02.ジュエルマイウドルサウザルンバ
まず目に付くのは、額に生えた立派で殺傷力高そうなねじり角。
ぴかぴかのオーロラ色のそれは、光の角度によっては白くも金色にも見える。くりくりのおめめがチャームポイントの、雪のように白い毛並みのお馬さん。
あっ、都九子、ピーンと来た。
この子知ってる、ユニコーンだ。
オタクこじらせて十数年、オタク初期の頃にやったゲームでは仲間にしたし、最近やったゲームでは敵として倒した。
これがまた、ユニコーンの角って素材として高く売れるんだ。ついでに大人気乙女ゲームロスミレでは、擬人化したユニコーンと恋愛できちゃうんだから、ユニコーンは万能だ。イエーイ、オルフェリア様サイコー。
「まじか……」
どうやら選択肢1『パラグライダーに縛り付けられてライドオン』ではなく、選択肢2『急に竜巻でも起こって、飛ばされて異世界に来ちゃった』が正解だったらしい。そんなバナナ。
呆然としていると、くりくりおめめのユニコーンはこちらから一切視線をそらさずに、瞬きひとつせずじっとこちらを見ています。
じーっと、じーっと、私のことを見ているのです……こわいなぁ、いやだなぁ……喩えようのない恐怖が、私の背筋をサーッと走ります。これヤバイ、ジュンジ・イナガワも真っ青なパターンじゃん。
落ち着け落ち着け本条都九子、えーっと、とりあえず死んだふりすればいいんだっけ? それはクマ?
そうこうしている間に、ユニコーンはかつん、と一歩前に進んだ。二歩、三歩、私との距離が縮まっていく。
え、私しぬの?
食べられちゃうの?
頭からぱっくり、骨までガリガリかじられちゃうの?
「ひぃ……ッ、わ、わたし、おいしくないよ……!」
ぺたり、とその場に尻もちを着き、立ち上がって全力ダッシュしようにも腰が抜けて力が入らない。
顎はガクガク、手足もブルブル。そうこうしているうちに、ユニコーンは私の目の前にやってきて、
『――いいにおい。こんなひとの子ははじめて』
スン、と髪のにおいを嗅いで、ひとこと。
……ひとこと?
えっ、いま、喋った?
「えっ」
『はじめまして、奇妙なみなりの、ひとのこども。わたしはジュエルマイウドルサウザルンバ』
「えっ、るんばっ、まいどっ?」
『ジュエルマイウドルサウザルンバ。奇妙なみなりの、奇妙なにおいのひとの子ども。あなたはここでなにを?』
「えっ、なにを……?」
何をしていたか、と、私は問われているらしい。
ユニコーンに。
普通ならもっと考えなくてはいけないことがある気がするのだが、そのときの私は、質問には答えなくては、と咄嗟に判断した。
えーと、この、ジュエルなんとかさんに、聞かれる、なにしてるの?
あ、自己紹介?
「えーと、私、本条都九子と……あ、ツクコが名前で、ホンジョウが名字です」
『ツッコ』
「はい、えーと、ツクコね。ツクコ、ホンジョウ。はじめまして。ここでなにしてたか……ですよね……」
なにしてたのか。
なにしてたの?
なにをしていたのー?
「……なにしてたんだろ?」
『わからないのですか?』
「えーと、ずぶぬれでした。寝てました。森とか川とか見てました?」
『わたしには、あなたがなにをいっているかわからない』
そりゃごもっとも。
私は目をくりくりさせているジュエ……ルンバ、マイド……オルフェリア様、はロスミレのキャラだから違くて……ええい、暫定的にジュエルさまでいいや! に、学校がとか制服が濡れてとか屋上がとかを身振り手振りで説明をしようと試みるも、ジュエルさまはくりくりおめめを光らせて、ついでにぴんぴかの角のほうもキラキラさせて、『何をいっているのですか?』とバッサリ。
うん、ごもっとも。
『つまり、あなたは、べつの世界からきたのですか?』
「えっ、なんで分かったの!?」
都九子、びっくり! アンタはエスパーか!
私が目をまんまるにして驚いてみせると、ジュエルさまもまたくりくりおめめを光らせて、
『そういうことは時折あります。ついこのあいだも、このばしょに、くさい、ひとのこどもが』
「本当ですか!? え、その人どこで会える!? 異世界トリップのキーパーソン!!」
『このあいだといっても、ひとのこどものれきしになおせば、二百年ほどまえです』
「おっと、このユニコーンさん想像以上のご長寿」
都九子ちゃん、絶望に項垂れるの巻き。
どうするんだよ、キーパーソンと思ったけど二百年前とかもうお亡くなりになってますでしょうよ。
どうするんだよ、どうするんだよ私!!
『それより、ひとのこども。はやくここからはなれなさい。ここは、いま、いくさが……』
そのときである。
ドーン、と地響きがした。
「!? なに!?」
音のしたほうを見ると、パタリ、と何かが川の下流のほうで倒れたのが見えた。
補足。
都九子ちゃんのロスミレの押しキャラ、オルフェリア様はユニコーンです。オルフェリア様サイコー。明日も朝7時に投稿予定です。