18.グリモアスペル
本日の夕食は買ってきたサンドイッチ、今朝の仕込んでおいたものを暖めたスープ、薬草のサラダ。
今日買い物したあれやこれやの大部分の荷解きは明日やることにして、まずは腹ごしらえだ。
うー、しかし今日のスープもおいしいなぁ。センさん、スープ作りの天才なんじゃないのかなぁ。
よく分からないキノコとよく分からないキノコとよく分からない緑の葉っぱがとろっと白いクリームで煮込まれている、謎のキノコと葉っぱのクリームスープだ。……この言い方だと怪しげでまずそうなんだけど、美味しいんだってば。この出汁、何でとってるんだろう。
「魔導書を読むために必要なものはふたつ。魔力と、想像力です」
「ふぉーふぉーひょふ?」
おっと、口に食べ物を入れながら喋るなんて下品だったかな。慌てて飲み込んで、もう一度言い直す。
「想像力ですか? ゆぅみーん、いめーじいずぱわぁ?」
「ゆぅ…………? ……そう、つまり、魔導書を読み上げながら、想像するのです」
センさんはそこで一度言葉を切り、歌うように続ける。
「想像するのです。現世への現象の介入を、奇跡の具現を、運命の服従を。想像によって言葉に力が宿る。宿った力が刹那の間律令を操作し、神の箱庭たるこの世界に一妙の光を宿す。それが魔導書の力であり本質であり本領であり、強いては変異質性の」
「ちょっと何言ってるか分かんないッス」
どうしよう、センさんがいきなりゲームのNPCみたいな説明しはじめちゃったよ。もう少し分かりやすくオナシャス。
「つまり? りまつ?」
「……ええと、つまり、魔導書を読むために必要なものは魔力と、想像力だということです」
なるほど。最初の話に戻ったわけだ。
「具体的にはどんなことするんですか? 魔力の種類の選別ですか? コップの中にたっぷり水入れて葉っぱ入れて『練』するの? 水見式? あっ私『練』どころか魔力も使えなかった!」
「そうですね。まずは魔力を込める訓練からでしょう。その前に、魔導書文字を覚えることから始めないといけませんね。同時進行で、日常文字も教えます。やることはいっぱいですよ」
「ぐりもあもじ? うわー、そうか、そっちも覚えないといけないのかぁ」
日常的に使う文字と特殊な言語としての魔導書文字は別の物、十分想定できる事だったのに、まったく思い至らなかった。私に覚えられるだろうか……就活終わった後、バイトと部活ばっかりでまともにお勉強してないなぁ。
「ツッコなら大丈夫ですよ。まずは試しにみてみますか?」
そういって、センさんは近くの棚から2冊本を持ってきた。
片方は日常文字で書かれた本。曰く、この世界の神について書かれた聖書であるらしい。なるほど分からん。もう片方は魔導書文字で書かれた本。魔導書読上者養成用の練習用呪文が書かれた導入的な本らしい。なるほど分から……ん?
「ん?」
ファルファーンファルファーン フルハターンザブルニン ドイルコナルゾ。
「読める、読めるぞ……父さんが夢中になるわけだ……」
じゃなくて。
「めっちゃカタカナやないかーーーい!」
グリモアスペル、それは思いっきりカタカナであった。