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   感情



 こおんこん、きみは誰ですか

 聞こえる声は耳に障る

 どうしてそんな言葉を言うの

 私が叩くのはきみの部屋の扉じゃないわ


 こおんこん、きみは誰ですか

 聞こえる声は耳に無い

 どうして黙ってしまったの

 きみが閉じたのはきみの部屋の扉じゃないわ


 こおんこん、きみは誰ですか

 聞こえる声はもう知らないわ

 どうしてそれが必要なの

 ハンドルを握ったならアクセルを踏んでよ

 じゃなきゃ私がそこへ踏み込むわ





 

 嫌嫌外視 21:55 「もうみなさん、集まりましたか」

 人間不信 21:55 「はい」


 文芸部の鍵を職員室に返してから、少しだけ図書室に寄り、その後は普段通り家に帰って来た。

 気兼ねなく話のできる相手というのは、とてもありがたい存在だし、一緒に居れば楽しいし、でもやっぱり、気は休まらない。目の前の相手が大切ならば大切なほど、あたしは油断ができなくなる。ヒトの関係を破壊する原因なんてきっといくらでも世界は用意してくれるし、あたしにも備わっている。それに、関係というのは、何も良好な関係の事だけを指すわけじゃない。

 あたしは嫌われるのは好きじゃないんだ。

 

 スコープセット 21:56 「お、早いね」


 グラスに麦茶を注いで二階の自室へと階段を上がっていると、あたしの影の中に、ほんの少しだけ麦茶が零れた。気のせいだとわかってはいるけれど、あたしの影は、なんだか泣いているみたいだった。

 何度やっても、あたしは自分の部屋までグラスの中身を零さずにたどり着けた例がない。放っておけば自然に乾燥する程度の量だけれど、麦茶というのは以外と染みになるし。靴下の裏で拭き取っておいた。靴下はすぐに洗えばいい。

 部屋に戻ると、ローテーブル上のノートパソコンで開いていたブラウザの、とあるサイトのページに、メッセージの書き込みが更新されていた。

 ベッドに腰をかけ、靴下を脱ぐと、濡れて少し色の濃くなった部分が自然と目に入る。特に意識せず麦茶を拭き取ってしまったが、結構気に入っていた靴下だった。どうしてこう、あたしはものを大切に扱えないのか。さっきまでは洗えばいいと思っていたのに、それが気に入っていたものだと気付いた途端、汚れた姿を見ていたくなくて、引き裂いてしまいたくなった。

「破いちゃおうかな」

 一度染みをつけたらなんだかそれがどうでもいいものだったみたいに思えてきた。


 人間不信 21:58 「あとは誰が来るんですか」


 靴下を見つめる視界の端で、ノートパソコンのモニター内が少し動いく。

「あ、返事しないと」

 床に靴下を投げ置いて、キーボードへと急ぎ寄る。

 あたしが最後みたいだ。


 破壊衝動 21:59 「ごめんなさい、あたしで最後です」


 二十二時に集合の予定だから遅れてはいないのだけど、待たせてしまったみたいなので、一応謝っておく。


 謙謙外視 21:59 「気にしなくていいですよ。じゃあ改めて、みなさんこんばんは」

 人間不信 22:00 「こんばんは」

 スコープ 22:00 「はい、こんばんは」

 破壊衝動 22:00 「こんばんは~」

 謙謙外視 22:00 「それじゃあ、さっそく、最近入ってきたばかりの人間不信さんの話を聞きたいと思うんですけど……」

 スコープ 22:00 「まあ。無理だよね」

 人間不信 22:01 「多分」

 謙謙外視 22:01 「ですよね」

 破壊衝動 22:01 「どうしてですか?」

 謙謙外視 22:01 「それは彼が人間不信だからですよ」

 破壊衝動 22:01 「でも名前だけじゃ、そこまで判断できないんじゃないですか?」

 謙謙外視 22:02 「まあ、普通ならそうなんですけれどね。ここはそういう普通の場所とは違うんですよ」

 スコープ 22:02 「破壊衝動さんも、ここへ来たのは割と最近だからまだ知らないかもしれないけれど」

 スコープ 22:02 「人生罪戯は誰でも巡り会える場所じゃあないんだ」

 スコープ 22:03 「言ってしまえば、トトロの森みたいなものだよ、出会う人間は出会うべくして出会うことしかできないんだ」

 謙謙外視 22:03 「この場所に巡り会った人間が、自分を人間不信と名付けたのなら、それだけでもう、充分な情報なんです」


 納得できるようなできないような。自分が人間不信じゃなくとも、簡単に信じられる話ではないかな。ただ、あたしがこの場所に巡り会うべきだったのかと尋ねられれば、それは首を縦に振ってしまいそうでもあるのだけど。


 破壊衝動 22:04 「そうなんですかぁ」

 謙謙外視 22:04 「まあ、スコープセットさんみたいな名前だとなかなかわからないですけれどね」

 人間不信 22:04 「確かに」

 スコープ 22:04 「じゃあ、簡単なプロフィールは、各自のアカウントページに行けば分かることだし」

 スコープ 22:05 「早速解決しちゃおうか。人間不信さんの罪」

 謙謙外視 22:05 「そうですね」

 人間不信 22:05 「解決って?」

 破壊衝動 22:05 「そんな簡単にできちゃうんですか」

 謙謙外視 22:05 「正確には、今すぐ解決することはできません。しかし、このサイトで人間不信を名乗る人間は実は以前にも何人かいて、そのときに解答にはたどり着いているのですよ」

 スコープ 22:06 「だから俺たちにできるのは解決する方法を教えることだけなんだけどね」

 破壊衝動 22:06 「簡単にできることなんですか」

 謙謙外視 22:06 「それは人によりますね」

 スコープ 22:07 「俺なんかにとっては、多分そんなに難しいことではないと思うよ」

 人間不信 22:07 「だけど、僕にとっては容易でないかもしれない、と」

 スコープ 22:07 「かもしれない、ではないね。絶対に容易ではないよ。謙謙外視さんにとっても恐らく難しいよね」

 謙謙外視 22:08 「はい。ただ、人間である以上、きっと不可能ではないはずです」


 なかなか会話に入っていけない。けど、それが自分のものじゃなかったとしても、罪が解消される瞬間には興味がある。本当にあたしの中にあるものが解消するんだという希望になる気がする。



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