明かされる力
「では、これから、いかにして我々が人間共に打ち勝つのか、その方法について教えるとしよう」
皆の興奮が収まったところで、ついにサラスは核心について語り出した。俺もまだ、詳しくは聞いていない彼女のプランとやらを、
「じゃが、それらを話す前に先に今までの余の過去について話しておこうか」
だが、その前に先に彼女は自身の過去についてを喋りだした。自分が戦争に参加せずに今まで何をしていたのかをだ。
サラスの過去話を要約すると、彼女は、勇者パーティが魔王城に攻め込む約二十年くらい前に魔王になり、なった直後に、彼女が魔王であること知った、魔物の有力者の一人であった父サタナスの北の大地の覇権争いに勝つ道具として利用されていたそうだ。
どうでもいいが、ずっと秘密にしているあいつの年齢が気なるが、今は置いて置こう。
その後、サタナスは、自分が魔王だと周囲の者達を騙すことで、多くの魔物の支持を集める一方で、自分の側近、後に四天王と呼ばれる者達などの極一部にのみ秘密を打ち明け、サラスにそいつらにのみ力を与えるように命令を下した。
当時の彼女の力ではサタナスには勝てなかったようで、従うしかなかったそうだ。俺からしたらあの猿に一撃でやられたという記憶しかないのだが、あれだけ強いサラスが当時の自分では勝てないと言うからには、魔王の力抜きでも相当強かったのだろう。そして、それを破ったあの猿の戦力評価を残念ながら上げねばならない。
その後、サラスによって強化された幹部と魔王の名で集めた大軍を使い、サタナスは北の大地の大半を支配下に収め、そのまま、南の人間の王国に攻め、返り討ちに合い、最後は勇者によって倒されたというのが、サラスの言う彼女の過去話であった。
一通り話終えたサラスは何やら複雑そうな顔をしている。結果として多くの魔物が戦死したことの少なからず責任を感じているのだろうか?それとも、今の話にはまだ何か言っていないことがあるのだろうか?
「余の過去は以上じゃ。パワーアップのための道具として使われていたので、あまり良い思い出ではないが………しかし、余だって、ずっとあの父に従っていたわけではないぞ。父に従いながら、余はこの魔王の力について研究をした。そして、見つけたのじゃ魔王の本当の力を」
メリハリをつけるために、サラスは一呼吸開けた。ついに長年の研究の成果を魔物達に話す時がきたのだ。緊張しているのだろうか、ごくりと聞く方の魔物達からも唾を飲みこむ音が聞こえてくる。
「さっきも言ったが、魔王とは女神のように魔物に力を与える存在であると、つまり、魔王は魔物に何かを与えることができるのじゃ」
「「「おおおう、おう?」」」
俺は、気になる部分があったので少し興味を惹かれたが、残念ながら、この場の大半を占める魔物達にとって、サラスの渾身の研究発表は、先程、アレックスにやった身体能力を上げる〈限界突破の儀〉とやらと同じだと考えているみたいでいまいち盛り上がらなかった。
「あれ? 余り驚かんぞ? 他人に何かを与える能力じゃぞ! もっと、驚かんかい!!」
一世一代の研究発表の受けがよろしくないことに、魔王様はお怒りモードである。
「しかし、魔王様、あれだけもったいつけて先程、私に行ったことをもう一度ご説明されても」
皆を代弁してアレックスが、声を上げ、それに追随するように周囲から賛同の声も上がった。
その光景を後ろで眺めながら俺は、今サラスが話した魔王の力を自分なりにまとめて一つの答えを出す。そして、それが合っているかを確かめるために、彼女に尋ねた。
「サラス、つまり、お前の言う魔王の力というのは人間が使う付与魔法〈エンチャント〉のようなものということか?」
魔法、それは、魔法名を唱えることで体内の魔力を消費し、火、水、風、土、光、闇の六つの元素を操る女神から与えられた人間だけの力。個人によって適正やら才能はあるが、それでも魔法が使える有無は非常に大きい。
