最終回 ザマーミロ
そして、約束の四年後が来た。
この四年間、俺は一度もキャリア達とは会ってはいない。その方が、面白いと思ったからだ。だから、その間に、サラス達と共に、魔物による新国家建国のために尽力し、その合間を縫って、旧王都に赴き、キャリア達の子供の面倒も見てあげた。
そんなところか、この四年間の活動は。
新国家建国活動も楽しかったが、やはり、それ以上に楽しみだったのは、キャリア達とシオンの再会の日をどう彩るかであった。なんせ、このためだけに、俺は魔王軍に寝返ったと言っても過言ではない。最高の一日にしなければと気合を入れていた。だから、誰にも奴らは渡さない。
「あ奴らは、お主を苦しめた女共じゃから、ネチネチいじめてやるつもりで、長い付き合いになると思ったがのう」
と、サラスは残念がっていたが、俺は魔王サラスにさえ、キャリア達には干渉するなと強く言っておいた。
キャリア達を監視する魔王軍の部隊に俺が命じたのは、キャリア達がオウトザル以下の扱いを受けさせるようにしろということだけ。もし、あいつらに恨みを持つ、人間や魔物がキャリア達を殺そうとするなら、全力で排除し、万が一、一部のキャリア達が勇者解放の取引のことをオウトザルに話して拷問を軽減しようと企んでいたら、そのオウトザルを即殺しろと命じただけだ。
彼らは、見事、任務に忠実に果たし害虫を駆除し反乱分子を排除した。お陰で、キャリア達は、長時間に渡る暴行とほんの僅かな休息と回復の日々を四年間繰り返すことになった。
やがて、四年が経ち、まずは彼女達を解放する日がやってきた。
長いお勤めから解放されたキャリア達を五年ぶりに見た俺は、その無残な姿を見て正直、吐きそうになった。オウトザルの数が増えないように、男はみんな去勢させたせいで、性的暴行を残念ながら与えれなかったとは言え、かつての友人や知り合いに罵倒されながら殴られる日々は辛かったのだろう。
〈アルス・マグナ〉による治療前に除いた彼女達の体は、もう口に出すのも憚れるほど、本当に酷い状態であった。
オウトザル達がキャリア達に激しい恨みを抱くように、色々と手を回してはいたが、流石に四年も経てば、恨みは消えるかもと思っていたが、そんなことはなかった。
まあでも、考えてみればそうだ。命令違反を犯した人間の行き過ぎた暴力によって、オウトザルは数を減らしたとは言え、まだ十万人近くいる。その全員がキャリア達に恨みを晴らすには四年では時間が足りなかったようだ。
それでも、いい感じに苦しんだみたいだし、良しとしよう。これ以上待てば、収納魔法にいるあいつの方が腐ってしまう。実は先日、数人の魔物を偵察として収納空間内に送り込み、数秒後にすぐ取り出し、偵察隊の報告を聞き、ブツがいい感じになっていることを知り、作戦の決行を決意したのだ。
そして、キャリア達の解放から一週間後、現在に至る。
精神的にはともかく、肉体的には完全に回復したキャリア達に、王族に相応しい衣装を与え、折角なので、キャリア達と護衛の兵士を連れ、多くの人間の手によって完成した世界を分ける壁の上から、今の世界を見せてやった。
「どうだ。何か感想を言ってみろ?」
俺は、両手を広げ、壁の上から二つの世界を見せてやった。
右手に広がるのは、大陸の北側、すでに人間達のほとんどが移住した作物も満足に育たない不毛の大地。荒れ果てた荒野と草木がほとんど生えていない山々が広がる死の世界だ。
左手に広がるのは、大陸の南側、魔物が移住し、豊潤な大地で安定して作物が取れるようになったことで、空前のベビーラッシュを迎えている生命に満ちた世界。
別に、この光景は、千年前から変わらないだろう。変わったことは、そこに住む住人が入れ替わったことと今俺達が立つ、二つの世界を分ける壁ができたことだ。
「たった一回負けただけで、人間は世界の支配者の座から永遠に座ることができなくなった。女神の期待に応えられず、魔法も加護も失い、哀れだな。そして、その一回の敗北をもたらした元凶がお前達なのが笑える」
徹底的に、キャリア達の気勢を削いでやろうと思ったが、無駄だったようだ。
「そんな話どうでもいい」
「早く、シオン様を出せ」
「あなたの得意げな顔など見たくもない」
ああ、本当に、見事に闇に堕ちたな。
回復させ、豪華なドレスを着せた後に、見て感じた印象のままだ。猿勇者を助けるためだけに、今まで頑張ってきたのだ。そのために、他の全てを捨てた女の顔だ。
だからだろうか、三人共、目に光が灯っていない。この世の地獄を見てきたと言わんばかりだ。
顔以外は、見た目こそ、以前の派手な王族んい見えるが、内面は完全に別人になっているに違いない。そうでもしないと生きていけなかったのだろうが、それにしても良く似ているな。
この世の最底辺に落とされ、多くのモノを失った、かつての俺のようだ。
素晴らしい!
