criminal・encounters・some・crime(後)
破壊衝動 22:08 「つまりは、何をするんですか」
謙謙外視 22:08 「ここまで言っておいてなんですが、結論は一旦置いておきましょう。人間不信さん、いくつか質問をしてもいいですか」
人間不信 22:08 「なるべく答えます」
スコープ 22:09 「ははは。そんな難しい質問はないよ」
謙謙外視 22:09 「では、人間不信さん。今現在、好きだと思う人はいますか? 別に身近な人物でなくてもいいですし、恋愛的な意味でなくても結構です」
人間不信 22:09 「いないですね」
謙謙外視 22:09 「では、好きなものはありますか? これは趣味ととらえていただいてもいいです」
人間不信 22:10 「小説を読むのは好きです」
スコープ 22:10 「お、いいんじゃない」
謙謙外視 22:10 「そうですね。じゃあ、人間不信さん。気に入っている作品や作者さんはいますか」
人間不信 22:11 「そう訊かれて、すぐに思い浮かぶ名前はないですね」
スコープ 22:11 「あれ、それは残念」
破壊衝動 22:11 「好きな作家さんがいれば解決なんですか?」
謙謙外視 22:11 「その足掛かりにはなりましたね」
人間不信 22:11 「そうなんですか」
謙謙外視 22:11 「はい、ここまで来たので言ってしまうとですね」
謙謙外視 22:12 「人間不信を名乗る人物の罪の解決法として、過去に私たちが出した答えはですね」
スコープ 22:12 「愛だよ」
謙謙外視 22:12 「誰かを好きになることなんです」
人間不信 22:12 「はあ、愛ですか」
破壊衝動 22:12 「確かに、人間不信さんは、得意じゃなさそうなことですね」
スコープ 22:13 「でしょ? 俺の罪の解決法がそれならどんなに楽だったか」
人間不信 22:13 「でも、それで本当に僕の中の罪の意識が消えるんですか」
謙謙外視 22:13 「そう疑問に感じるとは思っていました。確かに絶対とは言えません」
スコープ 22:13 「でも知ってるかい? 今、人生罪戯に人間不信ってアカウントは一つしかないんだよ」
人間不信 22:13 「なるほど」
破壊衝動 22:14 「?? どういうことですか?」
人間不信 22:14 「つまり、今までの人間不信は、全員が罪を解決してここを去った、と」
スコープ 22:14 「そゆこと」
謙謙外視 22:15 「この中では、私が一番人生罪戯歴は長いですが、今まで出会った人間不信さんは、みなさん、もうこの場所は必要がなくなった、と言ってここを去りました」
人間不信 22:15 「誰かを好きに、なれたら苦労はないんですけどね」
スコープ 22:16 「焦らなくたっていいんだよ。ヒトのことなんて、苦労して好きになるようなものじゃないし」
謙謙外視 22:16 「これは、過程が大事とか、結果が大事とか、そういう問題ではないのです。そうですね、例えるなら」
謙謙外視 22:17 「ピアノの鍵盤は、ゆっくり自由に演奏していけばいいんです。最後の一音だけ奏でても、あなたの心には何も残らないでしょう?」
スコープ 22:18 「過程と結果。どちらかしか選んじゃいけないなんてのは、閉塞的な考えだよね」
人間不信 22:18 「では、僕に好きだと思える相手ができたら、またその時に相談します」
謙謙外視 22:19 「はい。いつでも待ってますよ」
破壊衝動 22:19 「でも、なんかステキですね」
人間不信 22:19 「何がですか」
破壊衝動 22:19 「だって、誰かを好きになることで、罪が解消されるなんて。どこか、物語みたいじゃないですか」
スコープ 22:20 「王子のチューで呪いが解ける白雪姫みたいだね」
破壊衝動 22:20 「そんなかんじです! 愛がすべてを救うわけじゃないけど、やっぱり何も救わないわけでもないんだなって」
謙謙外視 22:21 「王子の愛が魔女の呪いを解いたと考えると、魔女に愛はなかったんでしょうね」
人間不信 22:21 「それはまたなぜでしょう?」
破壊衝動 22:21 「私、何となく分かる気がします」
謙謙外視 22:22 「うん。だって、魔女は白雪姫を殺したいから、絶対に生き返ったり助かったりしないように、自分で最強の毒リンゴを作って持ってきたわけじゃないですか」
スコープ 22:22 「最強の毒リンゴって、面白いね」
人間不信 22:23 「でも白雪姫の呪いは解けてしまった」
謙謙外視 22:23 「それは、魔女に愛がなかったために、愛のある方法で呪いが解けるなんて、思い付けなかったんですよ」
破壊衝動 22:24 「もしも魔女に愛があれば、愛を持ってしても呪いが解けない毒リンゴだって作れた。ってことですよね」
スコープ 22:24 「なるほど。やっぱり謙謙外視さんはモノの見方が違うなあ」
謙謙外視 22:24 「それが私の罪でもあるのですけれど」
人間不信 22:25 「でも、白雪姫のストーリーに少しだけ納得が持てる話ですね」
破壊衝動 22:25 「あたしも、ヒトゴトなんですけど、本当に人間不信さんの罪は解消されるような気がしちゃいました」
謙謙外視 22:26 「だって、理由を考えなければ、白雪姫はただの都合のいい御伽話で終わってしまうじゃないですか」
この後も三十分くらい、四人で会話をしていた。
謙謙外視さんは、最後に「スコープセットさんと同じで、破壊衝動さんみたいに衝動的に何かをしたくなってしまうタイプの方は、あまり感情を高ぶらせるようなことはしない方がいいと思いますよ」とアドバイスをくれた。残念ながら、『破壊衝動』という名前には出会ったことがないらしい。けど、自分の罪が解決できるまで、注意できることがあるなら注意しておきたいし、参考になる意見だ。
でも、今日はなんだか不思議な一日だったな。人生罪戯でしたトークといい。部活の帰りに、図書室の文芸部が使っている掲示板前で話した男の子といい。
いい詩が書ける気がするな。
気分が良い。あたしはそのまま、襤褸襤褸に裂かれた靴下の残骸を片づけてノートにペンをはしらせた。




