お母様とお兄様
さて、お姉様とのお話も終わりましたし、そろそろサロンへ入らなくてはいけませんね。
だって、マリアさんがずっとサロンの扉の前で微動だにしないんですよ。申し訳ないです。
「マリアさん、お待たせしてしまってごめんなさい。開けてもらえますか?」
「ええ、もちろんです」
マリアさんが扉を開くと、サロンの中からなにやら甘い香りが。馴染み深いお菓子のような……ああ、わかりました。お母様特製の木苺を使ったタルトですね! 私がいない間に皆様だけで食べるなんて! ひどいです!
「お母様、私もタルトが欲し……」
「おかえりなさいアリーシャ。国王様と何もなかった?」
「は、はい。何もなかったですよ?」
お母様が会話を遮るなんて! びっくりです。優雅さを損なわない程度に駆け寄ってきたお母様は、私の頭を優しく撫でてくださいました。でも、国王様と何があるというのでしょう?
「髪型、まっすぐに戻ってしまったのね。くるくるのアリーシャもとてもかわいかったのに」
「雨に濡れてしまいましたから……。でも、お母様にそう言っていただけてうれしいです」
実を言うと私、くるくるの髪に憧れていたんですよね。だって、お母様もお父様もくるくるなんです。もちろんお姉様とお兄様方も。なのに私だけ……。誰とも少しも似ていないので、まるで血がつながっていないように感じたりします。そんなこと、あるわけないのに……ですね。
「おかえり、アリーシャ。本当に何もなかったのか?」
「もちろんです、ヒューお兄様。国王様には迷惑をかけてしまったので、後日お会いして謝りたいと思って……」
「俺が謝っておくから会わなくていい。そのほうがいいだろう」
「確かに、お兄様はお城に勤めていますものね。ではお願いします」
なんて優しいお兄様! デュークお兄様なら絶対にそんな風には言ってくれませんよ。アリーシャが会う必要も、謝る必要もないんだから! って言いそうですよね……。
今気づきましたが、お兄様のお召し物がいつも
と違います。黒い生地に金の薔薇の刺繍……騎士のお仕事のお召し物! わぁ~かっこいいです!
「お兄様、今日は家からその格好でお仕事へ向かうのですか?」
「ああ。早く国王を抹さ……に謝りに行きたいんだ。着替える時間が惜しくて」
「そうなんですか! かっこいいです!」
「あ、ありがとう」
照れてるお兄様も珍しいです。そしてすごくかっこいい!




