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〜桜並木編8〜

 腹ごしらえを終えたオレ達は運動場へとやって来ていた。それというのも人影が見えた気がするというハクの言葉を確かめるために来てみたのだが、まさかこんな光景が広がっていようとは誰が想像しただろうか。

 そこはまさしく運動場であった。開放感があり、柔らかい土でできたそこには、走り回る子供達やボールで遊ぶ子供達。ふと視線を奥へとやれば鉄棒や登り棒などで遊ぶ子供達もいる。夕日に照らされながら無邪気に遊ぶ子供達というものは和むものだろう……。


 ーーその子供達が人形でさえなければ。


 オレ達の目の前に広がっていたのは異様なものだった。命を持たない人形達がまるで生きて遊んでいるかのようにオレンジの運動場に配置されていた。

 今までこんなものは見たことがなかった。それはハクやノワールも同じだろう。だって、これまでは記憶の中の景色は再現されていても、景色の中の人物までは再現されていなかったのだから。当たり前だ、怨霊だってその景色の中の人物の一人だったのだから。その景色の中にいる人物は景色ではなく、同じ景色を共有するものだ。だから景色として人間が再現されることはありえない!

「……最悪だ」

 忌々しげにノワールがそう零す。この光景を見て、驚きだけでなく最悪という言葉が出てくるということは彼はなにかを掴んでいるのだろう。

「ノワール、何か分かった?」

 同じ結論に達したのであろうハクがノワールに尋ねる。ノワールもオレが尋ねたらからかうが、尋ねるのがハクなら普通に答えるだろう。

「あくまで仮説だ。それを頭に入れて聞けよ。バカと人間、お前らもな」

 この際バカ呼びには目を瞑るが、人間と並列に扱われてるのは気にくわない。今は話を優先するがあとでしっかり問い詰めさせてもらうことにしよう。

「この光景を見て、人間の女以外は想像ついてるだろうが、ここの怨霊は人間を景色と同一で考えてやがる可能性が高い。それがどういうことか分かるか?」

「えっと」

「分からなくていい。続けるぞ」

 だったら聞くなよ。

「いいか? 普通は人間が自分と同じ人間を景色と同一視するなんてありえないんだ。だって、それは公園のブランコやこの運動場の鉄棒と同じただの装置として人間を見てるってことだからだ」

「それって物と人を同じものとしているってことですか? そんな人本当にいるんですか?」

 女がキャンキャンと喚くが、今回ばかりは同意だ。そんな人と物をイコールで扱う人間がいるとはオレも思えない。

「ボクだって思いたくない。けど、結界内に反映されるのは思い出のものや景色だけだ。それならこの怨霊は少なくとも運動場で遊んでいる子供を物や景色として認識していたって考えるしかないだろ」

 どういうことだ? まさか今回対峙する怨霊は生前から狂ってたとでもいうのか? そもそもそんな奴、送ったとして本当に改心するのか? だめだ。考えないようにすればするほど考え込んでしまう。

「おい」

「え?」

「え? じゃねぇよ。言っただろ、これはあくまで仮説だ。ボクの中で一番有力ではあるけど、今回はお前が気配を感じれなかったり、おかしなことが多い。この異様な光景も結界が特殊な力を持っている影響もあるんだ」

「そうだな。悪い」

 そうだ。まだ生前から狂ってたと決まったわけじゃない。もし本当に生前から狂ってたならその時に考えればいい。今は別の可能性も考えた上で怨霊を探す方がいいだろう。

 そうして、オレは引き摺り込まれかけた意識をノワールの手助けもあり、なんとかこちら側へと引き戻した。

「可能性とはいえ、もしそうなら対処考えた方がいい」

 ハクがそう提案する。

「対策って具体的にどうするんだよ。ボク達はカウンセラーじゃないんだ。倫理観がどれだけ崩れていようがどんな過去を持っていようが捕らえることに変わりはねぇよ」

「だが、心の持ち方は変える必要がある」

「だな」

「ああ」

 ハクの言葉に二人同時にうなづく。

 運動場で得られる情報はこれだけだろう。次はどの場所を捜査するべきか……


 不意にピアノの音が耳に運ばれてきた。


 上だ。少しくすんだクリーム色の四階建ての校舎。その最上階の角の窓。それが少し開き、そこから風に乗せながらピアノの音がオレ達の元へと届けられたのだ。

「くそっ! 鍵盤の橋がある時点でピアノに関係する部屋は優先して調べるべきだったな!」

 悔しそうに吐き捨て、ノワールが走り出すと、

「だが、怨霊から居場所を教えてくれたのは助かった」

 ハクが女の手を引きながらそれに続き、

「たぶん、音楽室だよな!」

 念の為行く場所を確認しながら、最後にオレが走り出した。

 どういうことだ? 走りながら考える。これまで体感にして一時間以上、怨霊は居場所を悟らせないように潜んでいた。なのにどうして突然居場所を明らかにするようなことをしたんだ? まさか罠? 駄目だ。分からない。だが、何かある気がする、何かが……。

 そんなことを考えていると、いつの間にか四階まで階段を駆け上がっていたらしい。流石に人間である女は息を切らしてはいたが、ハクやノワールはケロッとしている。このまま音楽室へ直行しても問題ないだろう。

 いよいよ音楽室前に辿り着く。ここまで近づけば感覚が鈍っているオレでも分かる。中にいる。

 ノワールが軽く息を吸って音楽室の扉を開いた。

 8話です! ようやく物語が少し動き始めました。音楽室にいるのは一体何者なのか。その者に出会ったグレイ達はどのような行動をするのか。次回は一つの転機となっております!

 これからもよろしくお願いします!!

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