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凱旋

 魔王城での戦いから二か月後、王都にて戦争勝利宣言と勇者パーティーの凱旋式が盛大に行われていた。


 王都の中央に位置する王城の前には広場があり、そこには数万人を越す王都に住む民が集まっていた。


 そして、広場の目立つ場所に、広場全体を見渡せるほどの高台が設置され、その上には勇者と従者を始め、王国の重鎮達がいた。


「では、次に、勇敢なる我が息子、ごっほん、勇者シオンが皆に伝えたいことがあるそうじゃ」


 先ほどまで、かなり脚色された息子の働きぶりを意気揚々と国民に伝えていた国王に代わり演説をするのは、あの猿勇者だ。


「諸君、ありがとう! 皆のお陰で悪逆非道な魔王は駆逐された。残存する魔物達にも、もはや我々を脅かすほどの力はもうないだろう。我々の勝利だ!!」


 猿勇者が高らかに勝利宣言をすると、国民達の歓声が大地を揺らす。


「「「勇者万歳! シオン様万歳! 王国万歳!」」」


 永遠に続くかと思われた歓声だが、猿勇者が手を挙げると気持ち悪いほどピタリと止まった。静まったところで猿勇者は再び語りかけた。


「ありがとう、みんな。ところで今日はみんなに報告がある。私はここにいる三人の美姫と婚約を交わすことにした」


 猿勇者が紹介すると猿王子の隣に、キャリア、ゼラ姉、マリアリアの三人が並んだ。色鮮やかなドレスに身を包んだ三人はどんな宝石よりも美しかった。その姿から、下品な猿のような喘ぎ声を出すなど想像もつかないと、一瞬でも思ってしまうほどだった。


 広場からは、猿勇者やキャリア達を妬む声や、羨む声など、様々な感情のこもった声が響いたが、どうやら大体は好印象な感じであった。


 その後、三人がそれぞれ魔王軍との戦いについて語る。その大半が猿勇者との惚気話だったが、民衆共の心の内は知らないが、俺は特に何も感じなかった。そのくらい俺にとって彼女達の存在は、もはやどうでも良かったのだろう。


 広場から見える時計塔の針を見るに、三人合わせて一時間以上は喋っていたのではないだろうか。ここまでは事前に知らされた予定通りの展開であったが、三人の話が終わると猿勇者が予想外の行動に出た。


「では、最後に四人目の従者であるロイ・ギバルデス君、前に」


 ビックリした。猿勇者が初めて俺の事をフルネームで呼んだのもそうだが、この祝いの席に俺の時間を用意してくれたことに大変驚いた。


 事前の打ち合わせでは、今回の戦いの報酬として、俺には貴族年金と王都の一等地に屋敷を用意してくれるとの話を役人から受けていた。なので、その報酬についての発表だろうと思った俺は少し浮かれていた。


 そのため、あの三人が笑いを堪えるように手で口元を隠していたのを大して気にしなかったのは最大の不覚だろう。それほどあの苦痛の日々がこれで少しは報われると安堵していたのだ。


 だが、それは幻想だった。


「みんな、聞いてくれ! こいつは荷運びの従者! 本来は私や彼女達を荷物を運ぶのが仕事なのだが、こいつは事もあろうに、自身の能力を使って邪な事をしていた」


 えっ!?


「こいつは、私達が命懸けの思いをして倒した魔物の素材を収納魔法で回収したが、その後、素材の一部だけを提出して残りを密かに換金して自分の懐を肥やしていたんだ」


 こいつは何を言っている? 収納した魔物はきちんと全て王国の兵士や役人に渡したではないか。


「ち、違う。俺はそんなことはやっていない。これは何かの陰謀だ!」


 冤罪を掛けられた俺は思わず大声を上げて国民に訴えた。だが、


「うるせーぞ、泥棒が! 勇者様達に何てことを!」

「山賊や盗賊でもしないぞ!」

「まあ、大変! なんて下劣な方が勇者様のパーティーにいたのかしら」

「人以下の存在が!」

「死んで償え、この人でなし!!」


 国民は皆一様に非難の声を俺に投げかけた。


 俺はこの場を納めてくれと、猿勇者に懇願するも、奴は笑いながら火に油を注ぐかのように、次々と身に覚えのない冤罪を俺に擦り付けた。


 どう見ても、面白そうにやっているようにしか見えない。そして、罪状が増えるごとに、国民からは罵倒と怒りの声が上がった。


 その後、しばらくは同じ光景が繰り返されたが、流石に弾が尽きたようでこれで終わりかと思った。だが、今度は今まで背後で笑いを堪えていた三人の内の一人であるキャリアが泣き叫びながら声を荒げる。