そして、魔法には、攻撃魔法、防御魔法、回復魔法、強化魔法、付与魔法などいくつか種類がある。サラスの今の話を聞いて、俺が最初に気になったのは、与えるという部分が魔法武器を作る際に必要不可欠な存在である付与魔法に似ているということであった。
「そ、そうじゃ、やはり、魔法を使えるロイなら、理解できるようじゃの。よかった、よかった」
魔法が使えないため、付与魔法についての知識が乏しく、未だに理解が追いつかない魔物達の中、サラスは、一人だけだが理解者がいたことにほっと胸をなでおろしている。
その様子を見ながら俺は、頭の中で〈エンチャント〉についておさらいをする。
生活を支える下級魔法。戦闘時に使う中級魔法。そして、達人レベルが使用する上級魔法と魔法には三つの階級がある。
付与魔法〈エンチャント〉は、光の属性の上級魔法に属し、中級以下のあらゆる属性の魔法を剣や弓に付与する魔法である。
そのため非常に使い手が少ないが、〈エンチャント〉の使い手が作る魔法武器は、魔法が苦手な者でも、体内の魔力を使って魔法を発動できるようになるため、その価値は非常に高い。
しかしながら、希少過ぎて、王国民が五百万人近くいるのに対し、現在、魔法武器の数が、三百ほどしかないと言われているので、魔法武器を持っているのは権力者である貴族か、一部の高い戦闘力を持つ者くらいなのが実情だ。
なので、サラスの言う魔王の真の力が、強大な力である事は間違いない。だが、もし魔王の真の力が付与魔法の一種であれば、少し残念である。何故なら、〈エンチャント〉魔法をも凌ぐ力を俺は知っているからである。
「だが、サラス。それだと、魔王の力と言うのは、射手の従者と同じような物になるのでは?」
付与魔法についての知識が乏しい魔物でも、長年、王国と戦っているためか、射手の従者の事は、よく知っているようで、何となく理解してきた者達がちらほら出てきた。
「射手の従者なら知っているぜ。確か、狙った矢が必ず当たるんだよな。一度遠くから見たぜ」
「そうだ! しかも、矢に火とか風と纏わせてくるからかなり厄介だと聞くぜ」
射手の従者であるマリアリアの持つ射手の加護は、弓矢が必ず当たるようになることと、付与魔法〈エンチャント〉の上位版のような付与能力を持つことだ。何故上位版と言えるかと言うと、エンチャントでは、中級以下の魔法しか付与できないが、射手の加護の場合は、六属性を全てを自由自在にしかも、上級魔法並みの威力で付与できるのだ。
例えば、〈エンチャント〉でファイアボールを剣に付与すれば、刀身から火の玉を出す剣ができる。対して、射手の加護の場合は、使い手であるマリアリアが、時間を掛けて力を注いだ分に応じて、使い手が望むように炎を吐き出す剣が完成する。
マリアリア製の武器の方が圧倒的に〈エンチャント〉で作られた武器よりも、自由度も出力も優れているのだ。もっとも貴族としてのプライドが高かったマリアリアは、勇者と自分の矢にしか付与していなかったが、
「しかし、魔王の力が従者と似たような力は少し残念だな、せめて、勇者と同格だったらな」
誰かがボソリと呟いた。すると一気に場の空気が沈む。魔王の力は勇者の子分である従者と同レベルなのだと。やはり壁は高いとそう思うのはしかたないだろう。俺だってそう思う。
しかし、サラスの頭の中は違うようだ。
「いやいや、お主たち何か勘違いしているぞ。余の力は従者如きの遥か上を行くぞ。なんせ、仮にも女神の劣化版みたいなものじゃからな。じゃが、それを見せる前に、今度は先にロイの力を説明しなければならない。なので、今は余の力がただ、魔物の身体能力を上げるだけの能力ではないと言う事を理解して置いてくれ」
えっ、この空気の中で、解説の途中で、俺に振るのか?
