大切な、何か
かっこいいお兄様をずっと眺めていたいですが、お仕事ですものね。応援しなくてはいけません。
「お兄様、お仕事がんばってくださいね!」
「アリーシャ……! 行ってくる」
そう言ってサロンから出て行ったお兄様でしたが、なんだか動きがギクシャクしていました。口元や手が震えていたような気も……。まあ、気のせいですね!
「あらあら、お兄様ったらかわいそうに。あんな状態でお仕事に行って大丈夫かしら」
「きっと大丈夫よ、ルリリア。むしろうれしくていつも以上に働いてくるんじゃないかしらね」
「それもそうね。お母様の言うとおりだわ。さ、リーちゃん、お茶会にしましょ」
お姉様とお母様は二人で頷き合うと、そっくりな笑顔で私の手を取りました。輝くような素敵な笑顔がまるで双子のようで、少しうらやましいです。
そのまま席へと座らされ、お母様特製のベリータルトを食べている時に、何か大切なものを忘れているような気がしました。うーん。一体なんでしょう。
部屋中を見渡しましたが、特に何も思いつきません。テーブルに広げられたマフィンやティーカップ。花が刺繍されたレースのカーテン。花瓶に生けられたら白い花。穏やかに広がる雲一つない空……。何かすごく大切なもの。それが足りていません。何も変わっていない気がするのに、何かが決定的に違っている……。そんな違和感を感じます。
「お母様、模様替えをしましたか?」
「いいえ、していないわ。ねえ、あなた」
「ああ。城に忘れ物をしたのかい?」
「それが……わからなくて」
一体、何を忘れたというのでしょう……。




