10.おいくらでしょうか
『おかねがひつようなら、わたしが払います。ツッコはおんじんですし』
いつまで経っても朝食にやってこない私とセンさんに業を煮やしたのか、幼女ジュエルが客室にやってきた。
いまはどういうわけか、私の膝の間に座り、あまった足をぷらぷらさせている。
かわいい。意味もなく頭なでなでしてほっぺぷにぷにしたい。
「いやいや恩人って。むしろ私のほうが助けてもらったんだから、逆だって。というかジュエル、人間の通貨なんか持ってるの?」
『きのうもいったかもしれませんが、わたしのツノは、たかくうれるのです。ていき的にはえかわるものなので、はえかわったらにんげんのおとなのおとこにへんげして、まちにうりにでているのです』
「ジュエルマイウさま、そんなことしてたんですか……そもそも私、ツッコに金銭の要求をしようだなんて思ってません!」
センさんは『心外だ、不名誉だ』と言わんばかりにぷんぷんしている。
ぷんぷん。
さとう●緒さん以外に、この効果音を使いこなす人がいるとは思わなかった。
「ツッコがこの国の常識を身に着けないまま放り出すなんて、そんなことしたらどんな風に悪用されるか! それに、ツッコはその、か、かわいらしいですし……兵士に乱暴されてしまうかもしれません!!」
「エロ同人誌みたいに? エロ同人誌みたいに?」
「真面目に聞いているのですか!!」
えへ。ごめんなさい。茶化しちゃった。
「……センさんはいいひとですねぇ」
「き、急になんですかっ! 誤魔化されまさんよ、ツッコ!」
「いやぁ」
私の言葉は、彼には馬鹿にしているように聞こえただろうか。でも、心の底からそう思ったのだ。
だって、センさんの言葉もお説教も、全然裏あるように聞こえない。私のことを真剣に心配して、だからこそ真剣に怒ってくれているのがまっすぐに伝わってくる。
だってこういうの、なんだかくすぐったいじゃないか。
「ほんとに、センさんっていいひとだなって思って。だから、心苦しいんですよ。一方的に迷惑かけて、何にも返せないのって」
……というのは、半分ほんとで、半分は建前。
セんさんのこと、すごくいいひとだなって思うし、これから私が提案することは、たぶん彼を利用することになるのだろうけれど。
「これ、予想なんで、もし不謹慎だったり常識外れだったりしたら、その都度指摘してくださいね、センさん」
「……はい、わかりました」
「まず、質問その一。もしかして、グリモアってかなり貴重?」
「えっ」
目に見えてびっくりしているセンさん。
このひと、ほんとに嘘がつけないんだなぁ。
「質問その二。軍事的利用価値、高い? 政治的利用価値も高い? さらに言うと、作る人がなんらかの理由で限られていて、量産もできない? お金にもなる?」
「ちょ、ちょっと待ってください、わたしはまだ、グリモアについては何も説明していないのに……!」
「こんなの、ちょっと予想を立てればすぐわかりますよ」
ゲームの世界でも、仕事ってあるし。勇者とか剣士とか踊り子とか遊び人とか。
ジョブにはスキルがつきものだ。
魔法使いには魔法、忍者には忍術、勇者には聖剣、みたいにね。
「んで、最後の質問なんですけど」
「なんでしょう」
「私がぐりもあくりえいたーってやつになるには、何をすればいいですか?」
「ええっ!?」
びっくり仰天、といった顔の、センさん。
このひと、ほんとに顔に出るひとだなぁ。
Q.JKツッコちゃんがなんでぷんぷん言ってた時代のさとう●緒さんを知っているの?
A.ツッコちゃんは小さいころから家で一人でいることが多かったので、一人でテレビを見たり、一人でインターネットしたりしてました。いろいろ耳年増です。