手助けがありました
やっと着替えることができます、アリーシャです。
影さんがタオルをくださって、ちょっとうれしくなって……と、そこまではよかったのですが……。
一つ、困ったことがあります。着替えも、タオルもあって、いざ脱ごう! と思った時でした。私、普段はドレスでも簡単なものを着ているんです。リボンがたくさん巻きついていたり、ボタンがたくさんついていないものです。だから、一人でも脱げるんですよね。
でも、でも! 今私が着ているドレスは、腰と腕にリボンが巻き付いていて、背中にボタンがたくさんついているんです……! こ、これじゃあ脱げません。
「どうしましょう……。いっそ破りましょうか」
せっかくお姉様にいただいたドレスですが……国王様が待ってくださっていますもの。仕方ありません。こういう時のことを……そう、背に腹は代えられないと言うんです。お姉様が教えてくださいました。犠牲になるしかないんですよね……。
「ごめんなさいお姉様。後できちんと謝りますから、どうか許してくださいね」
私が腰のリボンに手をかけた時──
「姫様」
とても落ち着いた、聞き覚えのある声が聞こえてきました。この声は……
「マリアさん?」
「はい、姫様」
後ろを振り返ると、そこにはいつもと変わらない笑みを浮かべるマリアさんが。でも、どうしてここに? お母様たちが無理を言って、マリアさんを送り込んだのかしら?
「姫様、困ったときは私を呼んでくださいね。すぐに助けに参りますから」
マリアさん……。いつもそうですが、やはりマリアさんはすごいですよね。なんでもできますし、優しいですし。それに……すごく安心します。
「マリアさん……ありがとうございます。あの、このドレスを脱がせていただいても構いませんか?」
「もちろんですよ、姫様。さあ、後ろを向いてください」
私が後ろを向くと、マリアさんは私のドレスを脱がせてくださいました。身体に張り付いていた重いドレスがなくなると、少し寒さも和らぎます。
ふわふわのタオルで身体を拭いてもらって、そして新しいドレスまで着せていただきました。なんだか、全て任せてしまって申し訳ないです……。
「さあ、姫様。もう大丈夫ですね」
「はいマリアさん、ありがとうござい……あら? マリアさん?」
再び後ろを振り返ると、そこには誰もいませんでした。マリアさん、どこに行ってしまったのでしょう。まだ、マリアさんの優しい香りは残っているのに……
「不思議な方……。妖精みたいね」
儚く、姿をもう一目みようとすれば消えてしまう物語の中の存在。一度目を離すと、二度とそれは見ることができないそうです。
物語の話……ですよね。




