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天然お姫様(※自覚なし)は恋愛に疎いです!  作者: ももせ
2章 ガーデンパーティー
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毛色の変わった令嬢ー国王様視点ー


 いくらやっても終わりが見えない書類に嫌気がさして、僕はため息を一つついた。もしここに宰相のデュークラントがいるなら、ため息ついてる間に書類三枚終わらせてください、なんて無茶振りをかましてくるところだけど、今日はそんな小言を言うあいつもいない。珍しく休みを申請してきたから、一生戻ってくんなという気持ちで受理してやったのは一ヶ月も前の話。


 あいつがいない一日なんて滅多にないから理由も読まずに受理してしまったが、なぜ今日だったのだろうか。いつも無表情のくせに、受理したことを伝えた時こっちがびっくりするくらい嬉しそうに笑うものだから、理由が気になる。

 確か公爵家の末娘が今年デビューだっけ。妹をエスコートしている可能性もあるけど、ルリリアがデビューの年は普通に仕事をしていたし、その線は薄いかな。そもそも、たかが妹のデビューにあれだけ笑顔を浮かべるなんて想像もつかない。あれは恋人とかそう言う類の笑みだったように思えるし。


 …ああそうか、恋人、その可能性はあるよな。かわいい恋人のデビュタントで、悪い虫がつかないようにエスコートするデュークラント…なんだそれ見てみたい。あわよくば恋人をネタにあいつをいじりたい。


 それにほら、今日はたまたま、本当にたまたまパーティー会場が一望できる部屋で書類を片付けているわけだし。ここから外を見ていたら、偶然デュークラントを見つけてしまう可能性だって十分ある、そうだろ?


 というわけで、僕は窓からパーティー会場の観察を始めた。


 このガーデンパーティーは、言ってしまえばデビュタントたちの覇権争いの場。本来のデビューは一週間後に開催される夜会だが、多くのデビュタントは前夜祭とも言えるこのパーティーに顔を出し、自身が所属すべき派閥を見極めるか、もしくはその派閥の頂点に立とうとしている。

 特に、デビューまでは人前に姿を現さない公爵家は注目されていると言えるだろうね。基本的には公爵家を頂点とする三つの派閥に別れているようだし、王族に嫁ぐのも公爵家が一番多い。つまり、王族に連なる公爵家の派閥に属していれば、貴族からしてみればあわよくばおこぼれをもらえるかもしれない、なんていう心境なんだろう。


 一つ例外をあげておくけど、ルリリアがデビューの時は、ガーデンパーティーで別れた三つの派閥が、本来のデビュタントのパーティーで一つになるという異例の事件が起きていた。公爵家の令嬢二人がルリリアの派閥に入ると宣言したことで、残りの令嬢は軒並みルリリアの元へ集まったらしい。ルリリア何したんだろ…。



 まあ、ルリリアの話はいいんだよ。それよりデュークラントだ…ああ、いた。やっぱり誰かのエスコートをしに来ているんだな。だが、今は一人、か。スイーツを山盛り皿に盛って、遠目でもよくわかる笑顔を浮かべているようだが、あれは本当にあいつか? あんなにキラキラしたデュークラントを見るのは初めてだ。顔はいいんだから常に笑っとけばいいのにもったいないよな。


 ここからはパーティーの様子がよく見えるから、デュークラントの相手ももしかしたら見つかるかもしれない、と思ったが、これがなかなか難しい。なにせ令嬢はたくさんいるし、デュークラントの好みもわからないときた。


 …あれ、なんだかものすごく見覚えのある人が。父上め、面倒な仕事は全部僕に押し付けて、自分はこっそりパーティーに参加してるなんてひどい人だよね。

 どうやら父上は誰かと話しているみたいだ。父上に隠れて相手が誰だかわからないけど、きっときつい香水をこれでもかと纏った自尊心ばかり高いご令嬢だろうね。デビューに浮かれるのはわかるけど、悪目立ちするからやめた方がいいよって誰か教えてあげればいいのに、親とかも止めないのかな。パーティーのたびに僕の権力に目が眩んだ令嬢に囲まれるけど、ほんと匂いがきつくて。一人ならまだしも、一斉に囲まれるから臭く感じるのかなぁ。


 なんて思っていたら、デュークラントに動きがあった。引きつった顔をしながら父上の方へ走っていく。あーあ、デュークラントに怒られるぞ、父上。


 皿を令嬢に差し出すと、デュークラントは父上と何やら話をしている。あの令嬢がデュークラントの相手か? それとも父上に絡まれていたお詫びだろうか。

 おっと、重ねていた書類が数枚落ちてしまった。面倒だな、なくすともっと面倒くさいことが待っているのを知っているから、急いで拾い集める。その間に下で何が起こっているのかを見損ねてしまったが、父上が令嬢を抱いて王宮へ走って来ているのが見えた。デュークラントが尻をついたまま間抜けにも手を伸ばしているが、一体何があったんだろうか。


 父上があの令嬢をどうする気なのかはわからないけど、これでゆっくりデュークラントを観察できる。



 デュークラントといえば、少し前までやたらと隣国の姫君との縁談を勧めてきていたな。あれは一体何だったんだろう。最近はめっきりなくなったから忘れていたが、そんなに隣国との関係を持ちたいならあいつが婚約でもなんでもすればいいのに。あいつだって公爵家の人間だし、姫君とだって十分釣り合うだろう…ああ、もしかして自分が婚約するのが嫌で、僕に縁談を勧めてきていたのかもしれないな。意中の相手がいるから、その人との縁談を望んでいたのか、うん、その線もありえるよね。


 コンコンコン


「…どうぞ」


 誰かが来たみたいだ。仕事中は近寄らないでって通達してるのに、『お茶の時間です』とかどうとか言っていつも押しかけてくる侍女かな、あれ本当に迷惑なんだよね、仕事の邪魔。令嬢でもあるまいし、お茶くらい自分で入れることだってできるのにな。


「お邪魔するよ、アルベルト」


 あれ、侍女じゃなかった。さっきまで令嬢を抱えていた父上じゃないか。デュークラントを見ていた窓から視線を外し、扉を見ると…ん? ん?!


 父上の首にキュッと手を回している何か。なんだあれ…なんだあれかわいい?!


 手も体も顔も小さいくせに、存在感だけはとてつもない美しい少女だ。目を引くのは、唯一大きい瞳と不思議な色合いの髪。その瞳はまるで星がきらめく夜を埋め込んだかのように神秘的で、その髪は夜から朝方にかけて移り変わる空の色合いをそのままに宿している。

 困ったように眦を下げた表情はひどく庇護欲を誘いつつ、小さな笑みを乗せたその表情からは目を反らせない。


 まるで人形だ。国一の人形師を呼んでも作れないような、精巧に作られた人であらざるもの。僕を見て息を飲んだ仕草だけが彼女が生きている人間なのだと証明している。


 僕たちは見つめあった。きっと一瞬のものだったんだろうけど、彼女と目が合った瞬間周りの喧騒がふっと消えた。まるで時間すら止まってしまったかのようで、息をすることさえ憚られる。


 ああ、ああ。僕はついに見つけてしまった。僕の理想を全て詰め込んだ完璧な女の子。妖精みたいに小さくて守ってあげたい女の子。父上、たまには役に立つじゃないですか!



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