俺はサラスの無茶ぶりに呆れながらも、言う通りにサラスの横に並んだ。
「よし、ロイ、空を飛んでいた時に話したお主の力を説明してやれ」
「分かった。みんなも知っての通り、俺が女神から貰った加護は荷運びの加護。輸送には役立つが、戦闘には使えない。サラスと会うまでは、そう思っていた。でも違う。俺の力は、多分君達が考えているよりも強力だ」
あの中に放り込まれたのが、体内時計とやらを持っていたサラスだからこそ気付いた秘密だろうが。
「アレックス。悪いが少しだけ協力してもらうぞ?」
俺は、闘技場でよく戦っていたこの中で一番の顔馴染のゴブリンであるアレックスに助力を求める。彼は心よく引き受けてくれた。
「いいぜ、何をすればいい?」
「簡単だ。今から、また収納空間に君を入れる。そして、向こうに行ったら、すぐに1から数を数えててくれ」
「? まあ良く分からんが了解した」
俺はアレックスに触れ、向こうに送るとすぐさま、数を数え始めた。
「1,2,3,4,5,6,7,8,9,10、ほい!」
そして、十秒後に彼を取り出す。
「94、95、96、ん? 戻ったのか?」
アレックスが戻った直後、彼が口にしていた数字と俺が言っていた数字が余りにも違うことに、皆驚いてはいるが、だからどうしたと言う空気が漂っている。
「当然だが、俺とアレックスでは、数える速度は違うし、出し入れする時に若干の時間差はある。だが、今のを見て分かっただろう? サラスが言うには、こっちでの十秒は向こうでは約百秒、つまり向こうは十倍時間が経つのが早い」
分かりやすく言ったつもりだが、それでも、まだ、いまいち理解できていない者達がいたので、俺は彼らが理解できるようにある例え話をする。
「例えば、全治十日の怪我をしたとする。そいつをこの魔法の中に送り、翌日に出す。すると、向こうではすでに十日経っているから、そいつはもう完治しているんだ」
事のヤバさが理解できたのか、一部の魔物が反応した。
「作るのに一か月、約三十日かかる武器があったとして、材料と職人を送れば、三日でできる」
「向こうで一年間、戦闘訓練に明け暮れてもこっちでは一か月ちょっとしか経っていない」
驚愕する魔物達の顔を見て、自分達がどれほど、ヤバいものを手にしているのか理解できたようだ。そう、荷物持ちとしてしか扱われなかった俺の荷運びの加護。確かに戦闘力ないが、サポート面なら一番ヤバいかもしれない。
こんなに恐ろしい力を持っていて今まで気が付かなかった自分に不甲斐なさを抱きながら、ほとんど魔物が俺の能力の恐ろしさを理解できたのを確認し、俺はサラスにバトンを返した。
「こんなところか、サラス、これでいいか?」
サラスは親指を立てバッチリじゃと笑うと、不敵に笑みを浮かべる。
「さて、ロイの力は理解できたな。今までは、ただの荷物持ちとしてしか活用されてこなかったロイの加護じゃが、上手く扱えば、敵に攻められない安全な場所で、短期間のうちに壊滅した魔王軍を再建させることが可能だと言うことがまずは理解できたな?」
時間が少し掛かったが、話を理解できた魔物達が、これなら勝てると強く意気込む。しかし、それでも俺には、まだ不安があった。その程度では人間には勝てないと知っているからだ。そして、この場にはもう一人、俺と同じ考えを持つものがいた。
「盛り上がっている所悪いが、それだけではだめじゃ。今言った方法では、、人間共に一時的に大きな打撃を与えることはできるが、それだけでは不十分じゃ。余の目的は人間を支配者の地位から引きずり下ろし、魔物の時代を作ること、余の力でちょっとばかし強化された魔物がいくらところで、魔物の時代を作るの不可能じゃ」
サラスの言うことはもっともである。俺とサラスの力を合わせれば、普段よりも強化された魔物の大軍を編成できるが、ただ強いだけの魔物がたくさんいたところで、人間には勝てない。
戦術面、兵士の運用、武器などの技術力、魔物が人間に劣るものは多々あるが、やはり一番致命的なのは、魔物は、魔法が使えないため、戦いの要である遠距離攻撃の手段が非常に乏しく、遠距離から一方にやられてきた歴史があることだ。
