最初の晩餐
「ふうむ、大体構造が分かってきたぞ」
ウィルはしばらくジーナと共に船内を探索していたが、そろそろ夕飯の支度があると言われて別れてしまった。
その後もずっと船内を歩き回ってようやく全ての部屋を制覇した。しかし食糧庫だけはジーナと探索してた際に、衛生上の理由からと足を踏み入れることはなかった。
「最後は船員室だな。む、汗臭い」
ウィルは船員室を見て回った。各員に割り当てられたベッドが主であったが、備え付けの棚に本などを置いている所もある。一応個人の空間なので深く見るのは止めておいたが、一箇所だけ本で埋め尽くされたベッドがあり少し気になった。
「俺の本棚がそんな珍しいか?」
「あ、すいません。とても本が好きなんですね」
「ただの暇潰しだ。今回は最長で一ヶ月間の船旅も想定しているからな。客人気分かしらんがあまり迷惑はしてくれるなよ」
本棚の持ち主は随分な言い様だったが、ウィルも少し反省した。確かに何もせずに乗っているだけで、自分のことを快く思わない人もいるかもしらない。
「ちなみに今は夕飯前に読んでいた本を戻しに来ただけだ。じゃあな」
その男は自分のベッドに本を置いて去っていった。夕飯と言われてウィルも食堂に向かおうと思ったが、男とすれ違い様に本の題名が見えてしまった。シンプルな書体で「人との話し方」と書いてあった。
「もっと優しく喋ればいいのに」
男はもういないが、ウィルはそう呟いた。