「私、この男に襲られそうになったんです。シオン様が助けてくれなかったら、どうなっていたことか」


 他の二人も、同じような事を言うと、広場中からの罵倒は頂点に達した。良く見ると小さな子供までも罵詈雑言を上げていた。


 世界の全てを敵に回した状況で、俺は自問自答する。俺が彼女達に何をしたのだろうか? いくら俺よりもいい男や今までよりも良い暮らしをしたいからといって何故、彼女達は俺をここまで苦しめるのだろうか? 彼女達にとって、いや、この国にとって俺は生きているだけで害をなす存在なのか?


 そして、この時、俺は王都の真実を知る。


 勇者の一声で、王都に住む民達は、俺の事を魔王以上悪だと判断した。あの猿が王族とは言えこの熱狂ぶりはおかしい。だが、耳を澄まして罵声を聞くと彼らの怒りの一端を垣間見ることができた。


「殺せ! 殺せ! だが、簡単には殺すな。ゆっくり、じっくり、じゃないと楽しみが減るからな」

「磔だ! 磔にして広場にさらせ!」

「いや、死ぬまで、闘技場で魔物と戦わせろ! 仮にも従者なら戦えるだろう!」


 ふっ、そういうことか。つまりこいつらは娯楽に飢えているのだ。


 この王都は南の最南端に位置し、北に住む魔物の被害とはほぼ無縁だ。そして、何よりこの王都には魔物が欲する豊潤な南の土地の全ての富と財、資源が集まっている。


 その証拠に、俺たちの村のように一年に稼いだ収入の九割近くを税金として徴収していることから分かるように、王都以外の全ての都市が貧しいのだ。


 これまでの旅で王都より発展している都市を見たことがない。他の都市は砦などの軍事基地と領主の城以外は、どこも住んでいた村と同じで質素な作りの家ばかりだったのだから。


 魔王との戦いの時は、生き残ることと、猿勇者やキャリア達のいじめで頭が一杯であったから気にも留めなかったが、今なら理解できる。


 王都に住む者達にとって、王都以外の全ては自分達の奴隷か家畜なのだ。そして、この世の富を極めたこいつらにとって、一番欲するものは、娯楽だ。


 奴隷が虫けらのように苦しむさまを見るのがなによりも楽しみなのだ。


 その考えに至った瞬間に、全てがどうでも良くなった。





  


「では、国王陛下の裁定を申し渡す。罪人ロイ・ギバルデスは、王国に対し重大な背任行為をした罪により、その身分を魔物と同じ奴隷階級とし、その命尽きる日まで、闘技場で戦うことを命じる」


 禿げ頭の法務大臣がこの場で判決を述べた。判決を述べた瞬間に、新しい娯楽が生まれたのを喜ぶかのように、広場から大きな歓声が上がった。


 周囲を見ても俺の判決に異議を唱える者は一人もいないようだ。キャリア達は、これ以上俺に関わりたくないのか、笑いを堪えながら壇上を降りていく。


 そして彼女達と代わるように、俺を拘束しよう数人の衛兵が壇上に上がり、抵抗できないように暴行を加えた後、手枷をし強引に連行して行く。


 だが、台を降りる直前に猿勇者が衛兵達を静止して、俺の耳元で呟いた。


 「ありがとう。中々楽しいショーだったよ。特に君の顔は最高だった。それと君に冤罪を着せるように提案したのはキャリアとゼラさ、これから貴族にそして王妃になるあの二人に取って君はそうとう邪魔な存在のようだったね。まあ私もそうだけどね。だが、喜びたまえ、これで君も栄光ある王都に住める上級国民の仲間入りさ。首輪と足枷付きだけどね」


「あっ、あ、あ、ああああああああああああ!!!!!」


 猿勇者の止めの一言で、今まで抑えていた感情が爆発し、思わず泣き叫んだ。だが、すぐに衛兵に黙れとと後頭部を警棒で殴られて意識を失った。


 意識が沈む中、俺の耳に入ってくるのは、幾人もの同族であるはずの人間の笑い声であった。





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