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天然お姫様(※自覚なし)は恋愛に疎いです!  作者: ももせ
2章 ガーデンパーティー
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ご対面

 パーティー会場を突っ切り、小さめの扉からお城へ入ったおじさまはやっと走るのをやめ、ゆっくりと歩きだしました。なるべく人の少ないところを通ってくださったのでしょうが、すれ違う人からは胡乱げな目を向けられてしまいました。さすがの私も他人の腕の中でのマナーは習っていないものですから、ひとまず大人しくしていましたよ。


お城に入ってから途中ですれ違う使用人は道の端へ移動し、深く頭を下げていらっしゃいます。やはりおじさまは前国王陛下なのだと改めて実感させられました。そんな人に抱きかかえられている私…私でさえいまいち状況がわかっていないのに、他人から見ればもっと不可解でしょう。ひとまず顔だけでも隠そうとおじさまの首元に顔を埋めましたが、一番隠したいのは髪なんですよね…だって目立つんですもの。



 入ってきた扉から随分と角を曲がると、人の気配がほとんど感じられなくなりました。ずっと顔を隠しているのも暇ですし、ちらっとだけおじさまの肩越しに目だけ出してみました。

 ああ、さすが王宮、綺麗ですねぇ。真っ白の壁に描かれた薔薇のイラストが可憐で、小さなシャンデリアがとてもかわいらしいです。おじさまと同じで、特別豪華ではないのに上品な感じがして好感が持てますね。こんな状況でなければゆっくりと鑑賞したいのですが、こんな状況以外で王宮に入るなんて滅多にないでしょうし、この装飾が見られただけでも運が良かったと思うことにしましょう。


 ところでおじさまは、どちらに向かわれているのでしょう? 時折私の顔をちらりと見て優しそうに微笑まれますけど、少しニヤついて見えるのは私の目がおかしいからなのでしょうか? 心配です。なんとなく想像はついていますけど…さすがにそれはないですよね、と思っています。


「…どちらに向かわれているのですか?」

「大丈夫、もうすぐそこだよ、ほら」


 わからないことは聞くって大事ですよね。

 おじさまが指差したのは、少し先にある扉。おじさまの歩幅ならほんの数十秒でたどり着きます。この扉一見簡素ですけど、よく見ると細かい青の薔薇の装飾が。繊細なお仕事ですねぇ…またまたさすが王宮と言いましょうか、細部に至るまで工夫が施されていてどこを見ても退屈しません。


「何の部屋だと思う?」

「何の部屋、ですか…」


 知っている訳がありません。王宮なんて初めてですし、むしろ知っている方が問題ですよ…って、おじさまのニヤつきが増しています。怖いです。


「ノックしてみて、返事が返ってきたら入るからね」


 中に誰かいらっしゃるのですね。だんだん想像が確信へと変わっていきます…今更ですが緊張してしまいます。そもそも、正式な手順を踏まずお会いするなんて許されるのでしょうか…おじさまは私をノックしやすいように抱え直すと、ニヤニヤとした、ではなく期待に満ちた笑顔を私に向けました、麗しいです。これは覚悟を決めないといけませんね。


 コンコンコン


「…どうぞ」


 やっぱり男の方ですね。声を聞く限りまだ若そう…二十歳くらいでしょうか。男性の割には高めの優しい声です。国王様の声を聞いたことがないので誰かはわかりません、ええ、つまり国王様ではない可能性も…え? ない? そんな可能性は微塵もない? …はぁ、やっぱりそうですよねぇ。

 確かに、国王様にお会いするのを了承したのは私です。でもまさかこんなにトントン拍子に、なんの準備もなくお会いするなんて思ってもみなかったんですよ。普通ならお伺いを立てますし…こんな突然お会いするなんて不敬じゃないでしょうか。


 そもそも、国王様は休憩中なのでしょうか? もしお仕事中でしたらぜひ時間か日にちを改めて…だって、お仕事の邪魔はよくありません。一人の仕事が遅れれば全体が遅れてしまうとデュークお兄様がよくぼやいていました。いくら公爵令嬢といえども所詮は国王様にお仕えするしがない貴族の一人。その程度の人間が偉大なる国王様のお仕事の邪魔をするなんて…ダメに決まってます!


「お邪魔するよ、アルベルト」


 ああやっぱりですか…アルベルトとはすなわち国王様の名前です。国王様じゃなくておじさまのお知り合いとかだったらいいな、なんていう淡い期待は打ち砕かれてしましました。普通の貴族ならともかく、相手は国王様、もし私が下手をすれば王宮で働くお兄様方だけでなく、家族皆に迷惑をかけてしまいます。ラングー公爵家の名を背負って私は国王様にお会いするのです…ここは気を引き締めなくてはいけません。


 まぁ私が粗相をするかもしれないという話は置いておいて、それよりもやはり国王様のお仕事を邪魔するのはよくないことですよね? おじさまがそばにいてくださいますし大丈夫だと信じたいです。だって、国王様のお父様ですもの。きっと私なんて目もくれず、おじさまとお話しするに違いありませんよね? ね?


 なんていう私の心の葛藤には気づきもせず、おじさまはぱっと扉を開けてしまいました。



部屋の中にいらっしゃったのは、一人の麗しい男性でした。甘い、蜂蜜を溶かしたようなサラサラとした黄金の髪。晴れた空を宿す優しげな垂れ気味の瞳。憂うように外を見つめるその横顔は、まるで一つの絵画を切り取ったかのように、それはもう筆舌に尽くしがたい美の権化でございました。

 パーツの一つ一つが計算された物であるかのように完璧で、完璧過ぎるが故に一種の恐怖すらも感じます。

 椅子に座っていらっしゃったのですが、それでも分かる長身。すらりと伸びた長い足を窮屈そうに組んだ姿勢にすら、そこはかとない気品を感じられるお姿です。



 でも…典型的な国王様って感じですね。ほら、絵本に出てくる国王様ってだいたい黄金の髪だったりするじゃないですか。いえ、とても美しいですよ。光り輝いてます。確かにお兄様方よりもキラキラ度は高いですとも。ただいかにもな感じでちょっと拍子抜け、って感じです。



 私たちが入ってきたのを確認するためか、国王様は窓からこちら側へと視線を向けました。国王様と私の目が交差し、視線はそのままおじさまへと…向かった後、なぜかすごい勢いで私の元へと帰ってきました。カッと見開かれた目に私は固まってしまいます。え、だって突然すぎて怖い…。

 私が国王様を見て驚いたように、国王様も私を見て驚かれたようです。不審者だと思われたのでしょうか? おじさま、私が何かの罪で捕らわれそうになったら助けてくださいね!



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