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19・キース君サイド4~お掃除の歌~後編


そして夜になった。


俺は夕方から悩んだまま眠る気にもなれず、王宮庭園の芝生の上に座って満天の星空を眺めていた。


ミルフェと一緒に旅に出たい。でも吹雪きや豪雨、炎天の道中を進むであろう、そんな苛酷な旅に彼女を連れて行っていいのだろうか?ミルフェが病気になったり、大怪我を負う未来を考えるだけで血の気が引く思いだ。

悶々と悩んでいた時、後ろから声がした。



「瞬く星空が チリに見えるよ 掃きたいな」


「え!ミルッ...むぐ!」


ミルフェがいつものよう魔法の竹ボウキを持ってそこに立っていた。俺はまだ彼女の名前を呼ぶのが恥ずかしくて、急いで出かかった声を手で塞いだ!

ん?よく見るとミルフェは頭にプスプスといっぱい花を挿していた。

いや、まあ。可愛いんだが寝巻きにローブを羽織った姿にその頭は....。


「キース君。こんばんわです。むむむ。この頭ですか?おかしいですよね?おかし過ぎますですよね?」


「いや、その。か、かわ、」


「侍女長さんがぁ!!後から届いた贈り物の生花だけはお受け取り下さい!ってムリヤリこんな頭にッ!!」


そ、そうなのか....。侍女長さんもストレス溜まってんだな。

天下の聖女さんに斬新で優雅な気品高い嫌がらせだ....。


「薔薇の花が 揺れて邪魔だよ 掃除出来ず」


「?それも掃除の歌なのか??」


「俳句というものですね。心を落ち着かせたい時に効果的です。キース君はどうしました?ほほう!何だかまたお悩みのようですねぇ~」


ミルフェはスススっと近づくと俺の隣にストンと座り、へにゃんとした相手を安心させる顔で俺の瞳を覗き込む。

ああ。俺は今気づいた。彼女はいつもこうやって俺の瞳を心配そうに覗き込む。何かを確認しているような、様子を伺うような、そんな彼女の顔。

俺の何をそんなに気に掛けているんだろうか?

俺は彼女にとってやはり頼りなく映るんだろうか?


「ミルフェ。ミルフェは、恐いのか?俺がもしかしてまだ勇者として未熟だから。そんな俺と討伐の旅に出るのはやっぱり本当は嫌だよな。」


俺の後ろ向きな問いにミルフェは、おおう?という顔をしてから考えるようにじっと黙り込んだ。


そして立ち上がり、星空を見上げながら話し出す。


「そうですね、恐いです。本当は恐いです。だって人生って呆気なく終わっちゃうんですよ?あれ?って思ったら死んじゃってましたね。自分だけはまさか大丈夫だろう、なんて今の私にはもう思えません。」


死んでた?何の事を言ってるんだ???

だがミルフェは俺の前で屈んで俺の瞳を正面から真っすぐに見た。

俺の瞳に悲しい過去を見ているような、そんな沈んだ淡い水色が揺れる。

そして言葉を続ける。



「でもね、それよりも。それよりも私、君のあんな姿は二度と見たくないんだよ。」



え?



「何故一人だったの?何故絶望してたの?何故それでも魔王を倒してくれたの?何故、そこまでになるまでに誰も。誰も君を助ける人はいなかったの!」


「ミルフェ?何をーー。」


何かを強く憤るミルフェの後ろに星が一つ落ちて行く。

まるで女神様が肯定しているかのように。


「むむむ!今のなーし!八つ当たりしてゴメンね!!今の君には関係なかったわ。えーと。何かそんな恐い夢を見ただけ!うん!討伐の旅は大丈夫!!この魔法の竹ボウキもあるしね!ガンガン魔物倒おそうじしちゃおー!!」


恐い夢、とそう言いくるめようとする彼女。とてもそう思えない様子だったが...。でもいつもの調子に戻ったミルフェに少しホッとする。彼女の口調がいつの間にか砕けてるし。結構それは嬉しい。



俺は再び星空を見上げて誓う。



彼女を守れるようになろう。色々悩み恐がっているのは俺だけじゃなかった。今は意味の分からない彼女の問いもいつか分かる日が来る、そんな気がするんだ。

その時に後悔しないように、諦めてしまわないように。これから精一杯自分を磨こう。大丈夫。俺はミルフェに見い出された勇者なんだから!


「んんん?キース君、お顔がやる気いっぱいになったねぇ。!!ッあああ!!“やったるぜ!やり直し!!”」


「へ?何だ!?」


「数え歌の八つ目がどうしてもいいのが浮かばなくって。今ピッタリの出たよ!お掃除やり直しとこっちのやり直しを掛けて、今のキース君のお顔でピッタリなのさ!!むふふ~~♪やぁ~つ、やったるぜ!やり直し♪」


「あ、ああ。?」


こっちのやり直し?よく分からんがまあ、いいか。

こんなにもミルフェは嬉しそうだし。

そんな彼女を見て俺はこれから先の未来を明るく頭に描く。




ーとりあえず明日から少し辛いものに挑戦してみようー



次はいちゃラブが書きたい。


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