これで、シオンを取り戻して、俺に復讐できれば、彼女達も本望かもしれないが、それだけは、絶対にない。クッククッ。
「おい、あれを見てみろ!」
壁の上を歩いていると、北側の方で面白いものを見つけたので、指をさして教えてやった。そこには、ボロボロの服を着て、壁のすぐそばに建設されたそれなりの大きさの建造物の前に群がる人間達であった。
「……あれは?」
どうやら、少しは俺の話に付き合わないと、猿勇者を解放してくれないと思ったのか、キャリア達が話に乗ってきた。
「みすぼらしい服。でも尻尾がないから人間ね。あなた以外で久しぶりに見たわ」
「そうだ。人間だ。そう言えば、オウトザルがどうなった知りたいか?」
今まで自分達を甚振ってきたオウトザルだが、壁の建設に貢献し、オウトザルよりも高い地位にいるはずの人間達ですら、あの扱いだ。興味なさそうに振舞っているが、きっと内心では気になっていると思い教えてやった。
「オウトザルの生き残りは恐らく十万人ほどだな。ほとんどは北に追放され、人間達のおもちゃのような扱いになっている。もう殺しても問題ないからな。彼らは自分達が生まれた事を悔やみながら死んでいくだろう。だが、少数ではあるが、人間のいない南で飼育されている奴らもいる」
「人間はあなた以外、南から追放されたのでは?」
「勿論そうだ。でも、あいつらは人間ではなく猿だからな。動物園と言う新しく建てられた生き物の鑑賞施設の見世物や、新兵器の実験とか軍の実戦演習に使っている。結構役に立ってるよ。繁殖能力がないので、一世代したら絶滅するのが問題だから、今色々と対策を考えているがな」
「「「そう………」」」
どうやら、話は聞くけど、興味はなさそうだ。では、この話はどうかな?
