11.How to ぐりもあ
やっと魔導書についての説明話です
「私がぐりもあくりえいたーってやつになるには、何をすればいいですか?」
「ええっ!?」
イソノさんちのマスオさんみたいに驚いたセンさん、分かりやすすぎである。
こんなんで大丈夫なのかと心配してしまうくらいの分かりやすさだ。
しかしすぐに眉をむーっと潜めて、これまた分かりやすい困惑顔。
私の意図がつかみかねている、という感じだろうか。
「……それは、あの……急にどうしてそんなことを?」
「んー、これも、また、予想の話なんですけど。私ってたぶん、ぐりもあくりえいたーってやつになれる素質というか、才能があるんだろうなって」
客観的に見るとめちゃくちゃ傲慢な言葉だが、昨日センさんはグリモアが書き換わっているのを見て、かなり驚いていた。
推測するに、すでに完成されたグリモアの呪文が書き換わるなんてこと、滅多にあることではないのだろう。
だって想像してほしい。
氷系の魔法を使うための呪文を仮に「アイスシャワー」ってのに設定したとして、ある日何の前触れもなく呪文が「ドヒャー」とか「ユキ、ノ、ジルシ!」とか「ミルクアイス!」とかになったら、中身がどんな効力があるか想像できなくて混乱するし、製作会社がとうとうトチ狂ったと思うだろう。
または株主総会で忖度があったとか。
「昨日の今日ですし、この世界のこと、全くわからないです。センさんに助けてもらえなかったら、私、昨日あの河原で殺されてたと思う。私にはここのルールがわからない、土地勘がない、常識がない、ナイナイ尽くしです。そんな私が出来そうなことがある、だったらまずはそこから攻めてみるべきだろうなって思うんです」
「それで、魔導書創作者に? 魔導書読上者でも、よいのでは」
「りぃだぁ?」
なんだそれは。T●KI●の城●パイセンか。
「そうか……まずそこからですね」
センさんは言う。
そもそも『魔導書』とは、魔力が込められた本のことであると。
読み上げることで本に込められた魔法の力が発動し、魔法の発動のためには本の中に書かれている文字を一字一句違わずに読み上げなくてはならない。
既存のグリモアを読み上げる能力がある者を『魔導書読上者』、既存のグリモアを写生し、書き写す能力がある者を『魔導書書写者』、そして全くあたらしい魔法を作り出す者を『魔魔導書創作者』と呼ぶのだと。
「そもそも魔導書を読める者自体が希少です。魔導書文字は偉大なる神と我らが始祖の言葉で書かれていて、高い教養が必要です。その時点で一般の庶民にはまず読めません」
「その点、この世界のひとの識字率はどうなってるんですか? あ、識字率で伝わります? どのくらいのひとが文字を読み書きできるのかなっていう意味なんですか」
「識字率、で伝わりますよ。一般の方々の識字率は、お恥ずかしながら低いです。王都にいけばそれなりに上がりますが、それも商家の人間や富豪など日常的に文字を必要とする人々に限定されます。農村にいけば文字など読めなくても生活できますから、必要性がないという現実もあります」
ほほー。典型的な中性ヨーロッパ世界ですなぁ。
「たとえば魔導書を読むという過程をクリアしたところで、そのあと声に魔力を込める過程が必須です。声に魔力を込めるのは、魔導書をただ読むだけより遥かに難しい。魔導書文字の読解をクリアする者も少ないですが、魔導書読上者になるとさらに少ないのです」
「ほほー……じゃあ、昨日の騎士たちも、かなり頭いいの? そんな風には見えなかったけども」
「あれは……おそらく、疑似魔導書読上者ですね。早い話が、魔導書の文字を一冊分丸暗記してしまうのです」
「へ!? そんな定期テスト前の一夜漬けみたいなのアリなの!?」
「そもそも魔導書を発動させる条件は、“魔導書を所持していること”と“呪文に魔力を乗せられること”の二点だけです。第2条件の“声に魔力を乗せる“さえ通過すれば、呪文は暗記してしまえばいい。他の魔導書に応用はできない欠点はありますが、一個隊内の役割分担さえきっちり出来ていれば有用です。一人が行動制限や捕縛系の呪文を唱え動きを封じ、一人が攻撃呪文を発動させ、もう一人は補助をする……などといった具合です」
「なるほど、個人競技じゃなくてチーム戦、しかもスポーツでもなんでもないから、たとえ卑怯だろうとやったもん勝ちってことですね」
試合で負けても戦争に勝つ! みたいな精神かな。
「話を元に戻します。ツッコ、魔導書創作者になるのは簡単ではありませんよ。魔導書文字を読み書きする教養、魔導書に魔力を込める作法や礼式や所作、なにより魔導書を一から作り上げる想像力が必要なのです。私も魔導書創作者の端くれとして助言しますが、言葉では尽くせないほど苦難の多い道です」
「難しいんですか……」
「ええ、とても」
「そうですか……でも私、グリモアクリエイターになります!」
「そうですか……さすがツッコです。あなたの志はとても高いのですね。私も見習わ……」
「だって、がっぽり稼げそうだし!」
「え?」
特許でウハウハなにおいがするし!
***
こうして、突発的に決まった私のグリモアクリエイターへの道であるが、師匠は言わずもがなセンさんが引き受けてくれた。
ただし、私の生活に今後必要なものを揃えるのが先だから朝食を食べたら街に降りると言われた。
……また、登山ですか。
補足。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
ツッコの地の文では、魔導書のことが時々「ぐりもあ」とか「グリモア」とか、文体が統一してないときがありますが、それは『よく分からないものを舌足らずに発音するようなイメージ』であえて使っています。
その点、センさんが『魔導書』と表現するのは、キレイな英語の発音をしている、みたいなイメージでとらえてもらえたらと思います。……そのため、誤字さんの会話のなかで『魔導書』と書かれていない箇所は誤字なので、ご指摘いただけますと大変助かります……。