プロローグ
「試練を、与えよう」
金髪碧眼の長身の男性が少年に向かって言葉を発する。
その言葉には諦念が秘められていた。
「……はい」
少年はその言葉へと返答する。
少年とて、試練を受けたくはなかった。
だがこれは規則であり、破る事の出来ぬものなのだ。
正面にいる男性が、これを望んでいない事も知っている。
身を切るような思いで自分にこれを告げていることも。
そう思うと、ここで身勝手な反論を挟む事など出来るはずが無かったのだ。
「……では、儀式を始める」
少年の返事を聞いた男性は、唇を噛みしめながら少年の頭へと手を伸ばす。
すると、その手から光が溢れだし少年の体を包み込んでいく。
その光は段々と明るさを増していき、その場を白へと染め上げる。
カッ! っと光がより一層明るさを増すと、白く染め上げられていた部屋が元の部屋へと戻っていく。
少年の存在のみを掻き消して。
「……はぁ」
男性は儀式が成功した事に安堵と後悔の入り混じった溜め息を吐く。
この試練は今までにたったの一度も行われる事が無かった。
試練を受けるべき者が現れなかったからだ。
ある立場に就く為に行われるこの試練は、受ける為に要求される条件のハードルが途轍もなく高い。
故に、その条件を満たす者は現れない。
──しかし、彼の少年はそれを満たした。
否、満たしてしまったと言った方が正しいだろう。
それは、この世界を揺るがす程の大事件であった。
だからこそ、この様な事態へと発展してしまった。
今まで一度たりとも満たされる事の無かった条件を満たす者が現れたのだ。
その者が、試練を受けない事など有り得ない。
そんな風潮がこの世界へと浸透して行くのは、火を見るより明らかであった。
故に少年は、自らの意志とは関係無くこの試練を受ける事となった。
この試練は、死をも伴う危険なものだ。
下手をすれば、開始したその日に死を体感する程の。
「……はぁ」
男性は、またもや溜め息を吐く。
そして、少年が居た場所を見つめる。
少年が、無事この試練を乗り越えられるように。
少年が、心を折ってしまわないように。
そんな願いを込めて。
「彼の者に、祝福あれ……!」
此処から、少年の物語が始まる。
彼が為の、物語が。