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he・kneads・my・……




   信頼の安売り



 嘘なんてついていないよ

 私は全部ホントウだよ


 風はひっそりこう言って

 誰かに噂を運んでく


 狡いことなんてしてないよ

 私は全部キレイだよ


 川はひっそりこう言って

 汚れを水に流してく


 吝嗇なことなんてしてないよ

 私は全部ゴウカイだよ


 火はひっそりこう言って

 爪の上に灯してく


 誰も嘘をつかないのなら

 あたしは誰も

 信じなくても

 いいのにね






 人間不信と名乗った男子の眼前で、あたしが握ったボールペンは頑なにその場を動かなかった。

 あたしの手は、動かなかった。

「あれ、なんでかなぁ。手が動かない」

 膨れ上がった眼球に、このペン先を突き立てたいのに、あたしの運動神経が手の先まで繋がっていないかのように動きを止めてしまった。

「なんだ、やっぱり嘘か」

 人間不信は、期待はずれな人間を見る様な目であたしから目を離す。

「君、誰かに怪我をさせたり、暴力を振るったことないでしょ」

「そ、そんなこと」

 あれ、ない……のかな。ないかもしれない。

「そういうヒトは、珍しいよ。でも君には経験がない」

「それが、なんだってゆうのかな」

「とても素晴らしいじゃないか」

 なぜだか、頭に血が上る。今の一言が、無性に腹立たしかった。

「何を言っているの、あたしが素晴らしいなんて。君は見てたんじゃないの、さっきのあたしを」

「見ていたよ、さっきも見ていたし、人生罪戯の中でも、たくさんの人間を観察した。勿論、破壊衝動さんのことも」

「だったら知っているでしょう。あたしがどんな人間なのか。もう自分じゃ押さえられないの、気付けば何かを壊してしまう、このままだといつ誰を傷つけてもおかしくない、あたしはそんな奴なの」

 声を荒げてしまう。

 それでも、右手の凶器は動こうとしない。

「そうかい」

 興味がなさそうに言いながら、まるで興味深そうにこちらを見つめる人間不信。……人間不信。

「だけど僕は、君の言葉なんか信じていないよ。人間不信だからね」

「は……なにそれ」

 馬鹿にしたように言う彼に、赤い感情が募って行く。

「破壊衝動さん、君は自分の手が綺麗なことが許せないんじゃないかな」

 彼の言葉に、一瞬自分の手を見つめてしまう。当然、それが比喩だということは分かっているけど。

「いや、違ったかな。君の手はとても綺麗だから、自分の心が綺麗なのか分からないんだ」

 それは違う。そんなわけがない。

「もし自分が、何かを()()()()()()()時、ちゃんと自分には後悔することや、悔んだり悲しんだりする感情があるのか分からないんじゃないのかな」

「そんなわけない。綺麗な人間がものを壊したくなんてなるわけない」

「それは勘違いだよ。綺麗な人間は、言い替えれば、まだ綺麗な人間だ。汚くなんてすぐになれるさ」

「あたしは汚れてるよ。これが見えないの」

 足元に散らばった鏡や鉛筆、原稿の残骸を指差す。

「でも君は、誰も傷つけていないじゃないか。君が壊したのは、どう見ても、いくらでも代えの利きそうなものしかない」

 感情がドキリと脈打った。

 彼の言葉の通り、あたしの足元に、大切なものは転がっていない。

「だったら」

 それでも、認められない。自分の悩んできた罪が嘘っぱちだったなんて。

「だったら、あたしの悩みはなんだったのよ」

 右手に握り続けていた凶器――ボールペンを感情を吐き出すように地面に叩きつけ、人間不信の目を見つめた。

「じゃあ教えてあげるよ。やってしまった時の感情を」

 そう言うと、彼は周囲を一瞥いちべつした、多少のヒト目はあるが、大半のヒトは、関わりを持たない様に足早に通り過ぎて行く。

「よし、これでどうだい」

 なにが。と言い返しそうになったが、次の瞬間、彼の両手があたしの胸を掴んだ。

「ふんふん、うん、見た目より大きいじゃないか、君のおっぱい」

 一瞬で血の気が引いて、一瞬で頭頂まで血が上った。

「ふざけるな」

 叫びながら。

 生まれて初めて、あたしはヒトの顔をグーで殴った。




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