「あそこで建物に押し掛ける人間達が分かるか?」
「みんな、形も大きさの異なる青い水晶のようなモノを持ってきて、あの施設にいる魔物が出す何かが入った袋と交換しているように見えるわ」
「その通り。人間達にはただの金や銀などの宝石の類と教えているが、あの水晶の正体は、高密度の魔力の塊だ」
「魔力の塊? ミスリルみたいなもの?」
「確かにミスリルと似た性質を持つが、あれとは比べものにならないほどの魔力が蓄えられている。俺達はあの水晶をドラグ二ウムと名付けた」
ドラグ二ウム。
千年前、世界の半分を滅ぼしたドラゴンが土地の生命力吸い上げて魔力の塊へと変化させる能力を持つ自らの血を北の大地にばら撒いて死の世界に変えた。
本来であれば、忌むべき代物であるが、青い水晶の中心には核となる赤い小さな水晶玉が埋められている。
その赤い水晶玉が、生命力を吸い上げ魔力に変えるいわば本体で、青い水晶を砕き、中の赤い水晶玉さえ破壊すれば、青い水晶部分に蓄えられている魔力を安全に使用できるわけだ。
「今、魔物の手によって、南側では急速に旧王都以外の各地で大規模な開発が行われている。旧王都並みの都市を複数作り、田畑を開墾し、食用に豚や牛を飼育できる大規模な家畜小屋を建設している。これらは、現在来ているベビーラッシュの結果、今後予想される食料難に備えるためのものだが、それさえ乗り越えば、いよいよ〈アルス・マグナ〉による産業革命の時代がやってくる」
すでに、サラスは、自身の能力で、魔力によって稼働する乗り物を作っている。そして、これから生まれてくる魔物のほとんどが、生まれながらに〈アルス・マグナ〉を扱える。
近い未来、サラスの作成したものを〈アルス・マグナ〉によって模倣、もしくは魔物自身の手で、魔力を使って動く道具が多数開発され普及していくはずだ。
魔法を使えない人間では、自身の魔力を使って魔物の作る魔力道具は扱えても、〈アルス・マグナ〉が使えないので、自主開発は不可能。
もはや、人間が、魔物を超える可能性は限りなくゼロに近い。
しかし、いくら魔物でも、それらの魔力道具を限られた自身の魔力だけで、十全にその機能を使うのは無理だ。折角、戦争にも日常生活にも使える素晴らしい発明がなされているのに、それを動かすだけの動力となる魔力が足りない。だから、
「大昔のドラゴンが残した負の遺産を新たな資源として使うのね」
「ああ、その通りだよ。マリアリア」
今はまだ、必要ないが、将来的に需要が高まるドラグ二ウムを確保するために、憎き人間を殺さずに、北の大地に追いやって、ドラグ二ウムの採掘と言う役割を与えた。
「ドラグ二ウム、約一キロで、食料一か月分と交換している」
北の大地にはほとんど食べ物がない。だから、人間達にはドラグ二ウムを採掘するのと引き換えに食料を提供することにした。
魔法も使わずに、地下数メートルから数十メートル付近まで、普通のスコップやツルハシ掘るのは大変だろうが、ドラグ二ウムは予想以上に大量に埋没しており、地面を掘れば割とすぐに出てくる。
ちなみに、ドラグ二ウム十キロで、〈アルス・マグナ〉の強化が付与された特注スコップと交換できるようにしてやったら、大盛況ですぐに売れ切れた。ただ、そのスコップの所有を巡って壁から遥か遠くの地で殺し合いになっているそうだが、
「それ、本当に正しい相場なの?」
ゼラの質問は最もであるので、素直に答えた。
「現時点で、ドラグ二ウムが一キロもあれば、人間一人を半年は食べさせられるほどの価値になっている」
「そう、人間達はこれから、労働の対価に釣り合わない不当な報酬をもらい続けるのね」
「ああ、でも、魔物は千年以上、武器や装飾品の素材として狩られていたんだ。命や身体ではなく労働力を要求しているだけマシだと思うよ」
ドラグ二ウムの需要が拡大すれば、相場は今とは比較にならないほど高騰するだろうが、人間にやる分は変わらないどころか減るかもしれない。大げさに言えば、屋敷を買えるほどの価値のあるものを、食費一食分くらいで買い取ることになるはずだ。
しかし、魔物が提供するのは、北では貴重な食料なのだから、文句は言わんだろう。
でも、どれだけ話しても、キャリア達は興味がなさそうな顔をしている。なので、先に進めることにした。
「では、話は終わりだ。そろそろ、シオンを解放しよう」
すると、先程まで暗かったキャリア達が見る見るうちに明るくなり。絶望から希望へと顔の表情を変え、目も輝き出した。
「ええ、早くしましょう」
「早く、早く、早く!!」
「いよいよ、四年間の努力が報われる日が来たわ」
急かす、キャリア達の期待に応えるために、俺は最後の舞台へと誘導した。
そこは、壁を越えてすぐの、北側に作られた正方形で積み重ねられた石畳でできた舞台場の上であった。俺と三人の従者達は舞台場へと上がり、魔王軍には周囲を警戒させている。
色々と足りないが、ここがある場所を参考にして作られたことに気付くかな?
