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〜桜並木編4〜

 橋を渡りきると、そこはまたアスファルトの道であった。

 そして20メートルほど歩いた先にその学校はあった。近くによると分かるが、そこまで大きくはない。


「入り口も開いてることだし、中に入るか。ハクちゃ

 ん達もこの中にいるかもしれねぇしな」


 扉を開けて、中に入るとそこは下駄箱だった。

 横に六つ並んだ棚に足元のすのこ。

 いかにも人間の世界の学校の下駄箱といった場所だ。

 昨今では珍しい木製の下駄箱なのは、やはりここが現実ではなく、記憶、思い出だからだろう。


 オレ達は特に言葉を交わすでもなく、下駄箱を通り過ぎ、廊下に出た。


「暗いな」


 ノワールの言う通り廊下の先は真っ暗だった。

 明かりがつけばいいと思い、辺りを見渡すが、電灯のスイッチらしきものは見当たらなかった。

 おそらく思い出だからこそ、細部は省略されてしまっているのだろう。


 しかし、このままでは先に進めないこともないが危険すぎる。

 どうしたものかと考えていると、ポウと前方が明るくなる。

 何事かとノワールの手元を覗き込めば、袖がまくられ、懐中電灯が握られていた。


「明かり持ってたのか」


 廊下を進みながら尋ねる。


「ああ。念のためな」


「それにしてもそれ便利だよな」


 無駄に長いノワールの袖を指差して言う。


「だろ? だからお前もそんな支給品じゃなくて、自

 分に合ったものにすればいいのに」


 オレ達は送り神となった際、小さなウエストポーチが全員に支給される。

 このポーチというのが優れもので、なんと無尽蔵に物をいれ、取り出す時は取り出したいものを考えながら出せばすぐに取り出すことができるのだ。

 このポーチの構造も習ったのだが、生憎理解はできなかった。


 そしてそのポーチと同じ原理で色々な収納具が販売されている。送り神の大半は支給されたものではなく、市販されているもので己が使いやすいものを購入して使っている。

 目の前にいるノワールは袖の形のものを、ハクは巾着型のものとそれ以外もいくつか持っていて愛用している。

 オレはといえば、いくつか試用はしてみたものの、どうも肌に合わず、未だなお支給品のポーチを使っている。


「いいのがあればいいんだけどな。中々合うのがなく

 てさ」


「バカなのに注文だけは一丁前だな」


「うるせぇよ! あとそのバカバカ言うのやめろよ」


「定期的に言わないとバカなんだから自分がバカって

 ことも忘れるだろ」


「おい! それは流石にねぇよ!」


「自覚あるなら良かったっと見てみろよ」


 そう言いながら、ノワールが懐中電灯を左側の壁に向ける。するとそこには……


「刀傷?」


「ああ。おそらくハクちゃんだな」


「……傷があるってことは、悪霊でもでたのか」


「もしくは、怨霊か」


「なんで怨霊が?」


「考えてもみろよ。ハクちゃんは怨霊に攫われた人間

 と一緒なんだぜ?」


「だから?」


 はぁと大げさに溜息をついて、ノワールが肩を落とす。

 本当に隙あらば人をバカにする。いや、今のはオレが分からなかったのも悪いかもしれないが、バカにせず親切に教えてくれればいいものを。


「お前に悟ることを要求したボクが馬鹿だったよ」


 そこまで話し、もう一度深く溜息をつく。


「怨霊は喰う為に人間を攫うんだろ。だったら怨霊は

 攫ったやつを結界の中の遠くじゃなく、近くに落と

 すだろ? すぐ喰えるように」


「そっか。オレ達は閉じる前に自分から入ったけど、

 あいつらは引き込まれたんだもんな」


「そうそう。でもまあ、血の匂いもしねぇし、たぶん

 出くわしたのは悪霊のほうだろ」


「そうか、よかった……って、刀傷があるってことは

 もしかして」


「ああ。もしかしたらここにまだいるかもな」


「じゃあまずはこの保健室から調べるか」


 偶然にも刀傷があったのは、保健室の近くの壁だったらしい。


 ガラリと扉を開け、中に入る。

 相変わらず暗かったが、懐中電灯のおかげで、中の様子を見ることができた。

 保健室は記憶や思い出にしてはやけに鮮明に細部まで再現されている印象を受けた。


「随分しっかりとしてるな。結界の中の景色は多少粗

 があるものなのに」


「……」


「どうした? 引き出しなんか見て」


 オレが周囲を見渡している間、ノワールは机の引き出しを見つめるだけだった。

 サボっているなら注意してやろうと思いながら、覗き込んだ時だった。


 それまで無表情で引き出しを覗き込んでいたノワールがニヤリといやらしく笑ったのだ。


 最悪だ。


 またこいつが手がかりを先に見つけやがった。

 こいつがこんな嫌な笑みを浮かべるのは、何か手がかりを見つけた時か、からかいがいのある面白いものを見つけた時だけだ。

 今この状況でからかいがいのあるものを見つけたとは思えない。

 ということは、手がかりを見つけたということだ。

 つまりまたもや先を越されたのだ。


 悔しい。


「何か見つけたのか?」


「いや、見つけてない」


 どういうことだ。じゃあどうして、あんな顔を……

「何もなかったんだ」


 そう言い、彼はその場を退く。

 彼が退いたことにより、オレからも引き出しの中が見えるようになる。

 しかし、引き出しの中は空だった。


「これがどういうことか教えてやろうか」


「もう、どういう意味か分かるかとは聞かないんだ

 な」


「聞いても無駄だからな。お前さ言ってただろ、この

 部屋が鮮明に再現されてるって」


「すげぇひどいこと言われた気がするけど、もういい

 や。ああ、言ったけど」


「つまりそれだけ怨霊がこの部屋のことを覚えてたっ

 てことだろ? ということは保健室によくきていた

 生徒か保健医に絞り込める」


「おう」


「でも、引き出しの中は空だった。保健医が怨霊なら

 引き出しの中も再現されてると思わないから?」


「あ!」


 それもそうだ。

 これだけ部屋は鮮明なのに引き出しの中だけ何もないというのはおかしすぎる。


 つまり、怨霊の正体は保健医ではなく……


「保健室についての記憶は強くあるが、引き出しの中

 は見たことない人物。つまり?」


「保健室をよく利用していた生徒!」


「その通り」


 ノワールが嬉しそうに笑う。

 彼とここまで息が合ったのは久しぶりかもしれない。

 いや、本来ならもっと合うはずなのだ。

 こいつがオレが理解する前にバカにさえしてこなければ……

 4話です。この話では入れたかった謎解きを軽くですが入れることができました!

 そろそろ再会させたいなとも思っております。

 これからもよろしくお願いします!

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