第5話 初戦闘
レイは『地形把握』によってもたらされた情報に悲壮感を隠せない。
スキルレベルが上昇していた事には喜びを感じたが、それ以上に厳しい現実によって、それは一瞬にして塗り潰されてしまった。
出口も無い地下深くに閉じ込められ、そこからなんとか脱出できた。 しかし、その先にあったのは際限なく広がる牢獄のような森。
上を見上げるも、光は大樹達によって遮られ、太陽が真上から照らしている筈の森を薄暗く感じさせる。
その薄暗さは悲しみを更に増加させていくには十分なものであろう。
しかし、レイは悲しみに呑み込まれずに次に起こすべき行動を模索する。
すぐに気持ちを切り替える事が出来たのは、腰にある愛剣達のおかげだろうか。
「取り敢えず、移動してみるべきかな……」
レイはこの場所から移動することを決心した。
その大きな理由としては、二つある。
一つ目は竜を討伐した際に拡がった血の匂いを気にしての事である。
気を失っていたとはいえ、そこまでの時間は経っていないだろうという実感がレイにはあった。
それ故にまだ訪れてはいないが、近い内に血の匂いを辿って他の魔物がやって来てしまうやも知れないと考えた。
その魔物達と鉢合わせしてしまう事はレイにとって望ましい事ではないからだ。
二つ目はここへ集まってくる魔物達の強大さを考えてのことである。
この辺りに生息している魔物は、ここが竜のテリトリーであると知っている筈だ。
となると、ここへ訪れる魔物は竜と同じかそれ以上の実力を持っている者達であると仮定できる。
万が一、鉢合わせになったとしても勝てる保証がないのだ。
竜は神槍ロンゴミニアドによって屠る事が出来たが、次はそうはいかないだろう。
溜めが長いという点もあるが、何よりもレイがその力を使いたくないというのが一番の理由であった。
なぜなら、先程の神槍を足りない実力でもう一度使用しようとすれば、前回よりも明らかに重いリスクが降りかかると『危機感知』が警告をしてきたからだ。
初回に警告がなかったのは恐らく危機という程のものではなかったからなのだろう。
と、いうことで此処から離れる事が一番なのだ。
そう考えをまとめ、ザッ とレイは適当な方向に一歩を踏み出した。
しかし、これも試練なのだろうか。
「アハハ……」
レイは頬を引き攣らせながら乾いた笑いを漏らす。
レイが一歩を踏み出した先には先程の竜より一回り以上大きな黒い竜が四本足で大地を踏みしめていた。
「グルラアァァァァッ!!」
その竜は獲物を見つけた、とばかりに咆哮をあげ、背中の翼を大きく広げる。
「あー! もう! くっそっ!」
レイは自分の行動の遅さに悪態をつきながら、腰にさした二本の剣を抜き、竜へと向けて構える。
この地に降りて初めて、戦いの幕が上がる。