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出たとこ勝負も程がある 48 エリックとパーシヴァルの話

「ところでマスター、マスターってば、今日もまたオシゴト?」

「それはもちろん。まあ、今日ははてみの塔に行かなくてもいいからな。少しは気が楽だ。

「へ? んじゃ、何しにお城に行くんスか?」

「ん? ああ、書類の整理、とか――」

「ホヘ? ショルイのセーリ? なんだってんなことするんすか?」

「なんで、って――おまえまさか、夢守りが毎日毎日結界をはるためだけに城に行っているとでも思っているのか?」

「違うんスか?」

「違う。まず、口幅ったい事を言うようだが、はてみの塔の結界をつくるのは、非常に高度な技術が要求される、大変に疲れる、神経を使う作業でな。とてもじゃないが、毎日やっていては身が持たん」

「ああ、だから、ラクな仕事を間に挟んでおく、と」

「まあ、書類の整理だって、そう楽なわけでもないのだが。公式文書はセルティア文字ばかりだからな」

「セルティア文字? ……ハハァ、表意文字の一種、と。なるほど、漢字みたいなもんスか。へぇ……ふーん、なるほどねー。やっだもー、マスターってば、インテリさん♡」

「いんてり……ああ、確か学者のことだったな。いや、私はそれほどでも――ああ、でも、夢守りと夢紡ぎは、最初のうちは全く同じ勉強をさせられるからな。そうだな、私も、四半分くらいは学者かもしれん」