魔法が使えない魔物側の、遠距離攻撃の手段として最も優れているのは弓矢だ。だが、そもそも不毛な土地のため、その弓矢を作るほどの材料が満足に用意できない。しかも、矢を飛ばした所で人間の防御魔法を破れるには大量に浴びせなければならない。ならば消耗品である矢を作るくらいなら、剣や槍を作った方が戦果をより多く挙げられると魔物側は考えて遠距離武器を作ってこなかった。
だが、遠距離攻撃がなければ、敵に向かって突進するしかない。そして、魔物には防御魔法のような盾もない。なので、魔物の剣が敵に届く前に多大な犠牲が出る。これこそが魔物側が戦いに勝てない最大の原因だ。
一時の復讐だけを考えるのであれば、強化した魔物を大量にばら撒けば良いかもしれないが、俺達が目指すのは魔物を支配者にすることだ。なので、あらゆる面で魔物は人間を凌駕する必要がある。
「余とロイが力を合わせても、できるのは、今までの魔王軍の延長線じゃ。延長戦ではだめなのじゃ。我々は人間に勝てるほどの戦力を揃えるのではなく。人間を超える戦力も持たなくてはならない。そのために重要になってくるのが、余が発見した魔王の真の力じゃ。
では、これからそれをお主達に見せてやろう。おい! そこに座っているハーピイ、確かルナと言ったな。お主、今から余と共にロイの収納空間に行くぞ」
「後でのお楽しみじゃ」と言ってサラスは俺にも、魔王の真の力とやらを今まで教えてはくれなかった。なので、これから何をするのか、少し楽しみである。と言うか、今後の戦いの鍵を握っている。もし、真の力とやらが、ショボいものであったのならば、色々と考えなくてはならない。それぐらい重要だ。
俺は心の中で、頼むぞと、女神ではない何かに祈りながら、サラスと突然指名されて慌ているハーピィのルナと数日分の食料を向こうに送りこんだ。
その後、残された俺達は、その場で一度解散し、それぞれが食料調達などで時間を潰すなどして、翌日、サラスが事前に言った正午に再び集合して、彼女達を取り出す。
ハァハァハァと出てきたのは、息を切らせ今にも倒れそうなくらいに疲弊していたルナと普段通りのサラスであった。
ルナだけ何で疲れているんだ?と言う全員の共通を疑問を尻目に、サラスは叫ぶ。
「ではやるのじゃ、ルナ!!」
「はっ、はい、行きます。〈ファイアーボール〉!!」
ファイアーボールと叫び、ルナが掌から放ったのは、拳大の火の玉。そう、それはどこからどう見ても、異常性を一切感じさせない、ごく普通の火属性中級攻撃魔法の〈ファイアーボール〉であった。
ファイアーボールは人間の大人の大半が取得している攻撃魔法の一つだ。なので、ほとんどの者が使える。魔法の才能が乏しい俺にとっては最大級の攻撃魔法であり、半分人間の血を引いているサラスも当たり前のように使える。しかし、ルナは人間の血など全く入っていない普通の魔物、ただのハーピィである。
「分かったじゃろう。歴代の魔王達が、配下の者の身体能力や魔力を強化するものだと勘違いしていたこの力の真の能力。余はルナに、女神が人間に与えたように、魔法を使うための力、そのものを与えたのじゃ。まあ、余に人間の血が混じっているからできたことと、余の長年の努力の賜物のお陰じゃがの。と言うか、お主らの驚く顔の方が面白い、散々引っ張った甲斐があった。はっはははははははは」
得意技に笑うサラス。それに対して俺を含め、残りの魔物全員は唖然としていた。
無理もない。魔法は人間だけのものという絶対のルールが、目の前で破られたのだ。きっと他の魔物達と同様で俺の目も点になっているに違いない。これは、間違いなく今までで一番驚いたことである。
「それと、ロイの力もはっきりと分かったじゃろう?才能に恵まれているルナをスパルタで追い込んだが、それでもルナがファイアーボール一つを使いこなすのに八日以上掛かった。しかし、さっきもロイが言ったが。時間が異なる彼の収納空間内であれば、こちらの世界では一日も掛からない。つまり我々は超短期間で強くなれるのじゃ」
そして、ここでさっき俺が収納魔法について説明してきたのが効果を表す。難しい修行も俺の魔法の中なら大幅に時間を短縮できるのだ。
俺達は、新たな力と効率的に学べる空間。
これは、もしかして、本当にいけるのではない?
