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〜桜並木編2〜

 最初に感じたのは土の香りだった。それから口の中の砂の感触とキィキィという金属音。

 ゆっくりと目蓋を持ち上げると、予想通り土の上だった。

 状況を把握するため起き上がり、音の方へと目を向ける。

 するとそこにはブランコを漕いでいるノワールの姿があった。先程から聞こえる金属音はブランコから発せられているらしい。


「おう、起きたか。特技が寝坊のお前のことだから、

 もう少し寝てるかと思ったけどな」


「うるせぇよ。それよりここは?」


「結界の中だろ。たぶん奴の思い出の場所なんじゃね

 ぇの?」


 思い出の場所、おそらくそうなのだろう。

 これまで対峙してきた怨霊の結界内もその怨霊の生前の思い出が反映されていた。今回も例に漏れずということか。


 そこまで考えて、オレはようやく足りないものに気がついた。

「なあ、ハクとあの人間は?」


 そう、この公園にいるのは、オレとノワールのみ。ハク達が見当たらないのだ。


「行方不明だ」


「行方不明って……」


「たぶん結界に入ったタイミングが違うから別のとこ

 に出たんじゃねぇか?」


 なるほど。その考察は確かにあり得る。


「じゃあまずは二人を探さないといけないな」


 オレはノワールにそう告げ、歩き出そうとした時だった。今まで呑気にブランコを漕いでいたはずが突然飛び降り、オレの前に躍り出たのだ。


 手の先まで覆う袖は手首までまくられ、それによって見えた手には彼の愛銃が握りしめられていた。

 あ、と思うまでもなくオレは銃の先へと視線を向ける。


 そこにいたのでは見慣れた黒い球体だった。


 人の悪意が集まって産まれたもの。いや、産まれさせられたもの。悪霊……。


 そう奴の正体に気付いた時にはオレの両手は腰の双剣にかかっていた。双剣を引き抜くと同時に足を踏み出す。

 わずか数歩で奴の間合いへと入る。そして、その頃にはノワールの弾が当たったのか、二つほどぽっかりと穴が空いていた。

 その穴により、弱っているが構いはしないむしろチャンスだ。オレは右手を右から左へ。左手を下から上へと振り抜き、奴を十字に切り裂いた。

 穴を開けられた挙句、四等分にされた奴はキィィという耳障りな音を発しながら霧散していった。


 悪霊の消滅だ。


 それを見届けオレは一つため息をつこうとした、その時頭を何か硬いもので殴られた衝撃に襲われた。


「っ! 誰だ!」


「誰だじゃねぇだろ!」


「の、ノワール?」


「ノワール? でもねぇよ!」


 駄目だ。殴られたオレが怒るならともかく、殴って来た彼が怒る理由が分からない。

 そもそも、オレが怒るべきなんじゃないか?


「なあ、いきなり殴ってきて怒鳴るってひどくない

 か? そもぞもオレのことバカにしすぎじゃえねぇ

 か? いい加減に」


「いい加減にするのはテメェだ!」


 そう叫び彼はオレに頭突きをする。オレより頭一つ低い彼の頭突きはオレの顎へと見事にヒットした。

 ぐらりと視界が揺れ、倒れそうになるがギリギリ踏みとどまる。

 ほんとに次から次へと一体何なのだ。オレが何をしたというのだ。


「その顔じゃまだわかってねぇな。お前さ、ボクが銃

 構えてるの見てたよな?」


「当たり前だろ。そもそもオレはそれを見てあいつに

 気付いたんだ」


 それが何だというのだ。ノワールが銃を構えるのを見て敵に気づいたから斬りかかったのだ。


「だったらどうして間合いに入ったりした! 撃たれ

 ててぇのか!」


「え?」


「え? じゃねぇよ。ボクが咄嗟に脇から撃ったから

 いいものの、一歩間違えたら穴が開くのはお前の土

 手っ腹だったかもしれないって言ってんだよ!」


「あ、そっか」


「ようやく伝わったか。ったく、普通は間合いに入ら

 ないように迂回するなりして斬りかかるもんだけど

 な。本当、戦闘技術はトップクラスなのに、戦術や

 連携みたいに頭使うことはてんで駄目だな」


 悔しいことに言い返せない。


 どうもオレは頭の出来が良くないらしく、座学の成績はいつも最下位だった。

 そしてそれこそが目の前の男がオレを事あるごとに馬鹿にする最大の理由だったりする。

 そして、これまた悔しいことに頭の回転が速くないオレはうまく言い返せず、彼に対する不満を溜め込むばかりなのだ。

 いつか見返してやろうと思っているのだが、残念ながらそのいつかはまだきていない。


「まあ、とりあえずあれだ。お前は飛び出すな。馬鹿

 だからな」


「飛び出すなって」


「怪我したくないだろ? それにそろそろハクちゃん

 達探しに行かねぇとだしな」


 自分の言いたいことだけ散々言ったノワールはそのままゆっくりと歩き始める。

 それを見てオレも慌てて後を追いかける。ノワールとまではぐれるのは得策ではない。


 分かってはいるのだが、悔しい。また彼に言い負かされた。

 いや、ノワールに言わせれば、勝負にすらなってねぇよ。バーカと言われかねないが……。


 とにかく今優先すべきは悔しさよりも安全だ。

 目の前のこいつをギャフンと言わせるのは、今度にして、今回は引き下がる。


 こうしてオレ達は揉めながらも、ハク達の捜索へと乗り出したのだ。


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