03.キャラメルポップコーンおいしいよ
ドーン、と地響きがした。音のしたほうを見ると、パタリ、と何かが川の下流のほうで倒れたのが見えた。
私はそんなに目がよくない。
最初、その黒い塊は、動物か何かだと思った。
イノシシやサル、クマとかの野生動物かと。
しかし、森の影から現れた『それ』が川のほうに向かって倒れ、水が赤く汚れたのを見た瞬間、サァッと血の気が引くのを感じた。
ニンゲンだ。
あの、川上から流れてくる赤い液体を溢れさせている物質は、人間だ。
「ひっ、ひっ、人、人が! 人が倒れた!」
パニックを起こす私の声に気付いたのか、川下にいた別の何人かの大声が聞こえてくる。
「おい、見ろ! ユニコーンだ!」
「しめた! アレを捕らえて『服従の魔導書』で従わせる! 褒賞が出るぞ!」
「賞金は山分けだ! オレが回り込んで足止めする、お前は詠唱しろ!」
「隣の人間は!? 一般人に見えるぞ!?」
「殺せ! バレてもどうってことない!!」
遠目で見ただけだが、男達は武装し、剣や弓などの武器を持っている。
人数はざっと数えただけだが、5人。
それが全てがこちらに走ってくる。
えっ? えっ?
「えっ……なにこれ、やばくない……?」
『だから、はやく離れなさいといったのです。ツッコ、はやくにげなさ――』
そのとき、ジュエルさまめがけて、男の一人が弓を放った。
「危ない!!」
気付いたら体が動いていた。
弓は間一髪ジュエルさまの尻尾を掠めただけですんだが、ジュエルさまに体当たりした拍子によろけてしまう。
痛い。地味に痛い。
そして恥ずかしい。
『ツッコ! ツッコ!』
「あ……ジュエルさま……だいじょうぶ……?」
『ツッコ! わたしはいいのです! どうしてかばったのです!』
「えー……なんでだろ……強いて言うならオルフェリア様サイコーだから……?」
オルフェリア様がサイコーだから仕方ない。
幸い私の足は矢で打たれて負傷したわけではなく、避けようとして盛大に転んだだけである。ちょっと膝ガシラさんから血がにじんじゃっただけ、全然走れるし、逃げられる。
だけど、どこに逃げればいいんだろう?
全速力で走り出したとして、土地勘なんて一切ない。
相手が迂回路を使って回り込んできたら押さえ込まれる。
ここで私がゲームやアニメや漫画の主人公だったら何かしらの特技やチート技を駆使して返り討ちに出来るのだろうが、私の特技は妄想で、趣味は絵を描くこととゲームすることとアニメ・漫画鑑賞、ネットサーフィン。
むかしやってた習い事はそろばんとスイミングと英会話と絵画教室で、剣道を現在進行形でやっているのは兄だ。
そもそも逃げ切ったとして、そのあとは?
かろうじて人里に降りられたとして、お金もなければ頼れる知り合いもいない。
「うっわ、積んだ!」
私が『なぜもっと異世界トリップ系の夢小説を読んでおかなかったのか』と後悔し絶望した、そのときた。
「……エデルデルベルスル、ステルメグログ、ソールジュビンズラード……」
どこからか男の人の声がする。
妙に響く、低くて、どこかあまい声。
きょろきょろと声の主を探すが、正直目の前から武装集団マッチョ野郎共がどんどん迫ってきていて、とにかくヤバい。
「やばいよやばいよ、逃げなきゃやばいよあばば」
「……カステルバンクルキャラルメル、ポップコンコナルチック、オイシーヨルーゴーゾー……」
え?
キャラメルポップコーン、おいしいよ、どうぞ?
「ゾールグンステン、ヴェールデルカ!! ――劫火に焼かれよ!!」
ごう!
どこからか炎が飛び出してきて、男たち目掛けて飛んでいった!
あちち! なんじゃこりゃ! ちょっと火の粉かぶった!
「走ってください!」
私の腕を掴む、男の人。