「早く、シオン様を解放しなさい!」
「ずっと、この時を待っていたのよ」
「早く!」
そう急かすな。まだ、お前達の大好きな、最後の催しものが残っているぞ。
「まあ、待て。良く考えてみたんだが、やっぱり、俺はお前達を許せない」
「はあ、ここまで、来て何をふざけたことを!」
「そうよ! しっかりと対価を支払いなさい」
「シオン様を解放して!」
今まで、散々約束を破ってきたくせによく言う。だが、ここで、俺も約束を反故にしてしまうと、この嘘つき達と同じになってしまう。
「だから、最後に、そうこれが本当に最後だ。それさえ、クリアすれば、おとなしく勇者シオンを解放しよう」
俺は合図を送る。しばらくすると、何かが積まれた荷台が舞台場の近くまでやってきて、魔王軍の兵士が荷台に積まれたものを、舞台場に置いた。
「そ、それは?」
「子供?」
「……」
俺と三匹の間に置かれたのは、意識がなく、ピクリとも動かないフルフェイスのヘルムによって顔を隠された十歳前後の少年少女と思われる六人の人間の子供であった。
理解が追いつかないのか、首を傾ける三人の足元に三本の剣を放り投げて告げる。
「殺せ。そうしたら、すぐにお前達の大好きなシオンを解放してやろう」
言い終わるや、否や、まずキャリアが、そのすぐ後にゼラが、それぞれ剣を拾い。子供の方へと歩いて行く。
「殺す。殺す。殺す。殺せば、四年間の苦しみから解放される。ようやく、私は王妃に戻れる」
「ごめんなさい。見ず知らずの少年少女達、でもこうするしかないの」
素晴らしい。本当に素晴らしい。ここまで、思い通りに事が運び、大爆笑したい気分だが、まだ、ダメだ。まだ耐えろ俺。
そんなことを考えていると、二人を静止させようと、マリアリアが大声を上げる。
「待って!!」
気が付いたかな?
「その子、……も、もしかしてアルフレッド?」
直前で気が付いたマリアリアの推察に敬意を表し、兵士達にヘルムを外させる。
「そ、そんな……」
「こんなことって、ないわよ」
「いくら何でもそれは酷いわ」
眠っているように目を閉じているのは、シオンと彼女達の子供達。六人全員がそこにいた。
「このくらいの歳の子は、五年も経てば一気に成長するけど。流石に誰が自分の子供なのかは分かるよな? 折角だ。各々自分の子供を殺せ。それでお終いだ」
三人とも、一気に力を失ったかのように倒れ込んだ。
「マリアリアはあの場にはいなかったが、お前も同罪だ。俺に親殺しさせたんだから、お前達は子殺しをして見せろ!」
できないので、あればそれでもいい。あの四年間は何一つ成果を上げられなかった思い出になり、勇者は永遠に失われる。
「でも、殺さないと言う選択肢も当然ある。女を選び男を救うか?母を選び子を救うか? 好きにしろ!」
雌猿達は悩んだ。十分近くに渡って、ぶつぶと何かを呟いていた。だが、決心がついたのか、剣を持ってキャリアが立ちあがった。
「私は殺すわ」
「そんな!」
「キャリアさん」
「だって、シオン様を助けないと、四年間の苦しみは何だったのよ!」
「でも、キャリアさん。自分の子供なんですよ」
流石は、キャリア、お前はいつも俺の予想通りだ。他の奴らは、もう少し答えが決まるまでに時間がかかるかなと思ったが、すぐにゼラが覚悟を決めた。
「そうね。ここは、あの子達には悪いけど」
「ゼラさんまで!」
「マリアリアさん。勇者シオンが今どれだけ人間にとって必要な存在か分かる。確かにもう魔物には勝てないかもしれない。でも、勇者と言う希望が底辺に堕ちた人間には必要なのよ! ここまで、落ちぶれても女神は助けてくれない。見捨てられたのよ!! だから、ぐす、だから、希望の、光……が……」
