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battle・of・return・key(前)





   常々物臭



 春は終末

 始まりという名の

 何も始まらない物語の継続


 夏は開幕

 人に会わぬ充足と

 手遅れな交友と

 何者も待たない首輪なしペットの五輪


 秋は情け

 仕方なく三季を四季にしたまで


 冬は言葉

 ただこの身は

 マシンガン沈黙に委ねられる





 確か、高校二年生になった時くらいに書いた詩。

 どんなことを思いながら綴ったのだったか。

 もっと綺麗な詩が書けるようになれたらいいのに。こうして文芸部の部室で自分の作品を読み返してみると、読んでる方はよく分からないかもしれないな、と感じてしまう。

「……木立こだち

 たまには心情じゃなくて、情景も詠ってみようかな。まだ七月だけど、秋の詩もいいかもしれない……今読み返していた詩では随分と蔑ろにしてしまっているし。

「木立!」

「わ(!)なになにどうしたの尾堂院びどういん楼城ろうじょうちゃん」

「無表情なのに言葉だけで驚いた振りするの、やめてくれないかな。あとフルネームで呼ぶのも。よく分からないけどぶっ飛ばしたくなるから」

 彼女はフルネームと言ったけれど、まさか今のが本名というわけではない。まさか、まさか。そんなことはない。

 あたし達文芸部は、そんなに人数が多い部ではないけれど、よく漫画やアニメで描かれる様な、形だけ、とか、名目だけの文芸部みたいなものではなく。みんなそれぞれに創作活動をしている――まあ、当たり前の事なのだけど――夢があるヒトも、目標があるヒトも、ただ好きでやってるだけなヒトも、何か作品を作っている。部としての活動は小説がメインだけど、それとは別であたしは詩を書いているし、みんな自分でやりたいことをやって、創りたいものを創ってる。つまり、アマチュアとはいえ、作者なわけだ。だから、それぞれ創作用の名前――ペンネームを持っている。まあ、好きな作家のペンネームをもじったり、好きな漢字を適当に並べたり、なんとなく恰好付けたくて付けられた名前ばかりなのだけど――この部の中では、部員をペンネームで呼ぶという暗黙のルールがあるのだ。

「こわいなぁ、楼城ちゃん。そんな冗談でいちいちぶっ飛ばされてたら死んじゃうよぉ、死んでゾンビになって襲っちゃうよぉ」

 本当にぶっ飛ばされない程度に、半分笑い交じりでまた冗談を返す。

「ちょっと、あんたに襲うとか言われるとゾッとするんだけど」

「えぇ、そうかなぁ」

 意外な反応をされてしまった。でも楼城ちゃんも冗談を言っているだけだろう。

「あれ? もしかして木立さん知らないんですか?」

「――ん。知らないって、何がかな、鬼灯ほおずきともりちゃん」

「ハマってるんですか?」

 フルネームで呼ぶの。と学年がふたつ下の後輩に、質問を質問で返されてしまった。襟足の綺麗に切りそろえられた、あたし達の可愛い副部長様だ。あの真横に揃った髪は、鋏で一刀両断すればできるのだろうか……。 鋏を通して、あのつやつやした髪の束から一本一本上下に絶ってゆく……その感触は気持ちがよさそうだなぁ。

 つい筆箱から鋏を取りだしてしまいそうになる。危ない、髪を切る想像なんてするものじゃないな……。

「でも、確かに。なんかイラッとしますね? 楼城さん」

「でしょ? コイツ性格悪いよね」

「いやいや、いいじゃんそんなことは、どうでも」

「そうですね。木立さんなんてどうでもいいです」

「おおい、燈ちゃん。怒ってるのぉ? あたしが何を知らないのか教えてよぉ」

 燈ちゃんはいつも冗談がキツイ。本当にあたしのことがどうでもいいみたいに言ってくれる。すごいポーカーフェイスだ。ま、冗談だって分かってるから、周りも険悪にならないし、あたしもへらへらと笑いながら缶ジュースを仰げるのだ。ごくごくごくり……じょうだんだよね。

「じゃあお教えしましょう。木立さんはレズだと思われています」

「ブッ……! ぐ……ごほっうっうん…………とぉもぉりちゃぁん。今あたしがジュース飲んだのを見てわざと早口で言ったね? 危うく乙女が口からオレンジジュースを撒き散らすとこだったよぉ」

 あたしはさっき、この子を差し置いて性格悪いなんて言われていたのだ。信じられない。

「でも木立、ホントに知らなかったの? 結構前から言われてるよ」

「え……今のも燈ちゃんの冗談じゃないの」

「違いますよ。どうして私が木立さんの為にわざわざ冗談なんて言わなくちゃいけないんですか」

 わざわざ暴言をありがとう。しかしあたしがレズ……百合……同性愛者……。

「思い当たる節がないなぁ」

「ほぇ、自分じゃ分かんないもんなのね。アタシは、そう思われても仕方ないかな、くらいには思ったけど」

「同じくです」

 と楼城ちゃんと燈ちゃんは言う。

 高校に入学して、約二年半。

 三年生の今に至るまで、そんなこと、考えたこともなかった。



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