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本条都九子は魔導書をつくる  作者: 筧伊瀬
グリモアツクール編
15/31

14.いっせいに とびだしてきた!

 私の予想は、案の定現実のものとなる。

 センさんが馬車から馬を外して、共同馬小屋まで連れて行ってくるとスペースを離れた隙に、7人のお嬢様方がいっせいに飛び出してきたのだ。


 ポケモンの群れバトルかよ。


「ちょっと! あなたなんですの!」

「センさまに馴れ馴れしくして!」 

「先週まではいませんでしたわよね!?」

「センさまを愛でる会の会員でもないくせに!」

「センさまはみんなのセンさまですのよ!」

「身の程を知らない庶民の分際で馴れ馴れしいですわ!」

「センさまが優しいからって馴れ馴れしいですわ!」


 センさまを愛でる会ってなんだ、非公式ファンクラブか、というか『馴れ馴れしい』って言ってる人多すぎだろゲシュタルト崩壊するわ。

 ……とは、口には出さない。


「そう申されましても、わたしはただの雇われ店員ですので……」


 私はまず下手に出る作戦に出た。

 だいたいこの手のやからは、なにを言っても最終的に逆ギレかますタイプだろう。だからあまり意味はないと思うが……しかし、最初から喧嘩腰だとこじれるものがさらにこじれたりしちゃうわけで……。


「お嬢様方に置かれましては、わたしのことは置物のように思っていただいて結構ですので……」

「雇われ定員ですって! それってつまり、センさまとずっと一緒にいられるってことですの!?」


 おっと、はやくもギャクギレーゼ化。オジョーサマからギャクギレーゼの進化が虫タイプ並みにはやくてツッコさんびっくりだ。


「それってつまり、センさまと一緒に昼食を取ったり、お茶をご一緒したり、夕食を取ったり!」

「朝食までご一緒できるということ!?」

「うらやましいですわ! ずるいですわ!」

「少しお顔が可愛らしいからって!」

「少し髪と目の色が珍しいからって、いい気にならないでくださいまし!」

「わ、わたくしだって、庶民の身分であればもっとセンさまと……!」


 わなわな震えるお嬢様方。しかし無駄に育ちがいいからなのか、悪口の語彙も少ないしそもそも指摘する点がいちいちズレている。

 これがキラキラDQN女共だったら、ビッ●だのヤ●マンだのキ●ガイだの聞くに耐えない放送禁止用語のオンパレードだっただろう。──あ、嫌なやつのこと思い出した。

 ふふっ、と思わず笑みがこぼれる。


「ちょっと、何を笑ってらっしゃるんですの!?」

「あなた、自分の立場をお分かりでして!?」

「……自分の立場もなにも、お嬢様方こそなんにも分かってないんスね」


 思わず強い口調になる。

 正直なところ、不意打ちでキラキラDQN女どもを思い出してしまったせいで今かなりイラッとしている。

 学校では何も出来なかった。

 言い返したりやり返したりして、内申に響くのが怖かった。

 だがここは学校ではない。それどころか、地球ですらない。異世界だ。誰も私のことを知らない場所。私は自由。だから、私は我慢する必要なんかない。

 我慢する必要ないのだ!


「こんな頭悪そうで陰湿なことやっといて、センさんが振り向いてくれるとでも? 頭悪いんですか? そもそもセンさんって、こういう卑怯な真似するひと嫌いでしょ」

「卑怯!?」

「わたくしどものどこが卑怯ですの!?」

「十分卑怯でしょー、自覚ないの? 本人のいないところで近くにいる女に大勢で詰めかけて威圧するとか。自覚のない卑怯とか一番最悪。タチわるっ。性格ブスってことでしょ?」

「なんですって……!」

「──好かれたいなら、好かれるように自分を磨けって言ってるの!」


 バン! と机をたたく。それだけでお嬢様方は面白いように怯む。猫だましにされた猫みたいにびっくりしてる。なんだよ、喧嘩売ってきた割に軟弱だな。

 びしっ! と指を突き立てる私。


「そこの茶髪のあなたとトンガリ耳&八重歯のあなたは髪に艶がない! そこの青い目とウサギ耳のあなたは顔にニキビ! 黒髪のアナタはそばかす! クマっぽい耳のあなたは、もう少し節制して痩せなさい! 結論! 全員現実を見ろ! 他人にかまけてる暇があれば自分を磨く努力しろ、性格ブスども!」


 ひっ、と名指しされたお嬢様方は身をすくめている。かまうものか、喧嘩を売ってきたのはそっちからだ。


「そもそもアナタ方、営業妨害なの! ここはセンさんの店なの! 家が裕福で可愛いおべべ着せてもらって手荒れのない真っ白い手のあんたたちには分からないだろーけど、ここはそもそも生活するためのお金を稼ぐところなの! あんたらのせいでセンさんの評判が落ちたらどうしてくれるの!? センさんはここで商売できなくなったら仕事を探して別のところに行くよ、分かってんの!?」

「えっ、センさまがいなくなる!?」

「そ、そんなぁ!」

「センさまがいなくなるなんて!」

「現実が見えたならそこを退く! でもその前に、営業妨害した分なんか買って帰れ! 茶髪とトンガリ耳はこの洗髪用石鹸6プランツ! よく泡立ててお風呂のときに使いなさい! ただし、洗い残しがないように! もう洗い流したと思っても念入りにしないとさらに髪が痛むからね!」

「は、はいっ」

「わ、わかりましたわ!」

「青目とウサギ耳はこっちのニキビ用洗顔セット3クレイス5プランツ、黒髪はそばかすだから美白用4クレイス! 化粧水はケチらずたっぷり、クリームとセットで朝晩毎日!」

「は、はいっ」

「わっわかりまっ」

「あとそこのクマ耳!」

「わたくしは!?」

「クマ耳は! ……あー……運動しなさい!」


 以上! と私は強引に商品を押し付けて代金を強奪、するとお嬢様方は蜘蛛の子を散らすようにスッタカターと逃げていった。

 ここで「覚えてなさいよー!」か「やな感じー!」と捨て台詞が聞こえてきたら完璧だったが、さすがにお嬢様方にはそこまで期待できない。

 ふう、とため息。

 やりきってやった感とスッキリ感で胸が軽い。


(……こ、これでセンさんの店の評判、落ちたりしないよね……)


 言うだけ言ってすかっとすると、ちょっと冷静になってしまった。

 もしかしなくても、客に暴言を吐く店員なんてそれだけでもうマイナスなのでは。


(……)


 営業妨害したのって、むしろ私だったのでは。これで店の評判が悪くなって、本当にセンさんがこの街から出ていくハメになったらどうしよう。ただでさえ迷惑かけてるのに、これ以上あの優しい人に迷惑かけるなんて申し訳なさすぎる。といっても、既に口から出たものを撤回することはできないし……。


(……ま、いいか。こんなことで評判が落ちるようならたかだかそんな街だったってことだ!)


 かなりすかっとしたので、その分めちゃくちゃ前向きになった私であった!

 ああ! 道中で商品の説明聞いておいてほんとによかった! ちょっと高いもの売りつけてやったから、店の売上もアップだー!。


「ただいまツッコ。長引いてしまって申し訳ありません。お詫びと店番のお礼に食べるもの買ってきたのですが……」


 なにかありましたか? とこてりと小首を傾げるセンさんの手には、紙袋。

 ありがたい。怒ったらなんだかおなかすいた。


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