「か、勝てる、勝てるぞ」
一人の魔物が、思わず叫ぶ。しかし、大きな波になる前にサラスが静止を掛けた。
「じゃが、問題がある。同じ人間でも女神から魔法を使える力を与えられているにも関わらず、ロイのように本人の才能や適性、魔力量の低さで、魔法使いとしては大成しない人間は数多くおる。それは魔物も同様じゃ。
そして、魔法使いであり、魔王の力も持つ余は一目見るだけで、その者の魔法に関する才能や適性が分かるんじゃが。残念ながら、ルナ以外ここにいる全員。魔法の才能や適性は人間の中でも魔法の才がないロイ以下じゃ。と言うか、ルナが飛びぬけて優秀なのであって、多分じゃが、魔物という種そのものが、魔法に対する才能や適性がないと見える」
仮に魔法が使えるようになっても、才能が乏しく、適正がなければ意味がない。中には努力で乗り越える奴もいるかもしれないが、そんなの一握りであろう。
ああ、やっぱりダメかと言う悲壮感が再び漂い始めた。しかし、希望の火は消えない。
「じゃから、使えるようになるを魔法一つに絞る。ルナのように、余が知っている多種多彩な魔法全てを使えるようにするほどの付与は、体や精神への負担が大きいので流石の余もどれだけ時間があっても兵士全員に付与することはできない。だからこその絞るのじゃ。
余はお主達に、余が長い年月を掛けて新しく編み出した付与魔法〈アルス・マグナ〉のみが使えるように力を与える。これによってお主達は余、考案の付与魔法〈アルス・マグナ〉のみ限定で魔法が使えるようになるじゃろう。その後は、死に物狂いでこの魔法をマスターしてもらう。魔法一つくらいなら、才能がなくても時間と努力でそれなりに使いこなせるようになるじゃろう」
しかし、サラスはちゃんと問題点の改善策を考えていたようだ。というかサラッと言ったが、新しく魔法を作るとはもうメチャクチャだな。しかし、魔王の真の力が、女神の劣化版のような存在であれば、魔法を生み出すことも不可能ではないはずだ。俺はそう信じたい。
「さて、では最後に〈アルス・マグナ〉の説明をするかの」
サラスは落ちていた木の棒を拾い〈アルス・マグナ〉と叫ぶ。棒は一瞬だけ黄金色に輝いたが、すぐに元の色に戻った。
そして、木の棒を適当な魔物に与え、十数メートル先に生えている一本の木に向けたまま、普段は身体の強化に使用している魔力をこの棒に回せと命令をした。棒を受け取った魔物は指示通りに、棒を木に向け、魔力を棒に回したのだろうか。次の瞬間、棒の先端から激しい稲妻は放たれ、目標の木を貫通した。
「とまあ。このように、余が作った〈アルス・マグナ〉は今の電撃のように、女神が人間に授けた魔法にはない力、他にも再生とか、硬化や吸収などを、木や鉱物などの物体にのみじゃが付与できるようになる付与魔法じゃ。どうだ凄いじゃろう?
