a±jb(b≠0)
『
逃げ溜り
とつとつとつあ
とつとつあ
逃げ場を求めて歩いてみた
空は少しづつひかりを亡くす
猫じゃらしたちも黄に染まり
やがては闇が目を潰す
おうちに帰って網に潜ろう
かちゃかちゃと
かちゃかちゃかちゃと
画面の世界にのめり込もうか
あたしの逃げ場はどこですか
辞書にもwikiにも書かれていない
何かの拍子で見つかった
あたしと同じ罪と罪
とつとつとつあ
とつとつあ
とつとつとつあ
とつとつあ
三歩進んで見つけては
二歩下がっても何か知る
とつとつとつあ
とつとつあ
ここはあたしの逃げ場でしょうか
』
人生罪戯サイト。
最初は『じんせいざいぎ』と読んでいたが、正しくは『じんせいつみげ(ー)』と読む。
つみげー。詰みゲーと積みゲーが掛かっているらしい。
確か、詰みゲーというのは、ある程度進行させていくと、どう足掻いてもクリアできない状況に陥り、将棋で言う『詰んだ』状態になってしまう程、難易度が高いゲームのことだったと思う。
積みゲーはそのまま、買ったものの、プレイせずに部屋の隅っこに積んであるゲーム達のこと。
この人生罪戯というオリジナルの四文字熟語。これを考えた人間にはつい関心を覚えてしまった。読みの「ゲー」部分。意味が戯とゲームで綺麗に揃っている。それだけでもよく考えられていると思ったのだけど、実は「戯」という漢字、本当に「げ」と読むらしいのだ。当て字に見えて当て字でない。そして意味も通っている。しかし、そもそも僕の気を引いたのはサイト名の意味ではなく、そのサイトの中身の方だ。
運用するにはアカウントを作らなければならないのだが、そのアカウントを作るための条件の中に、いくつか気になる項目があった。
『自分の中に解消できない、自分が罪だと認識している性質を持っていること』
『それに由来するアカウント名を付けること』
『その罪の解消を望んでいること』
初めて見た時点では、これがどういう意味の文字群なのか理解には至らなかった。しかし、アカウントを作らなくても多少ならサイト内のサービスを覗けるようだったので、『談話室1』というリンクをクリックし、そのページに飛んでみた。一見すると、その場所は、アカウントを持ったユーザー同士のコミュニケーション用の掲示板とチャットルームを兼ねたページのようだったのだが。
そこまで来て、やっと僕はこの人生罪戯サイトの意味を察するところまで来れた。会話文と共に表示されているアカウント名が、名前として名乗るには、あまりにも変わっている。自覚があるほど変わっている人間であるこの僕から見ても、それは「変わっている」と言わざるを得ない名前たちだった。
嫌嫌外視、屈託無き悪態、恐怖趣向、切断切断、最後取り、後ろ髪が伸びない、閉所暴走症、スコープセット、言葉被せ、故意の滝登り、倫理脱線走行、破壊衝動、殺人予告、ダル絡み、牢獄病、過激断罪、ヤンデレデレデレ。
どいつもこいつも悪い奴。そんな印象を受けざるを得ないものばかりだ。が、投稿されている会話を追って読んでみると、別に悪人の集りではないという事がすぐに分かった。このサイトは、言わば「お悩み相談所」だ。
例えば、アカウント名「嫌嫌外視」は、周囲を差別的な目で見ずにはいられない自分。「スコープセット」は、気付けば他人の動向を隠れて観察してしまうストーカー紛いな自分。「破壊衝動」は、唐突にものを破壊したくて仕方なくなってしまう自分。
そんな、自分の欲……この場で言う「罪」に悩みを抱えているヒトが集まり、その心情を理解しあえる者同士で解決の糸口を探そうではないか、という目的で運営されている。
そして、今日も誰かの罪悪感は救われない。




