつだわ。

 しかもハーレムとか築いちゃって、「あれ?もう元の世界とかどうでもいいんじゃね? ここが楽園じゃね?」ってなるやつだわ。まあ、家に帰る気ないからそれでもいいんだけど。


「いやいやいや、これが夢落ちって可能性も十二分に……」

「あの!」


 脳内トリップショーをひとりで繰り広げていた私を引き戻したのは、センさんの現実的な一言だった。


「ひとまず、私の家にいらっしゃいませんか! ツッコ殿も、足の手当てをしないといけませんし、ここにいると、いつ敵に見つかるかわかりませんし!」


 これはごもっとも。

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