アリーシャの夢
どうやら私……夢を見ているようです。だって、私はここにいるのに、幼い頃の私が目の前にいるんです。
「おかあさまぁ、きいちごをつみにいきたいです」
「まあ。素敵ね、アリー。ならお父様も呼んでピクニックにしましょうか」
「はい! それならおはなのさいたイバラのドレスにおきがえします」
間違いなく幼い頃の私ですが……どうしてアリーなんて呼ばれているのでしょうか。誰も私をアリーなんて呼ばないはずです。
それに、あの女性はお母様ではありません。顔はまるで靄がかかったかのように見えませんが、髪の色が明らかに違います。お母様は優しいストロベリーブロンドのはずなのに、まるで私のような色をしています。
もしかしてこれは、私が大人になって子どもができた時の夢でしょうか。それならあの女性と少女が青いグラデーションの髪をしていることに説明ができます。でも、どうしてこんな夢を……?
今思うと、周りの景色にも全く覚えがありません。優しいりんごの香りも、白くて雲のようにふわふわしたソファーも、机の上の器に盛られた色とりどりの宝石も。まるで夢のように現実味がなく、永遠に続く微睡みのような穏やかさを合わせ持つ──そんな、空間。……夢だから、なのかもしれません。
「マリアさん、おきがえをてつだってくださいませんか?」
「ええ。もちろんですよ、姫様」
「ありがとうございます!」
あれは……マリアさん? でも、とても若くて雰囲気も少し違います。私の知っているマリアさんは穏やかなおっとりとした方ですが、あのマリアさんはどこか鋭い雰囲気を纏った生真面目そうな方です。でも、優しそうな目元はそっくりですね。
少女とマリアさんが部屋から見えなくなると、女性はふっと息をつきました。
「……早くどうにかしなくてはいけないわ。アリーとは離れなくちゃいけなくなることに覚悟しておかないと……」
悲しそうに手で顔を覆ったまま、女性の姿はふっとかき消されました。まるで風に吹かれたかのように儚く消え去ると、辺りは真っ白になっていきます……。
あの女性は、私ではないのでしょうか? あんな悲しみに暮れた私を、私は想像できません。せめてもう少しあの女性のそばにいることができたら──。