一万歩譲ってマリアリアが泣くのは許してやろう。でも、ゼラお前はダメだ。絶対にお前とキャリアだけは絶対に許さない。
「マリアリア。ここで、今の子供を殺してもシオン様が戻れば、また新しい子供が作れるわよ。私達の、今の年齢は二十代後半。貴族としては行き遅れだけど、別に子供が産めない歳でもないわ。下民だってこのくらいの歳で出産する奴は沢山いるわ」
キャリア、お前は最高だ! 自分以外の全ては自分を高めるための道具と思っているところは俺は大好きだよ。絶対にこうはならないようにしようと思えるから。
「……おい、今の会話ちゃんと聞きとっているよな」
「はっ、もちろんです」
「後世に残す貴重な資料になるからな。人間を滅亡へと追い込んだ身勝手な王妃の物語を書く上でのな」
俺はこっそりと、その場を離れて、舞台の袖で必死に彼女達の発言を紙に書いて記録しているゴブリンの耳に元で囁いた。
満足の行く回答を得て、俺は舞台の中央付近に戻る。すると決着がついていた。
「分かりました。人間の未来のため、私達の地獄の過去を忘れるために……」
そして、剣が振るわれ、鮮血が宙を舞った。
その後、余韻に浸る時間を与える時間を与えるために、しばらくの間待とうとしたが、約束を果たせとうるさいので、最後の儀式に進む。
「見事だ。では勇者シオンを解放しよう」
俺は、猿勇者を収納空間から取り出して、彼女達の前に出現させる。
これで、ようやく報われる。ついさっきまで、三人ともそんな顔をしていたのだが、現れた男の姿を見て、首をかしげる。
「「「だれ?」」」
まあ、仕方ない。俺だって、事前に知らなければこいつが、あのイケメンだとは思わないほど、猿勇者は変貌を遂げていた。
「し、シオン様じゃない、こんな奴知らない。ていうか服は? 体毛のおかげで隠さないと行けないところは見えないけど……」
「そうよ! こんな毛むくじゃらで、覇気がなくて、悪臭が漂う老人じゃないわ。私達が欲しいのは勇者シオンよ!」
「子供にまで手を掛けたのよ。ちゃんと約束を守ってよ」
これが、猿勇者だとは知らない方が幸せかもしれない。でも、言ってやる。だって、俺はお前達が不幸になる所を見たいんだから。
「信じられないようだが、こいつが、あの猿勇者シオンだ。今まで黙っていたが、俺の収納魔法空間内は外の十倍の速度で時間が進んでいる。お前達は、猿が収納されてから、今までに経過した時間は合計で五年くらいと思っているようだが、猿がいた世界では五十年の時が流れている。だから、こいつの今の年齢は、七十五歳前後かな?」
三人とも目を丸くしている。そんな、馬鹿なと顔に書いてある。まだ、現実を直視できていないようなので、追い討ちを掛けることにした。
「全身毛深いけど右手を見てみろ! 加護の証があるだろう?」
そして、彼女達は泣き崩れた。
「そんな、そんなのってないよ……」
「これは酷すぎるわ」
「ぐすっ、ぐすっ……」
仕様がないな。少し励ましてやるか。
「もしかしたら、子供ができるかもしないからやってみたら? 昔の宿屋の時みたいに。なんか、あの時のお前達が出してた嬌声が聞きたくなってきたよ」
煽ってみたが三人とも反応がない。残念だ。どうやら、流石のこいつらも、この外見が猿そっくりになってしまった猿老人に腰を振る勇気はないようだ。
ようやく、お似合いのお猿さんカップルなったというのに、
さて、どうしようかと思った矢先、猿老人が突然奇声を上げた。
「ういいいいいいいいいいい」
