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本条都九子は魔導書をつくる  作者: 筧伊瀬
グリモアツクール編
25/31

24.「俺の嫁になって!」

 結局、ハンバーグは周りのコゲコゲ部分だけナイフで取り除けばなんとか食べられたらしく、ディーンはもぐもぐもりもりおいしそうに私のお昼ご飯だったものを食べつくしてくれた。そりゃもう、もぐもぐ、もりもり、みんな食べるよ、な勢いで。


 おかげで私はセンさんが昨日作ってくれていたスープ──それも、ディーンがほぼ食べたのでほんのわずか──に、残ったパンのかけらを浸して食べるという物悲しい昼食になってしまったわけで。いや、センさんのスープは神だけれど、他に類を見ない超絶なおいしさなのだけど、このスープとハンバーガーとで頂きたかった私のお昼ご飯の野望は潰えてしまったわけで。


「はー。食った食った。ごちそーさん! アンタ料理うまいなー。スープもだけど、このはんばぁがぁ! ソースが絶品! 肉が焦げてなければ最高だったんだけど!」

「……そいつぁよぉございましたね……」


 キリッと、私はディーンを睨む。恨みを込めて、ギリリッと。


「じぁあ、本題に入るぜぇ……おまえさん、何者だい? なぜここに来た? おっと、喋りたくないなんて言うなよ? お前の答えは、ハイかイエスかヤー、このどれかだ」

「いや、だからそれなにキャラ?」


 うるさいな。

 いまは西部劇のアウトローなガンマンになって不届き物を成敗してやりたい気分なんだ、放っておいてくれ。


「別に、オレあやしいやつでもなんでもないぜ? オレは旅人、気まま勝手な風任せ。たまたまこのあたりを通り掛かったら苦しんでいるアンタがいた。オレはアンタを助けて、アンタはお礼に腹を空かせたオレは善意で(・・・)オレに昼飯を譲ってくれた。こんな感じで、偽りはナシ」

「善意って、ほとんど追いはぎのような勢いでしたが? それからあなた、グリモア使いでしょ?(・・・・・・・・・・) 魔導書使いってそんなひょいひょいいるものじゃないって聞いてるけど?」


 そう、私が気にかかっているのはそこだ。

 なぜ貴重なグリモア使いであるディーンが、こんな辺鄙なところにやってきたのか?

 ……そう、ここには、センさんがいる。

 くわしい事情は知らないが、グリモア使いとして有名だったというセンさん。彼のクビを、よもや狙っているのではあるまいな?


 私がじとっとした視線でメンチを切るようにディーンを睨むと、彼はほんの少しだけ目を開いた。

 そして、目元をすこし緩めたかと思うと、


「へえ……なんでアンタ、オレが魔導書(グリモア)使いだって気付いたの?」


 まるでもって瞳の奥が笑ってない笑顔で、言った。


「は?」

「オレはただのディーン(・・・・・・・)だ。旅人のディーン。そうとしか言ってないし、手持ちの魔導書も見せてない。もしかしてアンタ、オレのこと知ってる?」

「……ん?」


 私は小首をかしげる。

 ディーンは笑顔だったが、どこかうさんくさいと感じさせる笑みだった。そしてこの、背筋がチリチリするような、全身の毛が総毛立つような奇妙な居心地の悪さ。これはいわゆる、殺気というやつでは?

 なんだ、この変な構図は。

 ディーンがグリモア使いであることなんて、ちょっと勘の良いやつならすぐわかるだろうに。


「わざわざグリモアを見るまでもなくない? ディーン、さっき自分で言ってたじゃん。オレはアンタを助けた(・・・・・・・・・・)って。グリモアの闇に取り込まれた? らしい私を、ディーンは善意で助けてくれたんでしょ?」

「……そうだけど、それが?」

「あの口ぶりも態度も、かつてアンタ自身が、その闇に取り込まれた、経験者みたいな言い方だったよ?」


 その闇と戦えるのは自分だけとか、ひとはそれを希望と呼ぶとか。

 今思い出すと鳥肌が立ちそうな中2セリフだが、あのときの私は素直に聞き入れ留ことができた。それはなぜか?

 あの声の奥ににじむ感情が、労りだったからだ。

 彼は優しさで、闇に飲まれようとしていた私を助けてくれた。

 かつての経験した絶望、苦しさ、無力感を思い出し、そのときの痛みが彼が私に手をさしのべさせる原動力になったのだろうと。これは全部女のカンってやつだが、女のカンってバカにできないもんだぜ?

 私がどやっとして言うと、ディーンはきょとんとして、


「は……? それだけ?」


 はぁ?

 だけ、とはなんだ、だけとは!

 私のオンナのカンを馬鹿にするなんて、都九子さん、ちょっとおこですよ!


「もしかして、ほんとにそれだけ? それでオレが魔導書使いじゃなかったらどうするつもりだったの? 失礼極まりないだろ、世の中にはどんなに訓練しても魔導書を使えないうちの二番の兄貴みたいなやつもいるのに、たったそれだけで決め付けるとか罠用落とし穴踏み抜くようなもんだぜ? 自殺行為だろ、たったそれだけで……」

「いや、それだけもなにも。……ディーン、もしかして、気づいてないの?」

「なにを?」

「私が指摘したときの態度も、そのあとの口ぶりも、なにもかも全部『オレは魔導書使いです』って言ってるようなもんなんだけど」


 こんな態度で気付かないほうがどうかしている。

 あと、罠用落としを穴踏み抜くって表現面白いな。日本的に言うと地雷を踏み抜くって感じかな?


 私の言葉に、今度はディーンがぽかーんとした。

 口をあんぐりと開けていて、ちょっと間抜け。

 イケメンが台無しである。

 きょとんとしたりぽかーんとしたり、忙しい男だなぁと私が呆れていると、ディーンはいきなり、


「アッハハハハ! ハハ、アハハハハハ!」


 大声で笑い出した。


「な、なんだ? 気でも狂った?」

「アハハハ! い、いや、全然、正気も正気! でも、ハハハ! お嬢ちゃん、あったまいいねー! すごい! 気に入った! ねえ、名前は?」

「いや、頭いいもなにも……このくらい誰でも察するレベルでは……」

「いいから、名前は!」

「……名乗るほどのものではありません」

「いいから! 名前!」

「…………都九子」

「ツッコ! よし決めた! 俺の嫁になって!」


 ぽかーん。

 今度は私が口を開ける番になってしまった。


「はぁ? いやですけど」

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