22.その先の、光
「──それは想像力の暴走ってやつだぜ、お嬢ちゃん」
それは聞き覚えのない、男の声だった。
耳に優しい甘い声。なんかちょっと、おんなったらしっぽい……。
「意識をしっかり持て。食われるな。自分の闇だ。他の誰にも消せない闇だ。世界中にただひとり、お嬢ちゃんだけがそれと戦う力を持っている」
やみ?
だれの?
……わたしの?
このひとはなにをいっているの?
「やりたいことはないか? なにを差し置いてもほしかったものは? 好きなものは? 愛するひとは? どんなに苦しくても、ソレを想えば頑張れる。そんなものはないか?」
やりたいこと?
ほしかったもの?
すきなもの──愛する人。
それを想えばどんなに苦しくても頑張れる、そんなもの。
苦しいばかりの勉学も、いくらやっても報われない家事仕事も、キツいバイトも、それのことを想えば耐えられる。
──ある。
私には、それが、ある。
「あ、る……あるよ、あるの」
「そうか、良かったな。それは」
それは、
「それは人々に、『希望』と呼ばれるものだ」
その瞬間。
ぶわりと、目の前の闇が吹き飛んだ。
光があふれる。私のなかに、世界がもどってくる。
希望。
私の、希望。この光が、私の支え。
日々の活力。
昨日までのやさしい記憶。
明日がんばるための、今日の糧。
ああ、私の、希望は……。
私はその場に倒れ伏し、腹の底から大声を出した。
「オルフェリアさまァァァァァ!!」
オルフェリア様!
エドリーン様、ジョージ様、フレリーくん、まだ攻略してないけどオールドリー!
「ああああああしんどいいいいいい推しがしんどいいいいいむりいいいいい尊いいいいいいいいいおうちかえるううううううう帰ってゲームするううううううユキちゃんの幸せを祈るううううううううう」
「ちょ、どうした!? 落ち着け、大丈夫か!?」
「むりいいいいいいいいい尊いうわああああああああああ」
まじむり、しんどい。推しが尊い。
私はこの世界に来る前に遊んでいたゲームの登場キャラクターたちの名前を口々に叫ぶ。
錯乱状態でガンガンと壁に頭を打ち付け、ごろんごろんと床を転がる。まるで自室にいるときように。
目の前の変なイケメンがドン引きしてる? 「どうしよ、これ……どうすんのこいつ」って顔で佇んでる?
知るか。私はいま思い出したんだ。とにかく押しを愛でたいんだ。
私は気が済むまでそうやって押しへの愛を叫んだ。
押しは剣よりも強し。短くてすみません…
次回からは明るい?話に戻ります!