第7話 眠る男
話を聞くたびに勘違いしそうになってしまう。中学生のときにはなんとも思わなかったのでこれは高校生になったからなのだろう。そういう勘違いは恥ずかしいものだと思う。
文芸部に入った理由を言うまでに少し間があったからとか卵焼きをくれたからとか俺の好きなラノベを彼女が読み始めたとかそんなことだけで俺は気があるのかなと勘違いをしてしまう。
文芸部云々に関しては入るというのを強く自覚していたが理由に関しては忘れていたのだろうし卵焼きに関してはドジして作りすぎただけだろう。ラノベを読み始めたのもただ俺が読んでいたので気になって読んだら面白かったのだろう。
こうして冷静に考えてみるとなおさらのこと恥ずかしくなってくる。もしかした目に見えて俺の顔が赤く染まっているかもしれない。
そんな内心を取り繕うために俺は顔を俯け何気ない風を装う。
「じゃあ、教室へ向かうか」
「そうだな。そうするとしよう」
俺たちは屋上を降りて教室へと向かった。
五時限目が終わった直後なのだが、これまで後ろの人はマンガを書き続け、前の人は寝続けている。俺という一般人の目から見たら二人とも異常としか思わないのたが、マンガ男の方はマンガ家や同人誌を書いている人にとっては普通なのだろうか。
いまだに寝続けている男の方に関してはなにか特別なことを夜にやっていない限りは異常なことは確定だろう。
「くぁぁー良く寝たなー」
まだクラスに全員がそれほど馴染んていないのか別に喧騒でもない中で場違いなセリフで場違いな声が教室中に響いた。声の主は例の前の寝続けていた現在キョロキョロしている男である。
「今何時だ?うーんと・・1時56分か。ということは今は五時間目終了後の十分間休憩の途中だな」
男は状況確認を終えたからかキョロキョロするのを止め、寝るわけでもなくちゃんと教科書やノートを取り出し机の上に置いた。どうやら学習意欲というのは少なくとも欠片ぐらいはあるらしい。
ここは自由が売りな高校だから寝かせてほしいみたいな人だと思ったのだがそれは勘違いだったのだろう。
「よろしくな」
「ああ、よろしく」
友達関係なんてだるいというタイプでもないらしい。じゃあ、なんで寝ているのだろうか。恐らく夜になにかやらなくてはいけないことがあるのだろう。深夜にバイトしなくてはいけないというのはどう考えても込み入った事情がありそうなので深くは触れないほうが良さそうだ。
「何で今まで寝てたんだ?そんなに眠いのか?」
考えに反して俺は聞いてしまった。
「俺さ、しっかり寝ないといけないタイプなのに昨日徹夜でゲームしちゃってさ。眠かったんだよ」
「そうか」
大丈夫だった。ほんと複雑な家庭の事情とかじゃなくて良かったよ。俺はホッと安堵のため息をついた。