一瞬、言葉まで忘れたかと思ったが、辛うじて、聞きとれる言葉を叫びキャリア達の方へと走りだした。
「お、おん、おんな! おんな!! おんなだああああああああ!」
「「「い、いややややややややああああああ、来ないでえええええええ」」」
猿老人になってしまった待望の勇者に恐怖したのか、キャリア達三匹の雌猿達は、俺から背を向け、舞台場から降り、全力疾走で、北の大地の奥地へと向けて逃げ出した。その後を猿老人が、七十過ぎの老人には見えない走りで、三匹を追いかける。
しばらくは奇声と悲鳴が木霊していたが、それらの声が聞こえなくなったのを確認し、俺は現場を後にしてある場所に向かった。
「どうだお前達、子より父を選び、母親に殺された気分は?」
「正直、少しだけショックでした」
「母上達が、世界で一番醜い生き物だということは知ってましたが、実際にこの目で見るとやはり……」
「あんなのから、生まれたのが恥ずかしいです」
「ボクも同じです……」
「パパも酷かった」
「あんなのを尊敬していたのは、ボクの黒歴史です」
俺が赴いたのは壁の上。サラスが特別に用意してくれた試作品である遠くにある風景と音声を、一枚の板の上に映して見せる装置を使い、先ほどまでの一連のやり取りを見ていたキャリア達の六人の子供に、俺は自分の親の感想を聞いてみたが、やはりショックを受けているようだ。
実は定期的に王都に行っては、何故あいつらが猿なのか、魔物に対して人間がどれだけ非道なことをしていたのかを四年間じっくりと教えていた。洗脳とも言えるが、事実しか言っていない。
ちなみに、先程三人が殺したのは、病気や事故で不幸にも死んでしまった子供の死体。その死体にサラスが、六人の子供達の外見を与えることで、完璧の偽の体を作り上げた。
「そうか、では理解したな。お前達がこれからするべきことを」
俺が尋ねると、この中でリーダー格のアルフレッドが答える。
「ロイさんの言う通り、あれを生かしていては人間族の汚点になります。だから、魔王様に頂いたこの特注のアリアンロッドを使って、恥ずべき汚点を消しに行きます」
残りの五人も、何一つ異論はないと頷く。
「よし、ではしっかりと、己の役目をはたして来い。その後は、好きに生きろ。アリアンロッドがあれば人間族の王にもなれるだろう。だが、間違ってもあの猿ようにはなるなよ」
分かりましたと六人は元気よく答えるとそれぞれの使命を果たすために、その場から去っていく。
キャリア、ゼラ、マリアリア。あれで終わりと思うなよ。最後にお前達の命を頂く。猿老人に追われながら、お前達が自ら捨て去った子供によって殺されるんだ。殺したはずの子供が生きていた喜びと、その子供が親の仇のように殺しにくる悲しみの両方を感じながら死ね!
「これで、すっきりしたかのう」
今まで、ずっと空の上から見えていたのか、少女の姿のまま、背中から黒い翼を広げサラスが壁の上に降りてきた。
「ああ、シオンを殺せないのは残念だけど、あれで満足だ。どこからどう見てみても猿だからな」
「そうか……」
サラスは優しく微笑むと、北の大地を見据えた。
「では、最後の締で、お前を裏切った人間達に向けて一言言ってやったらどうじゃ?」
確かにそう通りだ。復讐をとげたが、俺はまだ心から喜んでいない。だから、北の大地に住む世界の全ての人間とオウトザルとそれ以下の生物達に、聞こえるように大声で叫んだ。
「ザマァーミロッ!!!!!」
主人公の復讐はこれにてお終いなので、タイトルに最終回とついてますが、まだエピローグがございます。
蛇足かもしれませんが、読んで頂ければ幸いです。




