第10話 中二部!(後編)
その中に憧れの先輩の姿はなかった。
「どうしたんですか?そんながっかりした顔して。やっぱり迷惑だったですよね...帰ってもらっても、」
「いえ大丈夫です!!」
「そうですか!ちゃんとノートパソコンぐらいはあるので文芸を楽しんでくださいね」
中二病の先輩は痛々しい格好とは裏腹にまるで大輪の花が咲いたような眩しく美しい笑顔を見せた。これは普段の姿なのだろうか。それともボーナスモード的ななにかだろうか。
ただ、これで一つはっきりとしたことがある。俺と憧れの先輩は運命の人だった!
なぜかといえば、少女(憧れの先輩)が遅刻してトーストを口に咥えながら「遅刻、遅刻~」といいながら走る。そして、今目の前にあるような十字路や曲がり角で運命の人(俺)とぶつかるという少女マンガの一昔前の王道展開に当てはまっているからだ。
そして俺が中二部に入ったのは大正解と言えるだろう。憧れの先輩と放課後毎日仲を深められるのだから。
それに先輩の普通モードは確かに俺の好みである儚げな少女といった感じだ。
例え、普通モードはボーナスモード的な何かだとしても俺はそのボーナスモードのために辛抱強く、罪深き龍のパラドックスを体内に封印している少女と喋れる!!
「どうしたんだ?ガッツポーズをして」
「ああ、なんでもない」
「そんなに気合をいれなくても大丈夫ですよ。軽い中二病の方も居ますし」
「中二病モードじゃないときは中二病っていうんだな」
「はい。中二病の衝動に駆られたとき以外は普通ですよ」
「中二病の衝動か」
ということは逆に、衝動に駆られなければ見た目が痛いだけということだ。そんなにしょっちゅう衝動に駆られることもないだろう。
普段は普通に可愛い先輩とお話できるということだ。これはうれしい。俺の顔がにやけてしまうぐらいには。恋というものは意外と厄介ものでもあるのかもしれない。
「どうぞ、環境を確認してみてください」
すっかり部屋の内装のインパクトが強くて見逃していたが机にはノートパソコンが10台も置かれており机は意外と普通、イスは残念なことに痛々しい魔方陣が書かれた黒である。
ノートパソコンが十台もあったり内装に凝ってあったりと予算は結構もらっているのだろうか。もしかしたら実績を残している部なのかもしれない。
俺が起動ボタンを押すと十数秒後に起動した。デスクトップで確認すると小説を打つソフトはキッチリ入っているようだ。
ただ、そのソフトの良し悪しとかパソコンの性能はさっぱりわからない。まあ、使えることが確認できれば十分だ。
「確認できた」
「こちらも確認できたが」
「あとは文芸部って体験することってほとんどないんですよねぇ。小説でも読んでいきます?それとも書いてみます?あなたたちが帰りたいならかえっていいんですけど」
「じゃあ、ひとまず今日は帰らせてもらうが、どうする?」
「じゃあ、帰らせてもらうか。そういえば他の部員はどうしたんですか?」
「後輩に関することはわたしに一任されたので最初の1週間は来ないんです」
「そうですか。ありがとうございました」
「ありがとうございました」
俺は文芸部に残っていくことは当然出来なかった。そうしたら絶対に二人切りになったらドキドキしすぎて喋れなくなる自信があるからだ。俺が一切喋れなかったら先輩も迷惑するだろう。
俺たちは下駄箱まで一緒に行き、そのあと別れて帰った。