「夢紡ぎ、っつーと――」

「夢紡ぎの役目は、はてみの君の御言葉を読み解くことだ。私も、昔一時、夢紡ぎになろうかと思ったこともあったが――やはり私は、夢守りのほうがむいていたようでな」

「夢紡ぎは、はてみの君に会えるんスか?」

「ん? そうだな、会えるものもいるし、会えないものもいる」

「ふーん」

 エリックは、ポリポリとこめかみのあたりをひっかいた。




 パーシヴァルが翡翠宮に、エリックがセルティニアの街へと繰り出す前に、そんなやりとりがあった。







「あんた、何食べてんのよ」

 カンナは、エリックを見るなり顔をしかめて吐き捨てた。

「へ? アラ、おネエさま、こんにちは。これッスか? えっと、確か、ティポの親子焼とか言ってたッスね。ティポっていうのはトリさんで――」

「そんなこと聞いてんじゃないわよ」

 カンナは、いかにもいやそうに言った。

「あんた、よく現地の食べ物なんか食べられるわね。ああ、キモいキモい。そんな、地べた這いずりまわってた動物の肉食って、何が楽しいのよ?」

「えー、でも、うまいッスよこれ?」

「近づけないでよ。服汚したら弁償だからね」

「へーい、すんません。いやー、に、しても、キグウッスね」

「ばっかねえ、偶然なわけないでしょ。招待状渡しに来たのよ」

「へ? 招待状?」

「そ。ダーリンからの招待状」

 カンナの手の中に、どこからともなく、流麗な手書き文字の招待状が二通出現した。

「詳しい事情は、この中に入ってるから。いくらあんたが下っぱでも、解凍ぐらいできるでしょ」

「ほへ? 新月様からの?」

「そうよ。あんたんとこのマスターにも理解しやすいように、わざわざダーリンが自筆のやつをつくってくれたんだから。ま、おかげで余計な手間がかかっちゃったけど」

「へー。そらどーも。おー、タッピツッスね」

「あんたにわかるの?」

「いやー、わかんねッスけど、たぶん、こーいうのをタッピツって言うんでやんしょ?」

「あー、じゃ、ないのぉ? じゃ、確かに渡したからね」

「ああん、おネエさま、もう行っちゃうの?」

「じゃあね」

 カンナは、あっさりと、市場の雑踏にとけた。







「――と、いうわけなんスよねー。……って、大丈夫ッスかマスター?」

 エリックは、その場で卒倒しそうになっているパーシヴァルを不安げな顔で見つめた。

「マスター、マスター、聞こえてるッスか、マスター?」

「し、し、し――」

 パーシヴァルは、悲鳴のように叫んだ。

「新月様、だとぉッ!? ど、どどど、どうして、どうして新月様が私なんぞを、それ以上におまえなんぞを御存じなんだ!?」

「アラ? オレ、言ってなかったッスか? オレ、こないだ新月様にお会いしたんスよ」

「き、聞いとらん聞いとらん! いったい何がどうなってるんだ!?」

「えーっと、あのですね、マスター」

 エリックは、ため息をついた。

「どこから話せばいいんかなー。えーっとッスね、まず、新月様は、マスターとちょうどおんなじくらいの時機に、中級のおネエさまがたを、二人呼び出したんスよ。二人ッスよ、二人。いやー、スゴいッスよねー」

「……何?」

 パーシヴァルは目をむいた。

「つまり、おまえは、新月様が悪魔を召喚した、と、そう言っているのか?」

「つまってもつまらなくっても、そゆことッスね」

「……」

 パーシヴァルは蒼白になった。

「……それは……うう……それは……えらいことになったな……」

「んで、こないだ翡翠宮に行った時、オレ、おネエさまにお会いしまして、つーかとっつかまりまして、んで、新月様ともお知り合いになったんスよ」

「そ、そこまでは、なんとかわからなくもない。だが――だが、新月様はなぜ私なんぞに興味を御持ちになられたのだ!? ――そうだ、そもそも」

 パーシヴァルは、歯ぎしりしながらエリックをにらみつけた。

「エリック、おまえ、あることないことベラベラ喋りらしてきたんだな!? ええい、この役立たず! 口をつぐんでいることも出来んのか!?」

「だってコワかったんだもん!」

 エリックは真顔で叫んだ。パーシヴァルは表情を和らげた。

「ああ――そうか。すまなかったな、怒鳴って。そうだな、確かに、おまえなんぞが新月様に逆らえるわけがないな」

「へ? あー、いや、コワかったのはおネエさまがたで、新月様はコワいっつーか――あー、まあ、確かに迫力と威圧感はあったッスけどね。んでね、なんかねー、新月様も――」

「そ、そうだ、肝心なのはそこだ。新月様は、いったい何をなさるおつもりなんだ?」

「えっとッスね」

 エリックは、小さく肩をすくめた。

「王様と、御結婚なさるおつもりらしいッスよ」

「王様――ひ、翡翠様とか!?」

「そうッスそうッス。ナルガさまっとス」

「……」

 パーシヴァルは、肩を上下させて大きくあえいだ。

「そ――そんな、無茶な!」

「いやー、ゴリおすっしょー。なんせ、中級のおネエさまが二人もついてるんスから。んで、マスターッスよ」

「そ、そこがわからん!」

 パーシヴァルは本格的に悲鳴をあげた。

「どうしてそこに私が出てくるんだ!? わ、わ、わ、私は、単なる平民だぞ!? ただの夢守りにすぎんのだぞ!?」

「でもね」

 エリックは、チッチッと指をふった。

「マスターは、はてみの君に、ホレてるっしょ?」

「……何?」

 パーシヴァルは、きょとんとエリックを見つめた。

「なんの……話だ? なぜ今そんな話をする必要がある?」

「だからね、マスター」

 エリックはニヤリと笑った。

「マスターは、はてみの君をさらうだけでいいんスよ!」

「な、ななななな、何―――――イッ!?」

 パーシヴァルは飛び上がった。

「どっ、どどど、なっ、なな、な、何がどうなればそういう話になるんだ!?」

「それはね、マスター」

 エリックは、空中からノートパソコンをひっぱり出した。

「これさえ見ればイチモクリョーゼン! 状況説明用ムービー『わたしはいかにしてこの結論に至ったか』!」

「ん? 何を見ろと――おおおおおおッ! え、絵が動いてる!?」

「アァン♡」

 エリックは恍惚とした表情で天を仰いだ。

「なーんてお約束通りの反応なんでやんしょ♡ よい子のみんな、様式美の世界を大切にね♡」

「は?」

「気にしちゃダメッスよ、マスター♡」

「……」

 パーシヴァルは、口を開きかけ――。

 そのまま、パソコン画面の虜になった。

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