お主達に、この〈アルス・マグナ〉を伝授するのは、余一人では作れる魔法武器の数に限界があるからじゃ。しかし、この〈アルス・マグナ〉を使える者を数千人近く増やせばどうなると思う? きっと新魔王軍の兵士全員に魔法武器を持たせられるじゃろう」
人間ですら、魔法武器の数は数百しかない。なので、数万近い魔法武器を用意できれば、正面から戦っても人間に勝てるだろう。
サラスの言っていること、そして、その戦略は凄い。凄すぎて、魔物達のほとんどが理解できずについていけてないほどだ。
北の大地は極貧の世界だ。まともに何かを教えてもらう機会がないだろう。俺だって、文字の書き方や簡単な魔法を教えてくれる村の寺子屋の存在や、従者になった時に始めて王都に赴いた際に、最低限の知識は必要だと、国から、貴族の子弟に学問を教える専属の講師の教えを短期間受けさせてもらったからこそ、ギリギリでサラスの言っていることが理解できる。
本当に、この子の頭の中はどうなっているのだろうか?と呆れながらも俺はサラスに自分で導きだした彼女の考えを伝えた。
「サラス、君の考えは分かった。つまり、この魔法を使い、俺の収納魔法の中で、魔物製の魔法武器などを大量に生産すると同時に兵士の育成も行う。そして、その間に、俺は各地を歩いて、生き残った魔物や、資源や食料をどんどん中に送る。そして、十分に戦力が整ったところで、君達を解放して大暴れするという作戦だな」
「その通りじゃ。本当なら、お主の能力だけでも、上手く奇襲すれば王都を潰すことはできる。が、それは敢えてやらない。正面から人間と戦って魔物が勝たなければ、人間共は我々を次の支配者とは見ないからのう。人間共には、反抗的な態度を取らないように、我々が奴らに抱いていた絶望的なまでの戦力差を思い知らせねばならない。それと勇者に関してまだ上手い方法が思いつかない……すまぬ」
サラスは謝るが、勇者に関しては仕方がない。あの無敵野郎に対処するには、流石のサラスでも名案が思いつかないのだろう。それに、勇者に関しては、俺に一つ策があるので、後で相談してみるとしよう。
しかし、まさか、サラスがこれほどの策を練っていたとは思わなかった。これなら確かに十分勝ち目がある。人間側の戦力を全て倒し、人間を家畜化し、魔物の時代を作ると言うサラスの野望も十分達成可能だ。
勝てる勝てる勝てる勝てる勝てる勝てる勝てる勝てる勝てる勝てる勝てる。
勝てないと思っていた敵に手が届く。俺の心の中は歓喜に震えていた。これで、復讐できるかどうかで悩む必要はもうない。もう少し自信を持って行こう。
どうやって倒すのではなく。戦いに勝った後に、あの猿共をどう調理するかさえ考えるほど余裕が生まれてきた。
ああ、猿野郎よ。この光景を見れないお前が不憫だ。たった今、お前達の時代は終わったのに。
魔物は今、歴代最強魔王によって人間以上力を手に入れた。そして、それらが育つ環境も、かつて貴様らが馬鹿にした俺の能力の中で、短期間かつ安全に育つだろう。
だから、精々それまで待っていろ。王都のゴミ共。そして、キャリア、ゼラ、マリアリア、猿勇者。
もう一度言う。貴様らが笑って過ごせる平和な時代は終わりだ。世界の支配者であるお前達には、この世の底辺という最低最悪の身分と魔物の支配に怯えながら過ごす日々をプレゼントしてやる。
その日から俺達は復讐の日に向けて密かに動き始めた。
俺は竜になったサラスの背に乗り、世界中を旅し、生き残った魔物を回収して回った。さらに、片っ端から銅やら鉄、木、水などの資源を大量に収納し、送られた資源は、サラスのよって魔法を付与できるようになった魔物達の手によって、魔法武器から非常に巨大なモノへと姿を変える。
予定通り、収納魔法空間内では、凄まじい速度で魔法武器が大量生産されていったのである。
また、サラスの手による軍事演習も行われ、新魔王軍は王国軍と遜色のない練度を誇るようになった。
そして、サラスと出会って四年後、収納魔法空間内では四十年後、ついにこの日が来た。老齢の現国王に代わり、新たにあの猿が新国王に即位する日が、
さあ、開戦だ。お前ら全員、頂点から叩き落としてやる。
応援ありがとうございます。本当に励みになります。
読者の方からのご指摘で一部修正させてもらいました。